琥珀色の戯言

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【読書感想】犬がいた季節 ☆☆☆☆

犬がいた季節

犬がいた季節

  • 作者:伊吹 有喜
  • 発売日: 2020/10/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


Kindle版もあります。

犬がいた季節

犬がいた季節

内容(「BOOK」データベースより)
ある日、高校に迷い込んだ子犬。生徒と学校生活を送ってゆくなかで、その瞳に映ったものとは―。最後の共通一次。自分の全力をぶつけようと決心する。18の本気。鈴鹿アイルトン・セナの激走に心通わせる二人。18の友情。阪神淡路大震災地下鉄サリン事件を通し、進路の舵を切る。18の決意。スピッツ「スカーレット」を胸に、新たな世界へ。18の出発。ノストラダムスの大予言。世界が滅亡するなら、先生はどうする?18の恋…12年間、高校で暮らした犬、コーシローが触れた18歳の想い―。昭和から平成、そして令和へ。いつの時代も変わらぬ青春のきらめきや切なさを描いた、著者最高傑作!


 『2021年ひとり本屋大賞』8作品め。

 著者の伊吹有喜さんは1969年三重県生まれ。僕とほぼ同世代であり、この連作短篇小説の最初の話の主人公たちとも同じ世代です。

 学校で飼われることになった捨て犬「コーシロー」が、高校を卒業して東京に出ていったり、地元に残ったりしていく若者たちを見守っていく、という話なのです。
 時代によって流行り廃りや世の中の考え方の変化はあるものの、「高校生」っていうのは、人間にとって、めんどくさくて、美しい時期なんだよなあ、とあらためて感じます。
 いや、僕の高校時代は、男子のみの進学校で、そんな甘酸っぱい系の思い出とは無縁で(同級生のなかには、けっこう他校の女子とがんばっていたヤツもいたんですが)、日々、本を読み、寮ではできないテレビゲームやマイコンのことばかり考えていました。
 そんな僕でも、この本を読むと、「青春時代のアウトソーシング」ができるような気がします。

 F1ブームの熱狂とか、その時代に流行っていた歌とか、「女の子は『いい大学』に行かなくても、地元のそこそこの大学で十分」と多くの親が考えていた時代のこととか、本当に、いろんなことを思い出すんですよ、これを読んでいると。
 あの時代は、なんであんなに素直に欲しいものを欲しいと言うことができなかったのだろう?(今でもできないんですけどね)
 逆に言えば、いろんなことに不安と不満を抱きつつも、痩せ我慢できていたような気がします。
 あの頃の僕は、今よりも、ずっと「大人」だったのではなかろうか。

 親友や恋人どうしの関係を描くのではなく、誰にでもひとつやふたつはありそうな(まあ、たぶん実際はないんですけど)話ばかりなんですよね。
 「学校」という枠の日常のなかでは、あまり親しくなかった同級生や先輩・後輩と、何かの拍子に濃密な時間を過ごすことがある。
 それをきっかけに親友になった、ということもないのだけれど、「あのとき、なぜかアイツが一緒にいたことが忘れられない。本当に『あのとき』だけだったんだけど……」って。

 正直、「犬、あんまり関係ないのでは?」という短篇もありますし、犬が「これは恋の匂い」みたいな解説を加えるのは、蛇足というか犬足ではあるんですよ。ちょっと気持ち悪かった。犬は何も言わない、人間の言葉が通じないからこそ、人は犬に心を開けるのではないか、と僕は思っているので。

 綺麗ではあるけれど、御都合主義だな、と感じるところも、青春こじらせ男としては少なからずあります。

 ただ、僕も半世紀くらい生きてきたので、「まあ、フィクションの中でくらい、いろいろあったけれど、努力が必ず報われるというか、想いが繋がっていくような人生があってもいいよな」と感じるようになったんですよ。
 やっぱり、少しは「大人」になったということなのかな。

 正直、現役の中高生が読んだら、どうなんだろう?時代背景の小道具を楽しめないと魅力半減かな、とは思います。僕の場合は「同世代感」でかなり評価がアップしましたし。
 各章が、最後につながるというのも、美しい大団円ではあるけれど、マンネリ感は否めない。最近こういう連作短編集が『ブランチ本』として氾濫しているし。
 ただ、この作品に関しては、そのマンネリ感が、ノスタルジーに浸らせてもくれるのです。
 単行本の装丁に隠された仕掛けも、美しい。

 あらためて思い返してみると、僕がリアルに18歳くらいのときは、「青春とか言ってる奴ら、みんな死ね!」とか思っていたんですけどね……


昭和の犬 (幻冬舎文庫)

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