琥珀色の戯言

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【読書感想】ゴルゴ13特別授業 ☆☆☆

ゴルゴ13特別授業 (ルネッサンス新書)

ゴルゴ13特別授業 (ルネッサンス新書)

  • 作者:土岐 寛
  • 発売日: 2020/08/28
  • メディア: 新書

1968年11月から50年以上の連載を続け、世界中の多くの人々を魅了している『ゴルゴ13』。なぜ『ゴルゴ13』はおもしろいのか。その秘密に迫るのは、ゴルゴ13の活躍を追い続ける名誉教授。対話形式で楽しく学べるゴルゴ13特別授業が今、開講する――。


 僕が生まれる前から連載が続いている『ゴルゴ13』。最終回はすでに描かれていて、金庫に眠っている、なんていう噂を聞いたこともあります。
 『ゴルゴ13』って、自分で買うというよりは、学生時代に定食屋に並んでいるのを読んだり、漫画喫茶で、ふと手にとったらハマってしまったり、というのが触れるきっかけになった人も多いのではないでしょうか。
 『ゴルゴ13』とかを読むような大人にはならないつもりが、いつのまにか「やっぱり、『ゴルゴ13』面白いよ」と若者に薦める大人になっていた。
 『ゴルゴ13』と『美味しんぼ』は、病院の当直室に置かれているマンガの定番でもあり、僕も若かりし頃は「なんで殺し屋のマンガがどの病院にも置いてあるんだ?」とか思っていましたが、プロフェッショナルの話であり、一話完結で、どの巻から読んでも楽しめて、「続き」が気になることはない、というのは、「定食屋や当直室向き」なんでしょうね。
 僕も、自分で直接単行本を買ったことは一度か二度しか記憶にないのですが、かなりの巻をさまざまな場所、シチュエーションで読んできたのです。

ビッグコミック』の連載が2020年7月で600話、単行本は195巻。
 著者は、『ゴルゴ13』が長年人気を保っている理由を、このように分析しています。

 コミックとしてのゴルゴ人気の大きな理由の第一は、ストーリー、作劇、作画の素晴らしさとその映画的展開だろうな。これはシナリオの外注やチーム作業など製作システムの成果だね。世界情勢の裏ナビ、裏テキストといわれるほど、新鮮で鮮度の高い情報が盛り込まれ、知的刺激も受けながら、ゴルゴ登場への期待感が高まる仕組みなんだね。最後にゴルゴの狙撃の成功と問題解決で一気に溜飲が下がり、次作への期待が維持される。繰り返し読んでも納得、満足させられる傑作が多いんだ。読者はそれぞれお気に入りのエピソードを持っているはずだよ」
「なるほど。どうして集団製作システムを採ったんでしょうか」
「著者のさいとう・たかをさんは、ひとりで原案、シナリオ、構成、作画をこなしながら長期連載するのは難しいと考え、分業体制を作ったんだ。そのうち、シナリオは外注にして、絶えず刺激的で最新のテーマを盛り込むようにした。内輪の妥協やマンネリを防ぐということかな」
「背景などはずいぶんリアルですよね」
「ゴルゴという存在が現実離れした設定なので、周辺情報はできるだけリアルにしてバランスをとっているということだ。今はネットでどんな情報も得られるけど、昔はたいへんな努力とネットワークで情報や写真を集めたらしいよ」
「さいとうさんはどういう役割なんですか」
「さいとうさんは、映画でいえば監督だね。全体を見て、共同作業を指揮、調整して完成に導くということかな。シナリオのコマ割りと主要人物の顔を描く仕事は主にさいとうさんの仕事のようだ。作画チームは十人近くもいるよ。風景、都市、建物、銃器などそれぞれ得意分野を担当してるんだ」


 『ゴルゴ13』が分業で描かれていることは、よく知られているのですが、「ゴルゴ13」というスナイパーが超人的な狙撃でターゲットを撃つ、という一瞬のカタルシスの「舞台」にはさまざまなものがあり、時代によって変化してもいるのです。
 連載当初は冷戦下のアメリカとソ連の対立について描かれたものが多いのですが、ベルリンの壁が崩れ、ソ連が崩壊したあとも、世界のさまざまな紛争を扱っていますし、この本をみてみると、バイオ関連の研究が題材になっていたり、音楽家の演奏中の「弦」を狙撃する、という回もあったりするのです。
 『ゴルゴ13』というと、女性との親密になるシーンを思い出すのですが、時代とともに、そういう「性的な描写」も減ってきている、とのことでした。ゴルゴが加齢にともなって枯れてきた、というわけではなく(『ゴルゴ13』で描かれる情勢は現実の時間の流れに即しているのですが、ゴルゴは年を取ってはいないようですし)、女性ファンも多くなったし、そういう描写を不快に感じる人もいるようだから、と。

 まあ、「政治的に正しいゴルゴ13』」というのが成り立つのかどうかは、もともと殺し屋(人を殺す目的ではなく狙撃をすることもありますが)の話だけに疑問ではあります。

「『ゴルゴ13』のようなコミックは外国にもあるんでしょうか」
「それと関連するけど、ゴルゴの存在は、国家権力と暴力装置に関わるんだ。つまり、国家は軍隊や警察などの暴力装置を持っている。佐藤優さんが指摘するように、秘密警察や諜報機関も含め、それらが日常的かつ非情に機能していれば、すべてのトラブルを国家が自前で処理できるから、ゴルゴの出番はない」
軍事独裁政権などは容赦ないですからね。CIAやKGBKCIA(韓国中央情報部)、モサドイスラエル諜報特務庁)もそうかな。しかし、ゴルゴへの依頼数が断然多いのは、CIA、KGBモサドですよね」
軍事独裁政権はもちろん、一般に外国の場合は、非情な権力・暴力装置が機能しているので、ゴルゴのような存在に頼る必要がない。CIA、KGBモサドなどの場合は、組織として公然と動きにくい案件のときにゴルゴに依頼するわけだ。外国にも職業的スナイパーはいるけど、ゴルゴのような完璧なスナイパーはそうはいないからね。民間人の依頼者がゴルゴに個人的な復讐を代行してもらう悲哀感などもそうだ。その辺の事情や雰囲気をうまく演出して、ゴルゴが活躍する舞台を設定しているわけだ」
「では、外国では基本的に『ゴルゴ13』の物語は成立しにくいということですか」、教授」
「そうだね。ゴルゴに近い存在はいるから、われわれが『ゴルゴ13』を読んで感じる満足感やスカッとした清涼感はないだろうといわれているね。日本は公的機関が非情でむき出しの暴力を行使することはそう日常的ではないので、ゴルゴのような超存在者に思いを仮託する余地があるということだ」

「『ゴルゴ13』は世界中を舞台にしていますが、タブーのテーマってあるんでしょうか」
「仕事を引き受ければ、南極でもヒマラヤでも宇宙でも行くゴルゴ13だが、いまだ足を踏み入れてない国があるんだ。それは、北朝鮮と韓国だ。なぜ手控えているのかというと、生々しすぎることと、お隣の国だし、ご近所付き合いもあるので、刺激的なことは控えたほうがいいという判断のようだね。韓国に関しては、朴正煕大統領時代のKCIAに関して面白い話があったけれど、控えたらしい」


 フィクション、ではあるものの、ご近所に対しては、「配慮」しているんですね、『ゴルゴ13』も。ちなみに、1986年の『幻の栽培』に対しては、イラン大使館から抗議を受けたそうです。この回も含めて、単行本未収録の「お蔵入り」になってしまったエピソードがいくつかあるそうです。

 後半の「傑作13選」も、どこかで読んだことがあるような、こんな話があったのか!と感心するような多彩なエピソードが紹介されていました。
 「この話、前に読んだことがあったような……」とか思いながら、ランダムに手にとって読んでみるのも『ゴルゴ13』の楽しみ方なのだと思います。
 

ゴルゴ13第1章

ゴルゴ13第1章

  • 発売日: 1988/03/26
  • メディア: Video Game

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