- 作者: 三宅陽一郎
- 出版社/メーカー: マイナビ出版
- 発売日: 2017/08/30
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内容紹介
AIは人の言葉をどう理解しているのか?
話題の「人工知能(AI)」ですが、人の言葉を理解する会話人工知能の飛躍的な進歩によって、接客や窓口業務、ユーザーサポートなどが人工知能に置き換わり、人間の仕事が奪われる、などといった話も耳にします。
その人工知能ですが、いったいどうやって人の言葉を理解しているのでしょうか?
第三次AIブームと呼ばれていますが、かつての人工知能には不可能だったことが、なぜいま可能になったのでしょうか?
人工知能は、人間の言葉をどう解析・処理し、回答をするのでしょうか?
それはどういった最新の技術によって可能になったのでしょうか?
また今後はどうなっていくのでしょうか?
その仕組みがわかる一冊です。
人口知能が人と「会話」できる仕組みについて。
なかなか興味深いテーマだなあ、このそんなに厚くもない新書一冊である程度理解できるのだろうか、と思いつつ読み始めました。
うーむ、率直なところ、けっこう難しいよこの本。
ある程度人工知能とか言語学についての予備知識がないと、ついていくのは厳しいのではなかろうか。
著者が「読者はこのくらいは知っているはず」と設定しているラインが、けっこう高いんですよね。
人工知能に関して書かれている本のなかには、けっこう、そういう感じのものが多いのだよなあ。
そもそも、新書一冊で語りつくせるようなテーマではないのだろうけど。
人工知能と人との会話のシステムを説明するには、まず、「言葉とは何か」と定義することが必要になるのです。
そこからきちんとやろうとすると、ソシュールとかヴィトゲンシュタインとかが満を持して降臨してくるわけで、僕の頭はもう、大混乱です。
それでも、「何かわかったような気分には、なんとなくなったような気はする」のですが……たぶんわかってないよね、僕は。
人工知能って、天才向けの世界なのかな、なんて考えずにはいられません。
これを読んでいると、人間っていうのは、けっこうすごいことをやっているんだな、とあらためて思い知らされます。
人工知能の場合にも、世界を理解するために、世界に対していろいろ記号を割り振っていきます。世界を記号化して理解する人工知能のことを「記号主義による人工知能」といいます。世界に対してシンボル(言葉)を割り当てることを「シンボル・グラウンディング」(Symbol Grounding)といいます。
言葉とモノは一対一で対応するわけではなくて、むしろ、人はある意味暴力的に言葉をものに割り当てていきます。「イス」という言葉を正確に定義することはとても難しいことです。4本足の上に平面があるもの、といっても、丸太のようなイスもありますし、岩が窪んでいるところを「イス」のように使うこともできれば、街中の植木のブロックを「イス」として使う場合もあります。
人間は「座れることができるものをイスというのだ」というように、行為から言葉を定義します。ところが、身体を持たない人工知能、あるいはボディは持っていても身体性を持たない人工知能によって、そのように行為から言葉を定義するのは難しいことです。
あらためてそう指摘されていれば、確かにそうですよね。
「イス」でいえば、人間は、典型的な造形のイスじゃなくても、かなりの柔軟性をもって、座れるものを「イスとして扱える」のです。もちろん、「これがイス?」なんて意見が分かれる構造物は存在するとしても。
こう思うと、世界に対してシンボル(言葉)を割り当てる、ということが生物にとっても飛躍的進化のトリガーであり、人工知能にとっては今なお難しい問題であることがわかります。これを「シンボル・グラウンディング問題」といいます。
これに対して、世界を記号化せずに脳の回路を模したニューラルネットワークという信号処理のシミュレーターを用いる方法を「コネクショニズムによる人工知能」といいます。
2010年代に入ってからの人工知能の飛躍的な進歩には、人間と同じようなシンボル・グラウディングのプロセスをコンピュータで再現する」というアプローチから離れて、その機能・結果を再現するための最適な方法を探り当てようとしたことが大きいのではないかと思われます。
人間と人工知能との間で、いかにコミュニケーションが取れるか、ということについて、この本では主に言語を通して探求してきました。そして、我々にとっての言語が人工知能にとっての言語ではない、また逆に人工知能にとっての言語が我々にとって言語ではないかもしれない、我々は自分たちの自然言語を人工知能に押し付けているだけではないのか、という気さえしてきます。
もちろん、人工知能が世の中に役に立つためには、自然言語を理解し、人間の意図を理解し、コミュニケーションが取られねばなりません。しかし、それは少し一方的な話で、人工知能は人工知能なりの言語があるのではないか、と思われるわけです。
最近の人工知能の劇的な進化をみていくと、人間はあっという間に追い抜かれてしまうのだろうな、と考えずにはいられません。
その一方で、「シンボル・グラウンディング問題」をみると、まだまだ人間と同じというわけにいかないな、とも感じるのです。
人工知能の進化への大きな障害は「人間という弱点が多くて偏った生き物にわかりやすくなければならない」という制約があることなのかもしれません。
もっと「人工知能にとって使いやすい言語やコミュニケーション手段」がきっとあるのだろうけど、彼らは人間のレベルに合わせることを求められているのです。
そんなふうに考えると「世界のためには人間は邪魔だという結論を出す人工知能」が、いずれ出てくるのではないか、と心配になってくるのです。
人間が人間として進化するスピードより、人工知能が人工知能を進化させるスピードのほうが、ずっと速いだろうし。
『シーマン』の会話システムについての開発者の講演の一部が紹介されていたりして、「将棋や囲碁だけではない、ゲームの世界で『会話できる人工知能』」に興味がある人には、楽しめる新書ではないかと思います。
ただ、けっこう難しいので、「はじめての人工知能についての本」には、あまり向いていないかもしれませんね。
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