- 作者: 中村淳彦
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2015/01/29
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
- 作者: 中村淳彦
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2015/01/30
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内容紹介
性交渉未経験の男性が増えている。30歳以上未婚男性の4人に1人が童貞。この割合はここ20年間上昇を続けている。オタクが集うシェアハウスで理想の女の子の絵を描き続ける32歳、容姿への自信のなさから同性愛を選択した36歳、AV男優に採用されたが女優に嫌がられセックスできないまま自殺した33歳――。彼らに共通するのは、過剰なプライドの高さ、コミュニケーション不全、潔癖な女性観だ。童貞というコンプレックスは彼らの社会的な自立をも阻害する。性にまつわる取材を続ける著者がえぐる日本社会の不健全さ。衝撃のルポルタージュ。
著者は、最初にこのルポの目的について、このように述べています。
本書は中年童貞がどのような存在で、彼らが社会にどのような影響を及ぼしているのかを可視化するのが第一の目的である。
童貞とは「性交未経験の男性」のことだ。
国立社会保障人口問題研究所「第14回出生動向基本調査」(2010年)によると、20〜24歳の未婚男性で性交経験がない人は40.5%と前回(2005年)に比べ6.9ポイント上昇。さらには30〜34歳の未婚男性のうち、性交経験がない人の割合は26.1%となっている。おおよそ、4人に1人以上が童貞という計算だ。
この数値を元に計算すると、30歳以上の未婚男性はおおよそ800万人、全国に209万人の中年童貞がいることになる。
(中略)
性交経験の有無や頻度、回答は、極めてパーソナルな問題であり、個人の自由だ。秘めたる性交経験が社会に影響を及ぼすわけがないじゃないか、と思われがちだが、性交未経験の男性は婚姻率の低下や少子化はもちろん、アイドルやアニメなどの娯楽産業、アダルトビデオや性風俗などの性産業の動向と密接に関わるだけでなく、職場においてはパワハラやセクハラなどの人間関係、労働の長時間化、離職率など、社会の根幹に関わるネガティブな問題に繋がっている、というのが私の仮説だ。
うーむ、この新書、どう読めば良いのか……
運営にかかわっている介護施設での「あまりにも社会性に欠ける中年男性の行状」に苛立ちを募らせていた著者の「偏見」じゃないか、と言いたくなるようなところも多いんですよね。
個人的には「性体験の有無、あるいはその数」で、そんなに人間性が変わるものなのだろうか?と思うし、それだけで他者を値踏みするような「社会の慣習」にうんざりしてもいるのです。
「あなたは性交経験がありますか?」なんてアンケートに、正直に答えるものだろうか?という気もしますし(でも、正直に答えない人もいるのにこの数字なのだとしたら……)。
そもそも、「童貞だから、社会性がない」というわけではなくて、「他者とのコミュニケーションが困難だったから」こそ、結果的に女性と性行為に至る経験がなかったということではないか、とか。
こういうのって、どうなのだろう?
あの「ソープに行け!」の北方謙三先生は、おそらく「体験することで、性格や世界観になんらかの影響が生じる」と考えておられたのでしょうけど……
逆に「ヤリチン」みたいな人の生きざまをみると、それはそれで、問題がある事例は少なくないんじゃないかなあ。
おそらく、この新書で採り上げられている「中年童貞」って、いまの時代のひとつの「類型」なのでしょうね。
ちなみに、著者は、この新書のなかでは、30歳を超えて、”素人童貞(風俗などでは経験あり)”も含めて、プライベートな恋愛や人間関係で女性と性交体験がない男性を”中年男性”と定義しています。
とはいえ、「医療従事者だと、けっこう人格や他者とのコミュニケーション能力に問題がありそうな男でも、それなりの伴侶を得て結婚していることが多い」のです。
だから、正直なところ「実感」って、あまりわかないんです(こういうのって、「知ったかぶり」をしてもしょうがない)。
著者が取材しているような「ずっと実家に住み、派遣労働でギリギリの生活をしており、友達もつくることができないような生活をおくる男たち」と、プライベートを共にする機会って、ほとんどありません。
ただ、自分自身を振り返ってみると、僕は運良くいまの配偶者に恵まれただけで、趣味の傾向やコミュニケーション力の低さを考えると、「中年童貞」側に行っていた可能性も高かったのではないか、と思わずにはいられないんですよ。
だから、彼らを「気持ち悪い」なんて嘲笑う気分にはなれない。
「それって、性体験の有無だけの問題なのだろうか……」とは考えずにはいられません。
だからって、無理矢理「体験させてみる」ってわけにもいかないだろうし、この新書によると「安易に性行為をしないことが、彼らのアイデンティティを支えている」面もありそうなのです。
この新書のなかに出てくる「童貞」たちの話には、頷かされるところと、驚かされるところ、両方があります。
メイド喫茶を経営しているという42歳男性の話(この人自身は、童貞ではなさそうですが)。
周囲にオタク系の人物がいないことを再確認すると、猛烈な勢いで喋りだした。一方的に喋るのはオタクの人たち独特の傾向で、この高橋氏(仮名)もオタク的な人物である。
「二次元しか愛せないっていうオタクがいるけど、そのほとんどは方便ですよ。実際は現実の女の子に相手にされないから、二次元が好きというのが一般的です。最近はネットで叩かれるからみんな言わなくなったけどね。二次元しか好きになれないって言い訳、自己暗示。オタクの人に見られる傾向だけど、自己正当化するわけですね。非モテって言葉も同じように使われている。俺たちはモテないのではなく、モテたくないと。もちろん例外もあって現実の女の子からモテるルックスだけど、二次元しか興味がないって人もいる。それは若い世代に多いですね。
アニメの専門学校の学生から聞いたけど、学校でデッサンの授業がある。モデルの女の子が学校に来て裸でポーズをとって、それをデッサンする。そうすると嘔吐とか体調を崩す学生が続出するらしい。理由を聞くと、リアルな女は毛穴があって気持ちが悪いみたいなことを言ったりする」
女性に毛穴があるから嘔吐する――想像を絶する話がいきなり出てきて息をのんだ。
「幼女誘拐殺人がたまに起こって、オタクだからってことになるじゃないですか。それは間違っていて本当に二次元だけが好きな人は、リアルな幼女は誘拐しないわけです。だって興味がないから。二次元しか愛せないオタクは『だって、あいつら息をしているじゃないか』って言いますよ。リアルな女の子って呼吸するじゃないですか。動くじゃないですか。二次元キャラクターは息をしないので、それを愛してしまうとリアルな女性に大きな生理的違和感が起こるわけですね。まあ、そこまで重症のオタクは一部ですけど」
フィギュアや二次元アニメなど、ヴァーチャルなものに依存するオタクたちの症状は、予想以上に深刻なようだ。
「よく童貞に『風俗行けば?』みたいなことを言う人がいるけど、彼らが性風俗に行くなどありえない。それは自分が汚れるから。30歳まで童貞だったら妖精になれるっていうフレーズがあるじゃないですか。その貞操は彼らのプライドです。ただ一つリア充に勝てるものと思っている。しかし、実際は現実から目を逸らして、アニメに逃避しているだけ。その一日一日でチャンスは失われているわけです」
僕はこれを読んで、「なんのかんの言っても、『本当に二次元しか愛せない人』っていうのは、ごく少数なんだろうな」と思ったんですよね。
「息をするから気持ち悪い」というレベルになると、それを無理に「普通の異性愛者」にしようとするのが正しいのかどうか、わからないのです。
これだけのコンテンツがあれば、そういう人たちにとっては、幸福な時代なのかもしれないし。
「方便としての二次元愛」みたいな場合が、最も難しいのかもしれません。
いまは、「二次元しか愛せない」というのも、それなりに認知されてきた気はしますし。
多少は、親や親戚に「あんたまだ結婚しないの?」なんて言われることがあるとしても。
自ら「純潔」を宣言して、相手の女性にも「処女性」を求めている「中年童貞」たち。
しかしながら、女性たちからすれば、「アンタが勝手に美化した女の子像なんか、アニメや美少女ゲームの世界にしかいるわけない!」のです。
ほんと、この新書で紹介されている「婚活パーティで、優香さんのような女性を求め、他の参加者に文句ばかり言っている中年男性」の話を読むと、「そりゃ無理だろ……」と呟かずにはいられません。
いや、優香は来ないって、婚活パーティ。
もし来たとしても、あなたのところにも、僕のところにも来ないよ……
来たら、ハニートラップだとしか思えないけど、そんなトラップを仕掛けられるようなVIPでもないし。
この新書を読むと、「自分を客観視できなくなってしまった男の悲劇」について、考えずにはいられません。
でも、「自分を客観視しすぎる」と、それはそれで、あまりにも自分が無価値な人間であることに落ち込んだりもするし、難しいですよね……
宮田氏(仮名)が掲げる中年童貞に多い属性は介護職員、農業関係者、ネット右翼の3種類だった。見かけた場所は読書会とチャット、掲示板などである。
「多くの中年童貞は”素晴らしい俺様はどんな会社でも本当は活躍できるけど、仕方ないから介護程度はやってやる”みたいな感覚。農業も一緒。介護も農業も国や自治体の政策で、補助金出して人を集めている。政策が絡むと失業者のセーフティネットになって、本当にとんでもない奴ばかりが集る。職場が破壊されるのは当然、産業も破壊される。
著者が取材した人物のひとりは、こう言っています。
著者自身も「介護施設で働いている、困った中年男性」に悩まされていたそうです。
この男性は、自分がちょっとした資格(1週間程度の講習・実習でとれる程度)を持っているから、という理由で、その資格を持たないアルバイトの若者にパワハラをしたり、自分ができないことに対しては「それはもともと自分のやるべき仕事じゃない」と開き直りつづけていたのだとか。
彼の怒りは、「自分より弱いもの」にばかり向かっていったそうです。
いや、そういう人格が「童貞だから」と言えるのかどうかは難しいところではあるんですけどね。
性的な経験が豊富な人にも、「困った大人」はたくさんいるし。
ただし、著者は「性的強者の味方」というわけでもないんですよ。
ある自殺してしまったAV女優に、その自殺直前にフラレてしまった男性について、こんな嘆息をしています。
女性はどうして深く考えることなく、常に”強い種”を持っていそうな男に惹かれるのだろうか。モテるのは、いつの時代もヤンキー、運動部のエースである。女性は、無条件に強者を選択する。私は中学生くらいからずっと疑問に思っている。
女性は、どんなに真面目で誠実であっても、自信のなさやコミュニケーションに難があったり、また流行からズレていたりする男性は弱者として排除する。
僕も、そう思います。
「もう、あんな酷い男は懲り懲り」
そう言った女性の新しい恋人が、傍からみれば「前の男と似たようなものなのでは……」だった経験って、僕にも何度かあるのです。
率直なところ、「無理をして自分に不利な『生身の女性との恋愛市場』というレッドオーシャンに参入しなくても、二次元で満足できるのなら、そのほうが良いんじゃないかな」とも思います。
少子化や人口減少は「日本という国にとっては、困ったこと」だけれど、それを解消するために結婚したり子どもを生む、なんていう人は、現実にはいないだろうし。
まあ、なんというか、感想を書くのが難しい新書ではあります。
ただ、こういう「傾向」みたいなものは、たぶん、これからも続いていくのでしょうね。