琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【映画感想】アバター:ウェイ・オブ・ウォーター ☆☆☆☆

あらすじ
神秘の星パンドラ。元海兵隊員のジェイク(サム・ワーシントン)は先住民ナヴィの女性ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)と結ばれ、子供たちをもうけ、幸せに暮らしていた。しかし、ジェイクたちは再びパンドラに現れた人間たちに森を追われてしまい、海の部族のもとに身を寄せる。だが、その美しい海にも侵略者が接近していた。


www.20thcenturystudios.jp


2022年23作目。
公開から1週間経った平日の朝からの回を観ました。
観客は50人くらい。

2009年に劇場公開された『アバター』は、当時の世界歴代最高となる3500億円以上の興行収入を記録し、社会現象になりました。

この映画の大ヒットで、「3D映画」が大流行し、あまり3Dの意味がなさそうな作品まで3D化されたり、「メガネをかけたら『アバター』を3Dで観ることができる家庭用テレビ」も発売されたのです。
 
 僕も2009年の公開時に映画館で3D版をみて、「すごい映像だ」と感動した記憶があります。
 予告編を観たときには、「こんなケバケバしい3D映画をつくるなんて、ジェイムズ・キャメロン監督は何を考えているんだろう、キャラクターも愛着がわきそうもないし、誰が観るんだよこれ」と思っていたら、僕も嬉々として観てしまったんですよね。


fujipon.hatenadiary.com


 2010年1月7日付の「映画感想」には、こう書いていました。

 この『アバター』って、ストーリーと基本的なコンセプトとしては、まさに(『ダンス・ウィズ・ウルブズ』+『(映画版の)ファイナルファンタジー』÷2)+『風の谷のナウシカ』+『ロード・オブ・ザ・リング』を隠し味に少々)だったんですよ。ストーリーは、まさに『ダンス・ウィズ・ウルブズ』。
 ストーリーは、ごくありきたりであり、目新しさはありません。まさに「予告編通り」。せいぜい☆3つくらいでしょう。

 しかしながら、この『アバター』、とにかく映像が凄い! 3Dも含め、「映画館でしか観られない新鮮な体験」であり、☆6つくらいの威力があります。
 「ストーリー重視派、映画とは人間ドラマ!」という映画マニアにはウケが悪そうですが、僕のように「とにかく驚かされる新鮮な体験ができれば十分」な人間にとっては、「観て損はしない映画」でした。


 『アバター』って、あまりにも大ヒットしたゆえに、最高の作品だったように記憶してしまうのですが、前作から、「ストーリーには特記事項なし」ではあったんですよね。

 今年の10月に、『アバター』の3Dリマスター版を、ほぼ13年ぶりに観たときの感想は、こんな感じでした。

fujipon.hatenablog.com

(あまりこの映画そのものについては書いてないですね、これ)


 13年ぶりの続編となった、この『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』なのですが、ものすごくシンプルに感想を書くと、2行で終わります。

(1)映像、とくに水の表現がすごい。
(2)3時間オーバーの上映時間は長い。


 2009年の『アバター』は、人類とナヴィとの「文明の衝突」が描かれ、両者の板挟みとなったジェイクの苦難と転生が描かれていたのです。

 現実社会での「人生」に挫折した男が、仮想世界で新しい自分を見つけ、そこで生きていくことを選ぶというのも、2009年には、2022年ほど使い古されてはいませんでした。
 
 映画を観ていると、「ジェイク、ナヴィがんばれ!」と応援したくなるのですが、「人類」サイドからすれば、彼らは「裏切者」だったり「敵」だったりするのです。ナヴィの反撃でやられる人間の兵士たちにも、家族は友人はいます。

 正直なところ、この『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』からは、「前作で『森のすごい映像』をつくったから、今度は『海』を舞台にしよう!」という意図が伝わってくるのです。
 映画の興行としては、その選択は正しいし、この映画の海の、水の表現は、本当に素晴らしい。
 これ、3D水族館とかにして、珍しい生き物を映像化して入場料取っても良いんじゃない?とも思いました。

 昔から、「海を舞台にした映画はコケる」と言われていて、当時絶好調だったケビン・コスナー主演の『ウォーターワールド』は、「(興行的に)失敗した作品」として槍玉にあげられてきました。コストがかかるわりに、ヒットしないというのが「定説」だった時代が長かったのです。
 それを打ち破ったのが、『パイレーツ・オブ・カリビアン』でした。

 この映画、捕鯨っぽいシーンや「賢い海の生物」などが丁寧に描かれていて、日本人的には「そんなに賢い生き物を守りたいのなら、イラクアフガニスタンであんなことをするのはおかしくないか?」とか言いたくなるところもあるのです。日本人が長年やってきた捕鯨は、まさに「捕る側も生きるため」であり、鯨の利用できるところは全部利用していたといわれています。それを思うと、この映画は、あまりにもひどいあてこすりのようにも感じてしまうのです。
 ジェイムズ・キャメロン監督という人は、イデオロギーよりも、「そのほうがエンターテインメントとして西欧でウケる」と考えてそうしているような気もするのですが。

 本当に「映像は素晴らしいし、ぜひ水分をがまんして劇場に行って、3時間15分くらいの作品を見届けてほしい」とは思うんですよ。
 この映画自体が、長い遊園地のアトラクションみたいなものだし、お金と手間をかけた3D映像の偉大な到達点だから。
 とはいえ、ものごとの進化の必然として、最近のプレイステーション5とかの映像を見慣れていると、『Horizen Forbidden West』みたいだな、とも思うのです。
 2009年の『アバター』がその後のテレビゲームの映像に与えた影響は、あまりにも大きかった。

 前作の「アメリカの開拓民とネイティブ・アメリカンの抗争」を想起させるような「文明の衝突」という壮大な背景は今作では失われ(もしかしたら、3作目でまた出てくるのかもしれませんが)、ジェイクは「家族がいちばん大事、家族を絶対に守る」と、「マイホーム主義」を掲げ続けています。それなら森にいるときから、スカイ・ピープルにちょっかい出さないほうが良さそうだし、ジェイク一家がいなくなっても、スカイ・ピープルがナヴィを制圧しようとするのは間違いありません。
 人間側の科学・技術の力を知っているジェイクなら、逃げ隠れするより、ジェイク自身がなんらかの平和的な交渉・あるいは妥協を引き出そうとするか、人類をよく知る立場としてナヴィたちを率いて戦うしかないという結論に至りそうなものですが。

 いやまあ、こんなのは単なるいちゃもんに属することで、「今度は海、水のすごい映像をつくる」というための作品で、ストーリーは「描きたい映像にふさわしい場所に登場人物を連れてくるために存在している」だけなのでしょうけど。
 

 『ターミネーター』の続編が興行的にうまくいかなかった理由をキャメロン監督が語っていた記事がありました。

jp.ign.com


 確かに「キャストの高齢化」はあるのかもしれませんが、『ターミネーター』は、キャストを変更した作品でもうまくいかなかったんですよね。
ターミネーター2』の成功で、期待が大きくなりすぎた面はあるとしても。

 僕は『ターミネーター』の続編が出るたびに、「結局のところ、敵側はいくらでもターミネーターを好きな時代に送り込んで歴史を変えられるのだから、ひとつひとつの戦いは無意味なのでは……」と疑問になったのです。

 で、この『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』でも、同じ失敗というか、「この方法が可能であれば、いくらでも同じ敵がつくれるよね……」と、拍子抜けしてしまいました。前作でインパクトがあった敵を使い回したいという気持ちはわかりますが、やっつけてもやっつけてもダース・ベイダーが出てくる『スター・ウォーズ』とか、僕は見たくない。


 これだけ配信サービスが一般化して、多くの人が「自宅で映像作品を観る」ことに慣れてしまった時代に3時間15分の映画をつくったのは「英断」であり、「このくらいの超大作じゃないと、映画館に人を呼べない」という発想だったのかもしれません。

 でも、僕の率直な印象としては、「もしこうしてブログに感想を書く、という習慣、あるいは目的がなかったら、少し待って配信されてから家で好きなタイミングで観たかもしれない」なんですよ。
 3時間15分(予告編も入れたら3時間30分)となると、平日の仕事帰りに観るには終了時間が遅くなりすぎるし、休日も「これだけ」で終わってしまう。
 トイレが心配にもなります。
 僕自身は、準備していた飲みものをまったく口にしなくて良いくらい、この映像世界に魅了されていたのは事実ですが、それでも、最後のほうはトイレに行くタイミングを意識せずにはいられませんでした。

 監督的には、どこもカットできない、必然性のある3時間15分なのでしょうし、この映画の魅力は、戦闘シーンとかよりも、ナヴィたちの日常や自然と一体化した生活が描かれていることにあるのはまちがいありません。
 いっそのこと、個人的な怨恨にしかみえない戦いのシーンを、もっと短くするとか、序盤の森のシーンをカットするとか、見やすい長さにするという選択はなかったのだろうか。

 3時間、「異世界」にいる気分になれる、素晴らしい映像世界ではありますし、こういう作品は、あれこれ捻ったストーリーにするよりも、「王道の(あるいはベタな)物語」にしたほうが観客にわかりやすいというのも理解はできるのですけど。
 
 こういう「しっかりお金をかけた映画ならではのクオリティへの挑戦」をしている作品が興行的にも高く評価されてほしいし、そうならなければ、映画の技術的な進歩は停滞してしまいそうです。

 ぜひ、この『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は、映画館で、3Dで観てほしい。

 そう言いつつも、わざわざ水分を控え、時間をつくって映画館で観るのは大変だし、もう、いつでもトイレに行ける配信で観れば良いんじゃない?っていう気持ちは僕の年齢になると理解せざるをえないのです。いっそのこと、オムツ着用で行くか。


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