琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】アラフォーウーバーイーツ配達員ヘロヘロ日記 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

料理を店まで取りに行き、注文者の元まで配達すれば仕事は終了。ただそれだけ。
スマートフォンと配達するための自転車やバイク、あとはバッグさえ購入すれば、すぐにでも始められる。それがウーバーイーツの仕事だ。いつ働こうが個人の自由。
しかし、世の中はそんなに甘くない。ネットやSNSでは「ド底辺」とののしられることもしばしばだ。

苦情、恫喝、ときどきチップ。

これは、「誰でもなれる」という落とし穴に落ちた四十路ライターがつむぐ、悲哀と憂鬱の実録ドキュメント。
蔑んでもいい、罵ってもいい。
でも、ここで描かれているのは未来のあなたかもしれない。


 ウーバーイーツ、けっこう話題になっているけれど、僕が住んでいる地方都市では、見たことないな、とずっと思っていたんですよ。
 でも、新型コロナ禍が顕在化してきた2020年の春ごろから、けっこう「ウーバーイーツ」の配達をしている人たちを見かけるようになったんですよね。
 今ではもう、日常の風景であるのと同時に、車を運転していると、配達員に「けっこう危なっかしいなあ」と感じることも多くなったのです。

 ウーバーイーツの仕事は簡単です。スマートフォンと配達するための自転車やバイク、あとはリュックさえAmazonなどで購入すれば、誰でもすぐに始められます。

 料理を店まで取りに行き、注文者の元まで配達すれば仕事は終了。ただそれだけ。ひとつ配達すれば最低400円ほどが収入となります。
 スマホのアプリを立ち上げて「出発」のボタンを押せばいつでも働くことができて、「終了」のボタンを押せば仕事を終えることができるという働き方は画期的で、コロナ禍の中、急速に世間に浸透し、全国に広がりを見せています。

 僕自身はウーバーイーツで働いたことも注文したこともないのですが、緊急事態宣言下の松屋で、食事どきにテイクアウト待ちのお客さんが大勢いるなかで、ウーバーイーツの人が延々と待たされているのを見たときには、大変な仕事だなあ、と痛感しました。
 そのときは、松屋の店員さんもてんてこ舞い、調理に1人、接客に1人の状態で、次々に来るネットでの注文をさばき切れず、店内はテイクアウト待ちの人で溢れていたのです。
 営業時間が短く、限られているからこそ、こんなに密な状態になるわけで、緊急事態下での営業時間制限って、かえって悪影響ではないか、とも思ったのです。
 
 そのときの、ウーバーイーツの配達員のイライラした様子は、ずっと忘れられません。その配達員は、別に誰かに文句を言ったり、暴れていたわけではないんですが、その苛立ちは、周囲にも伝わっていたのです。

 この本を読んでわかったのですが、どれだけ店で待たされても配達料は変わらないし、注文が多い時間帯が潰れてしまうし、注文先からは遅いことでクレームが来るかもしれない。でも、店員さんは一杯一杯の状態で見ていてかわいそうなくらいだし、「やり場のない苛立ち」とは、まさにこういうものだったのでしょう。

 僕は正直、ウーバーイーツの配達なんて、単価は安いし、身分やトラブルに対する保証はないし、人がAI(人工知能)にこき使われるような仕事だな、と考えていたのです。働くにしても、もっと安定していて、まとまったお金を稼げる仕事があるだろうに、とも。

 でも、この本で、放送作家をやりながら、副収入とともに、運動不足解消(糖尿病に対する運動療法にもなる)を目的としてウーバーイーツをはじめたという著者の話を読んでみると、ウーバーイーツの配達員というのは、合っている人にとっては、悪くない働き方なのかもしれないな、と思えてきました。

 1回最低400円なんて安い、かというと、東京都の2020年の最低賃金(時給)が1013円だそうですから、1時間に2.5回くらい配達すれば、そのくらいは稼げることになります。自転車やバイクなどの移動手段やウーバーイーツのバッグなどのコストはかかるし、時間帯によって注文数に波がありますが、うまくやればけっこう稼げるし、自分の好きな時間、あるいは可能な時間にやればいい、というのは、大きなメリットでもあるのです。
 それに、ウーバーイーツの配達には、ちょっとした「ゲーム性」みたいなものが採り入れられていて、配達員のモチベーションを高める工夫もなされているのです。

 配達員の報酬には、次の2種類がある。

(1)「基本料金」+「距離料金」+「ピーク時間帯ボーナス」の通常報酬
(2)「規定の配達回数をクリアするともらえる」クエストボーナス

 通常報酬というのは、私が勝手につけた名前だが、いわゆる普通に運んだときにもらえるお金のことだ。
 地域によって基本料金や距離料金は異なるが、東京エリアの場合、基本料金が340円ほどで、距離料金は1キロあたり60円。店から1キロ先の配達先まで料理を運ぶと400円がもらえる計算になる。

 ピーク時間帯ボーナスには2種類ある。ひとつはあるエリアで注文が突然殺到したときに、アプリの画面に現れるボーナスで、昼食時や日曜日に渋谷などの繁華街によく出てくる。このボーナスが表示されたタイミングで配達依頼を受けると100~350円ほど報酬がプラスされる。つまり1キロ運んだら最大で750円がもらえる。

 もうひとつのピーク時間帯ボーナスは、1週間ほど前から予告されるブーストボーナス。これは、ランチタイムの丸の内エリアなど、混雑が予想されそうな時間帯で発生するボーナスで「×1.2倍」というようなボーナス。
 もし「×1.2倍」のボーナスが発生しているエリアで1キロ運んだら400円の1.2倍、480円がもらえる。さらに「×1.2倍」のボーナスタイム中に、突然350円のボーナスが現れた場合、1キロ運ぶと750円の1.2倍、900円がもらえる計算となる。

 クエストボーナスは、一定基準の配達回数をこなすとボーナスがもらえるシステム。

 毎週月曜日から木曜日の4日間で規定回数をクリアするともらえる平日クエストと、金曜日から日曜日の3日間でもらえる週末クエスト、そして雨の日などの注文が特に増えそうな日にアプリの画面に突然現れる、4時間半で12回運ぶとボーナスがもらえる緊急クエストがある(平日クエストなどのネーミングも私が勝手に付けたものだ)。
 平日クエストと週末クエストで指定される回数や金額は、配達実績によって変動する。私の場合、2019年末年始はお金がなくバリバリ配達していたので週末クエストは100回運べば1万9500円のボーナスとなっていたが、現在は30回運べば3300円のボーナスなど、回数を自由に選べる方式に変更された。
 ごちゃごちゃとシステムを並べたてたが、ざっくりいうと、朝8時から22時~23時ぐらいまで働くと、東京都内の自転車配達員の場合1日平均1万5000~2万円稼げる(ただし、クエストボーナスを達成した場合だが)。


 もちろん、みんながこれだけ稼げるわけではありませんし、東京というのはウーバーイーツの需要が飛びぬけて多いのではないかと思われるのですが、要領よく働けば、けっこう稼げるのだな、と驚きました。
 お店や配達先からのクレームや交通事故のリスクなどもあるとはいえ、アルバイト先の人間関係の煩わしさや拘束時間に耐えられなかったり、どうしても出勤時間が守れなかったり、あるいは、隙間に稼ぎたい、という人にとっては、ウーバーイーツは「自由度が高い働き方」として受け入れられているのです。
 効率よく立ち回ることによって、「ボーナス」が出る、なんていう、ゲーム的な「ハマる」要素もあるんですね。
 著者によると、報酬が週払いで、毎週月曜日から日曜日まで働いた分の報酬は、翌週の水曜日、遅くても木曜日には支払われるという「支払いの早さ」も魅力なのだそうです。

 スマートフォンの電池残量や電動アシスト付き自転車の電池残量の重要性や、有名人からの配達依頼はあるのか?という疑問、実際に配達していて起こったさまざまなトラブルなどにも触れられていて、実際にウーバーイーツの配達をはじめてみよう、という人にとっても、参考になる内容だと思います。
 客側からみて「ウーバーイーツで絶対に注文してはいけない商品」も紹介されているのですが、その理由を読むと、なるほどなあ、と感じました。
 世の中には「そんなものをわざわざお金を払ってウーバーイーツで配達してもらうのか……」と驚くような注文も少なからずあるみたいです。
 まあ、お金持ちがどうしても食べたいものが、高級な料理ばかりではない、というのは、けっこう「わかる」ような気もするんですけどね。

 ウーバーイーツの普及によって、店側もさまざまな工夫をしているのです。

 配達用のスタッフを募集したり、チラシを作ってデリバリー開始を周知することを考えたら、ウーバーイーツの導入は圧倒的にお手軽。
 しかし、誰もがスマホを使って注文するアプリだからこそ生まれる新たな苦労もある。
 私がその苦労に気がついたのは、配達員となってから半年ぐらいたった頃のことだった。配達依頼を受け、新橋に向かう私。仮にこの店を「焼き鳥一筋 陽ちゃん新橋店」としよう。
 店の注意書きの部分を見てみると「店の正式な名前は『居酒屋陽ちゃん』です」と一言添えてあった。普段は焼き鳥がメインの居酒屋なのだろう、焼き鳥丼の香ばしい匂いが確かにおいしそうだった。
 そしてその数日後、今後は「本場博多の味 もつ鍋陽ちゃん新橋店」からの受け取り依頼が入る。商品を受け取るため指示された場所に行ってみると、果たして例の「居酒屋陽ちゃん」だったのだ。
 さらに別の日には「お魚ランチ 陽ちゃん弁当新橋店」に取りに行くと、またまた受け取り先は「居酒屋陽ちゃん」だった……。
 なぜ料理ごとに店の名前を変えるのか? 実はここに、中小の飲食店の企業努力があるのだ。
 よくよく考えてみたら、ウーバーイーツで食べたい料理を探しているときに、「居酒屋陽ちゃん」と書かれていても、私だったらまず間違いなくスルーする。居酒屋のランチは安いから食べるのであって、デリバリーするほどのものではない。
 店舗もそれがよくわかっているから、売りにしているメニューを店の名前に出すことで注目を集め、「本場」といったような言葉で付加価値を上げようとしているのだ。


 調理場だけがあって、さまざまな料理をつくり、スマートフォンにそれぞれの売り文句を並べてウーバーイーツでの配達で商売をしている店もけっこうあるそうです。

 新型コロナ禍は世の中を大きく変えてしまいましたが、そんな中でも、人間は商魂たくましく「適応」していくみたいです。
 生きているかぎり、「食べる」という行為からは逃れられないですしね。


アクセスカウンター