Kindle版もあります。
やっぱり結婚したい。57歳で強くそう思った著者は、婚活アプリ、結婚相談所、婚活パーティを駆使した怒涛の婚活ライフに突入する。その目の前に現れたのは個性豊かな女性たちだった。「クソ老人」と罵倒してくる女性、セクシーな写真を次々送りつける女性、衝撃的な量の食事を奢らせる女性等々。リアルかつコミカルに中高年の婚活を徹底レポートする。切実な人のための超実用的「婚活次の一歩」攻略マニュアル付!
そんなに「結婚」したいかねえ……
と思うのは、僕が既婚で、「結婚すること」と「結婚生活」のギャップを痛感しているから、なのかもしれません。
結婚している人たちの多くは「人生の墓場」だと言い、未婚者は「やっぱり結婚したい。してみたい」と望むのです。
正直、いまの世の中は、さまざまなサービスの発達で、「ひとりで生きること」は、さほど困難ではなくなっているし、高齢独身者もどんどん増えてきています。そんな状況にともなって、「結婚しなければならないという圧力」も、あからさまなものは避けられるようになっているのです。
「家事や育児を妻に押しつけるべきではない」のはわかるのだけれど、「お互いがすべて平等にタスクを分担して、ひとりでも生きられるだけの能力を持っておくべき」だという世の中では、「じゃあ、ひとりで生きているほうが気楽じゃない?」とも思うんですよね。
あとは「子どもを持つ、育てる」ということをどう考えるか。
これも、望めばできる、というものではないしなあ……
この新書では、57歳、バツイチ、子どもなしの男性ライターが、自らの「婚活」を赤裸々に書いたものです。もちろん、相手のプライバシーに配慮されてはいますが。
ちなみに、57歳という年齢は、婚活市場では「高め」ではあり、著者は自分の容姿については「並以下」だと繰り返しておられますが、「年収は波が大きいが多いときで900万円くらい」あるそうです。
取材をする仕事をしていることもあって、初対面の相手にも物怖じすることは少ないし、婚活の内容をこうして文章にしているくらいですから、自分を客観視もできている。
そんな人でも、けっこう酷い目にあうんだな……と、さまざまな「地雷物件エピソード」に驚かされます。
まあほんと、他人の婚活ルポを嬉々として読むなんて「下世話」以外の何物でもないんですけどね……面白いんだよな、「下世話」って。
婚活アプリの女性会員にはモデルやモデル経験者も一定数登録している。こうした女性の多くは年下の男性を希望している。年下を好むのは男の傾向だと思っていたが、女性も容姿に恵まれて婚活市場価値が高い自覚があると、年下を求めることがわかった。
容姿に恵まれているのに、なぜパートナーを見つけられないのか──不思議に思った。そこで、自己紹介やそこに書かれている希望する男性のタイプを読むと、その一部からいまだにシングルである理由が垣間見られた。
「私のプロフィール、よく読んでくださいね。東京でモデルをやっています。出会いはありますが、年々理想が高くなり、決められません。趣味はショッピング、旅行、コスメです。男性は容姿重視。包容力、経済力も求めます。いつもプレゼントをしてくれて、旅行に連れていってくれるお金持ちの男性、メッセージください。離婚歴ある人、子どもがいる人、ケチ、低所得者、根暗、ギャンブル好き、学生、初老、常識のない人、感謝の気持ちのない人はNGです。読書、映画、スポーツ、美術館めぐり、釣りには興味ありません。なお、私への質問は1回に限らせていただきます」
これは30代のモデルの女性の自己紹介文だ。かなり強気だ。
写真を見ると、確かに顔は整っている。瞳が大きく欧米人みたいだ。髪は金色に輝いている。アプリで加工している気配もない。
ここまで強気のプロフィール文を書けたら、どんなに気持ちがいいだろう。
このような女性にアプローチするのは、よほどの自信家か、身の程知らずか、鈍感でなくてはならない。そんな男は少ないのでは、と思ったら、彼女は150人の男性会員が申し込んでいた。どんな男性がアプローチするのだ? 会ったらいくらお金を使わされるのか、同じ屋根の下で暮らしたら何を強いられるのか、考えないのだろうか。
こうした強気のプロフィールは常に一定数ある。
これを読んだとき、僕は「もしかして、このプロフィール、涼宮ハルヒのパロディ?」と思ったんですよ。
でも、このプロフィールで150人の応募があるわけですから、見た目に自信があったり、年齢が(婚活サイトとしては)若めの女性の場合、このくらい強気に出ておかないと、申し込みが多すぎて対処しようがないのかもしれませんね。
マイさん(仮名)という40歳の契約社員とのエピソード。
マイさんの結婚や恋愛がうまくいかない理由はすぐにわかった。翌日から毎夜、彼女からLINEでメッセージがきた。
「今、何してまちゅかあ?」
なぜか赤ちゃん言葉だ。用件はない。こちらは原稿に集中しているので、気づかないことも、レスポンスできないこともある。すると、電話がかかってくる。
「なんでマイちゃんのLINEに返事をくれないわけ?」
責める口調だ。
既読スルーしたら、激怒の電話がくる。
「どういうことなの!」
あとでレスポンスするつもりだった、などと言い訳をすると、怒りは増幅する。
「この麗しいマイちゃんが、ひと回り以上年上のオジサンにLINEしてあげてるのに! あり得ない!」
しかし、マイさんとは交際しているわけではないし、手もつないでいない。バツニの理由について、彼女は夫の束縛がきつかったと言ったが、相手が彼女の「今、何してまちゅかあ?」攻撃に耐えられなかったのではないか。
やがて彼女は自分の写真を送ってくるようになった。微妙なヌードだ。裸だということだけがわかる。ただし、肝心なところを隠していたり、バスルームの湯けむりでくもった鏡に映ったぼやけた全裸だったり。写真の後、すぐに彼女は電話をかけてくる。
「興奮した?」
「なんで裸の写真をくれるの?」
「べちゅにい~。もっと見えるのがほしい?」
「ぜひ」
「どうしようかなあ……。送ろうかなあ……」
「お願いします」
「やっぱりやめておきまちゅ」
そんな不毛なやり取りを重ねた。
こうして本にしている以上、「著者が出会った、変わった登録者」を採りあげているのだとは思うのですが、高い食事をおごらされた挙句にブロックされたり(単に「高級レストラン食べ歩き」がしたかっただけ?)、メンヘラ系で振り回されたり、いきなりブロックされたり罵られたりと、かなり「濃い」エピソードの連続です。
その一方で、著者が交際に至った相手が少なからずいて、二人の女性と同時進行で身体的な関係を持っていたこともあったそうです。
「結婚したい。人生の後半を一緒に過ごせるパートナーを探したい」という目的だったはずなのに、「婚活という名目で、新たな出会いにドキドキしたり、『遊び』の相手を探したりするほうが面白くなってしまったのでは……」と感じるんですよ。
婚活でのマッチングって、経験を積めば積むほど、自分の技術が上がってくるのを実感でき、長くやればやるほど「今までこれだけ頑張ってきたのだから、最高の相手じゃないと満足できない」と、ハードルは高くなっていく人も多いそうです。
中には、まだ10代、20代から「自分の婚活市場での価値が高いうちに、条件が良い相手を見つけたい」と、婚活サイトに登録する人もいるのだとか。
某有名アナウンサーが、マッチングアプリで出会った人と交際していた、というのが写真週刊誌に掲載されていましたが、いまの若者たちにとっては、「マッチングアプリ」というのは、僕の世代が「出会い系サイト」という言葉に感じる「いかがわしさ」は、もう無くなっているのかもしれません。
ネットショッピングのように、自分のパートナーも「条件で検索」するほうが効率的だ、と考えるのは、それが可能な時代には、的外れではないですよね。
「条件で検索されては、選ばれる可能性がきわめて少ない側」にとっては、厳しい時代ではありますが。
しかしこれ、男性側からみたらこんな感じだけれど、女性側からみたら、また「とんでもない男」のエピソードに事欠かないのだろうなあ……
下世話な覗き趣味を満たしてくれる、面白い本ではあるのですが、本気で婚活をしている人の役に立つかは微妙です。
著者はライターだから、失敗やとんでもない人との出会いも「ネタ」にできるだろうけど……