琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】トークの教室: 「面白いトーク」はどのように生まれるのか ☆☆☆☆☆


Kindle版もあります。

トークに悩める全人類&ラジオファン必読!
数多の才能を見出した放送作家がそのトーク術をついに皆伝。

オードリー 若林正恭さん推薦!!
「この教室の授業のせいで、痛い目にあった時に
 「儲けた〜」と思ってしまう身体になりました。」

本書は、数多の新人アイドル、芸人に寄り添い、巧みなアドバイスで彼らのトーク力に磨きをかけてきたメンター、放送作家藤井青銅氏がそのトーク術についてまとめた一冊です。

トークの途中がおもしろければ、オチは無くてもいい」
「誰かに聞いてもらうことで、話し方のコツを見つけた人は伸びる」
「〈心の動き〉を切り口にすれば、トークの題材には困らない」
「キャラを作ったり、背伸びしたり、パブリックイメージになんて、合わせなくていい」…etc.


 僕は芸能人ではないし、人前でスピーチをする機会が多くあるわけでもありません。
 それでも、仕事で初対面の人と会うことは多いし、「面白い話をして、自分に好感を持ってもらいたい」という野心は心に抱いています。
 50歳を過ぎた今は、「基本的に、なるべく機嫌よく、相手の話を聴く姿勢でいればいいや」という感じなのですが、若い頃は、人見知り、口下手、愛想なしでもあり、座を盛り上げることができる「トーク上手」の人が本当に羨ましかったのです。

 同じ人間で、同じ学校・職場に通っているはずなのに、なんでこんなに語れる世界が違うのか?

 極度の対人恐怖症、という場合には、専門的な治療が必要だと思いますが、「全然喋れないわけではないけれど、自分が喋ると今ひとつ盛り上がらず、もう少し周りを惹きつけられるトークができればいいのに」という人には、非常に「刺さる」本だと思います。

 著者は、放送作家藤井青銅さん。これまで、多くのラジオ番組で、アイドルや芸人の「トーク」に寄り添ってきた方です。
 僕は人が喋っているのを聞くのが好きなので(自分が喋るのは好きじゃないんですが)、芸人さんや声優さんのラジオ番組を運転中などによく聞いています。これまで藤井さんが担当されてきた番組も、よく聴いていました。
 放送作家の中には、表に全く出ない人もいれば、番組のパーソナリティの話し相手として「出演」されている方も結構いるんですよね。

 芸人だけではなく、私はこれまで、歌手や役者さんの番組も担当してきました。ラジオ番組の中ではたいてい近況トークがあります。すらすら喋れる人もいれば、悩む人もいます。そんな時は、トークの相談に乗る。一緒に番組を作るとはそういうことで、放送作家はみんな、やり方の違い・程度の差こそあれ、似たようなことをしているはずです。
 番組でなんのために面白いトークをしたいのかといえば、聞いている人・見ている人、つまりお客さんに喜んでもらうため、そして自分のファンになってもらうため。考えてみれば、相手を喜ばせたい・自分を知ってもらいたいというのは、タレントであろうと普通の人であろうと同じかもしれない。
 そこでこの本では、私がこれまでやってきた方法を整理して、考えをまとめてみます。もちろん違うやり方もあるのでしょうけど、私は私のやり方を書くしかない。なにかの参考になれば嬉しいです。

 藤井さんは、この本のために行われた、3人(芸人が1人、一般の人(会社員、大学院生1人ずつ)2名)の「3分間程度のフリートーク」のレッスンの様子も紹介されています。
 これまでも、30歳前後の売れていない芸人さんたちにフリートークをやってもらう番組『フリートーカー・ジャック』をラジオでやっていたことがあるそうです。
 その番組で、すごく面白い話をする、と藤井さんの目に(耳に)留まり、何度も出演してもらったのが、『オードリー』の若林正恭さんでした。

『だが、情熱はある』というテレビドラマが2023年に日本テレビで放映されました。
 オードリーの若林さんと南海キャンディーズ山里亮太さんが芸人として売れなかった時代を描いたドラマです(若林さんと高橋海人さん、山里さんと森本慎太郎さんが演じました)。

 そのドラマのなかに、『フリートーカー・ジャック!』という番組で藤井さんと若林さんが出会うシーンがあって、藤井さんは本人役で出演されています。

 当時と同じラジオ局でのドラマ収録でした。若き日の若林さんに「どんな話があるの?」と聞く私。若林さんは相方・春日さんのケチ・エピソードのトークを始めます。それは面白いのだけど、私が「そうじゃなく、きみ自身のトークを聞きたい」という意味のことを言う。
 急にそんなことを言われて困った若林さんは、自分たちは売れないお笑いコンビなので、ライブを開く会場費もないから相方が住んでいる「むつみ荘」で小声トークライブをやるしまつ。自分はお金がないから彼女とファミレスに行くこともできず、公園で蚊に刺されながらデートしていて、情けないし、彼女に申しわけない…というトークをします。自信なさげに。
 すると私が、「その話、面白いね」と反応し、
「人がね、本気で悔しかったりみじめだったりする話は面白いんだよ」
 と言う。この時彼は心の中で、
(自分の話をしてもいいのか。パッとしない自分のこういう情けない話でも、誰かに面白がってもらえるんだ!)
 と気づく。
 いいシーンです。いいセリフです。いえ、自分のセリフを「オレ、いいこと言うだろ?」と自慢しているわけではありません。これを書いた脚本家(今井太郎さん)によるいいシーン・いいセリフだ、という意味です。
 というのは、私はたしかに当時「こんな内容のこと」を若林さんに言っています。その後、何度か言っていると思います。が、こういうシーンでこういうセリフ回しでは言っていないからです。でもそこは、ドラマ上の嘘、私は脚本家でもありますから、よくわかります。


 『オードリー』には、春日俊彰さんという強烈な個性を持った「相方」がいて、若林さんは、どうやって春日さんを目立たせるか、を考えてきたし、周囲からもそんなアドバイスを受けてきたそうです。
 それは、コンビ芸人としては正しい戦略ではあったのでしょう。
 でも、それを続けていくうちに、若林さんは「自分の話なんかしてもウケるわけないし、みんな春日さんの話を聞きたいはず」という先入観にとらわれるようになっていったのです。

 藤井さんが若林さんの「自分の話」を面白がってくれたことが、その思い込みを溶かしてくれた。
 若林さんは「もっと自分を出してもいいんだ」と自信をつけていき、『オードリー』は売れていきました。
 若林さんはその絶妙な「ツッコミ力」「場をコントロールできるバランス感覚」で、司会役としても成功し、「極度の人見知り」であり、人生で迷走してきたことを書いたエッセイ集はベストセラーになっています。


fujipon.hatenadiary.com


 南海キャンディーズ山里亮太さんや、今や好感度ナンバーワン芸人・大喜利の達人として知られる(僕にとっては、凄腕馬券師)麒麟川島明さんも、コンビが売れてきた頃は「じゃない方芸人」だったんですよね。

 僕はこの本を読みながら、考えていたのです。
 藤井さんが「面白いトークをする人たち」をたくさん育ててきたのは、技術的な指導はもちろんなのですが、藤井さんが、「人の話を聴くことの達人」だったからではないか、と。
 
 好きな作家や芸能人のトーク、身近なところでいえば、付き合いはじめてまもない恋人とか、知り合ったばかりの友達になれそうな人の話って、「内容はたいしたことじゃなくても、心が浮き立つし、面白い」じゃないですか。あっという間に時間が経ってしまう。
 逆にいえば、人間は、自分の話を面白がって聞いてくれる人のことを好きになりやすいのかもしれませんね。
 
 そして、誰かが一生懸命に「自分のこと」を相手に伝えようとしている話には、確かに、熱量があるし、面白い。

 もちろん、話し相手が自分に好感を持ってくれている人だけであれば、苦労はないわけで、なるべく聴いてもらいやすいように「技術」が重要な場面のほうが実際には多いのでしょう。
 でも、「これを、あなたに、聴いてほしい」っていう「情熱」にかなう「トーク術」は存在しないのかもしれません。

 その後、私はオードリーとオールナイトニッポンをスタートさせ、毎週会うことになるのですが、時々若林さんは、
「嫌だったこと、辛かったこと、悔しかったことも、のちにみんなトークにできると思えば最強じゃないかと思った」
 という意味のことを言いました。
 よく「人生において無駄はない」なんて言います。その時は、役に立たないこと、ただの寄り道、無駄な行為…と思ってやっていることも、のちの人生のどこかでふいにつながってきて、意外に役立つことがあります。ああ、あの時のあれは無駄じゃなかったんだなあ、と思います。


 この本を読んでいると、「あのときもっと、あの人の話をちゃんと聴いておけばよかった」とか、「あの場で、自分が思っていたことを、飾らずに素直に伝えるべきだったのに」という昔の記憶が、どんどん溢れてきたのです。
 聞かなければ、わからない。言わなければ、伝わらない。

 「面白いトーク」の指南書のはずなのに、僕はなんだかしんみりしてしまいましたが、本当に「いい本」ですよこれは。


fujipon.hatenablog.com
fujipon.hatenadiary.com

アクセスカウンター