琥珀色の戯言

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【読書感想】「意思決定」の科学 なぜ、それを選ぶのか ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
「選択」を決めるものとは?なぜ、自分は人と違う選択をするのか?その背景を「意思決定理論」が明らかにする。その中心をなす「期待効用理論」から行動経済学の重要理論である「プロスペクト理論」その他、さまざまな状況下での選択について実験をとおし、わかりやすく解説していく。


 人は、何を基準にして、「決断」するのか?
 自分のことって、わかっているようで、意外とわからないですよね。
 僕はよく行く店で、「今日こそは違うメニューを注文してみよう」と思いながら席につくのですが、店員さんを前にすると、やっぱり「いつもの」を頼んでしまうのです(まあ、この本の内容には、あんまり関係ない話なんですけど)。

 この『「意思決定」の科学』、正直、読み始めるまでは、もっと気軽な読み物か、心理テストみたいなものだと思い込んでいたのです。
 ところが、けっこう複雑な数式がたくさん出てくる、本格的な「意思決定理論の入門書」になっているのです。
 著者は「高校生にもわかるように書いた」と仰っているのですが、完全に理解するためには数学的な思考力と自分で手を動かしてみる好奇心がないと難しいのではなかろうか。これが「わかる」高校生は、かなり数学ができるはず。
 ちなみに僕は、途中から数式はとばして、流し読みしてしまいました。佐藤優さんが、「大人になってから、数学をちゃんと学び直しておいたほうがいい」と書いておられましたが、本当にそうだなあ、と思います。

 失敗しない選択をしたい、あるいは「正しい」選択をしなければならないとき、その手助けをしてくれるのが、本書で取り扱う意思決定理論です。これは近年ブームになっている行動経済学と呼ばれる分野とも関係するもので、たんに意思決定理論といってもそこにはかなり広範な分野が含まれます。
 そこで、本書では、ジョン・フォン・ノイマン(1903‐1957)とオスカー・モルゲンシュタイン(1902‐1977)がその著書『ゲームの理論と経済行動』の中で定式化を行った「期待効用理論」を基に発展してきた理論を中心にしながら、行動経済学を含む最新の研究までを取り上げることにします。
 本書で取り扱う意思決定理論の特徴は、「公理」と呼ばれる一連の望ましい選択のあり方(パターン)を規定するルールと、「効用関数」と呼ばれる、選択の結果の良し悪しを数値的に判断するための数学的な手法を用いていく点にあります。こうした公理や効用関数は選択肢に対する人の好みのあり方、つまり「選好」を表すものです。
 意思決定理論の研究では、人の選好を公理という形で一連のルールとして規定し、この公理を整合的な選択をする人は、その公理に規定された選好を数値的に表現する効用関数の値を最大にするような選択をすることになる(その逆も真である)、という理論を構築します。その代表的な理論が期待効用理論になります。
 では、もし人がある公理に反する選択をした場合、言い換えると、ある効用関数の値を最大にしない選択をした場合、その人は「正しくない」選択をしたということになるでしょうか? わたしたちは、数学的に計算して出た結果と違う選択をすると、「正しくない」と判断しがちなのです。
 しかし、ここで覚えておいていただきたいのは、意思決定理論においてある選択が「正しい」か「正しくない」かは、その前提となる公理を認めているか否かに依存するということです。言い換えれば、違う公理を前提とすれば、それに対応する効用関数も違うものになり、その値を最大にする選択も異なるものになります。ですから、ある公理を「正しい」と信じている人から見て「正しくない」と見える選択をしている人は、違う公理を前提とした効用関数を最大化しているのかもしれないのです。つまり、公理の数だけ「正しい」選択があるということになるのです!


 僕は「正しい選択をするには、どうしたら良いのか?」を知るためにこの本を読み始めたのですが、著者が紹介しているさまざまな理論に基づいて考えていくと、「人はみんな、それぞれの判断基準で、『本人にとっては正しい』選択をしている」ということなんですね。

 あなたは株式投資を行う投資家だとします。あなたの手元には、100万円の資金があり、この一部または全部を使って投資をします。もちろん投資を行わずに全額を手元に残しておくこともできます。
 投資に使用した金額は、1/2の確率で2.5倍に増えますが、1/2の確率で0円になるものとします。
 では、あなたなら投資金額をいくらにしますか?
 金額は0から100までの整数の中から選択してください。


 僕はこの問題をみて、この投資の「期待値」は、1円あたり1.25円(100万円なら125万円)になるから、全額ぶち込むのが正解だな、と思ったんですよ。
 理論上は、そうなるだろう、と。

 しかしながら、現実に手元に100万円あったとして、本当にそんな賭けをやるかと言われると、「失敗したときにゼロになったらキツイよなあ……」と逡巡し、50万円くらいにしそうな気がします。

 もしこの100万円が全財産で、失ってしまったら生活していけなくなる状況であれば、期待値が高くても、リスクは避けて投資はしないと思います。

 「期待値」からいうと、「100万円全部投資するのが正しい」のだけれども、それは「期待値を公理とする人」にとっての「正しさ」ということなのです。

 人は、それぞれの考え方や置かれた状況によって、「自分にとって正しい選択」をしているのです。
 逆にいえば、「自分が意思決定する際の傾向」を知っていれば、こういう投資の機会があったときに、「あまり気乗りがしないけれど、自分はリスクを過剰に考える傾向があるから、期待値を考えて、今回はリスクを取っても良いのではないか」というふうに「軌道修正」する手掛かりにもできそうです。
 その「意思決定のプロセス」が、研究者たちのこれまでの成果をもとに、きっちり数式やグラフで検証されているのもポイントです。
 まあ、正直なところ、僕の数学力では、数式は理解が困難で、これが本当に正しい、と自分で判断はできないのだけれども。
 とにかく「ちゃんとしている新書」なんですよ。「さすが、ブルーバックス!」みたいな気分になります。
 そして、「僕もちゃんと数学を勉強しておけばよかったな……」と後悔してしまいました。


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