琥珀色の戯言

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【読書感想】沖縄から貧困がなくならない本当の理由 ☆☆☆


Kindle版もあります。

沖縄には、謎が多い。圧倒的な好景気が続く中、なぜ、突出した貧困社会なのか。「沖縄の人は優しい」と皆が口をそろえる中、なぜ、自殺率やいじめ、教員の鬱の問題は他の地域を圧倒しているのか。誰もなしえなかったアプローチで、沖縄社会の真実に迫る。「沖縄問題」を突き詰めることは日本の問題を突き詰めることであり、それは、私たち自身の問題を突き詰めることだ――。「コロナ後の世界」のありかたをも問う、鮮烈の問題作。


 沖縄といえば、日本でも屈指の長寿を誇っており、みんなのんびりしていて、金銭的に豊かではないけれど、居心地の良い場所、というイメージを持っていたのです。

 しかしながら、著者は、この本の前半部で、「沖縄の現実」を歯に衣着せずに述べています。

 沖縄には、謎が多い。2012年以降、圧倒的な好景気が続き、経済は「バブル超え」の絶好調。沖縄への観光客は年間1000万人を超えて、ついにハワイを抜いた。建設業は活況を呈し、現場の職人は休む暇もない。
 数々の特別措置と手厚い経済援助を受け、社会インフラの整備は全国で最も進んでいる地域の一つでもある。
 一人当たりの県民所得は4年連続で上昇し、過去最高を更新している。
 その一方で、都道府県別の県民所得では11年連続で全国最下位。賃金は全国の最低水準で、貧困率は全国平均の実に2倍。沖縄は日本でも突出した貧困社会である。
 優しい沖縄人(ウチナーンチュ)、癒しの島……沖縄に魅せられた多くの人が、その最大の魅力は島の人の穏やかさ、温かさ、だと口をそろえる。
 またその一方で、沖縄社会における自殺率、重犯罪、DV、幼児虐待、いじめ、依存症、飲酒、不登校、教員の鬱の問題は、全国でも他の地域を圧倒している。
 なぜ、「好景気」の中で貧困が生じ、「優しさ」の中で人が苦しむのだろう?
 本書は、この問いに、真正面から向き合うものだ。
 一見矛盾するこれらの問題が、沖縄でなぜ生じているのか、その「本当の理由」をできる限りわかりやすく論じてみる。


 沖縄は観光客にとっては「楽園」なのですが、さまざまな矛盾を抱えた地域でもあるのです。

 著者は、沖縄では、オリオンビールのような「沖縄では高いシェアを誇る企業」がたくさんあることを指摘しています。
 地元企業だから支持されている、と思いがちなのですが、長年沖縄でだけ圧倒的なシェアを誇る商品のなかには、県外の企業のものも少なくないのです。
 そこに、「一度これと決めたら、新しい商品に手を出さない」あるいは、「他の人と違うことを避けようとする」県民性を見いだしているのです。

 オリオンビールが沖縄で高いシェアを誇っている理由について、著者はこう述べています。

 その典型が酒税軽減措置に守られた酒造業界だ。沖縄で生産・販売される酒類について、泡盛は35%、ビール等は20%の酒税減免措置が続いている。このため地元酒造メーカーの商品は安価で求めやすい。本土の大手酒造メーカーの同種の商品よりも安価に販売できれば、多くの消費者を引きつけ、売り上げが増え、シェアは高くなる。
 軽減された酒税の合計額は、復帰から2016年度までの累計で1287億円と巨額だ。
 沖縄で生産・販売されているビールは、実質的にはオリオンビールしか存在しない。
「ビール業」という区切りでは、この優遇措置はオリオンビールのために存在するようなものだ。


 オリオンビールは、本土復帰から42年間(2014年の時点)で約700億円の酒税軽減措置を受けているそうです。
 オリオンビールの本土復帰以来の利益は合計520億円(2018年調べ)になるそうで、酒税が軽減されている分が会社の利益になっている、と言ってもよさそうです。

 著者は、沖縄の企業の多くが「補助金頼み」になってしまって、新しい製品を開発したり、他の地域に進出したりするよりも、なんとか補助金をもらい続けることを最優先にしているのではないか、と指摘しています。
 
 国の側も、米軍基地の多くが沖縄にあり、軍関係者の不祥事や事故も沖縄の人々が被害者になっているという負い目もあり、この「補助金体質」から抜け出すのは、お互いに難しくなっているのです。


 しかし、こんなに補助金が入ってきているのに、なぜ、沖縄の人々は貧困にあえいでいるのか?
 労働者の平均収入は全国最低水準で、就労者のおよそ18%が100万円未満、47%(ほぼ2人に1人)は200万円未満の年収しかないそうです。
 それで食べていけるのか?と思いますよね。
 しかも、沖縄は日本のなかで出生率が高く、離婚率も高い。ひとり親が子どもを育てている家庭が多いのです。


 著者は、外部からみれば「のどかでおおらか」に見える沖縄を「クラクションを『鳴らせない』社会」だと述べています。
 もちろん、あおり運転をして、クラクションで周囲を威嚇するようなドライバーは最低ですが、沖縄では、本当に危険な運転をしている人を注意するため、あるいは危険を避けるためにクラクションを鳴らしても、「なんでそんなもの鳴らすの?」という目でみられるそうです。
 「怒らない、おおらかな社会」というのは、「間違っていることを間違っている、と言うことができない社会」でもあるのです。
 みんなの「和」を乱す行為をしたり、伝統に外れたことをすると、あからさまに疎外されてしまうのです。

 沖縄の社会構造を支える第一の登場人物は、「昇進、昇給を望まない労働者」である。それが、貧困状態であっても、だ。
 沖縄の場合、経営者が従業員に報酬を支払わない、という以上に、従業員が報酬を受け取らないという、驚くべき傾向がある。沖縄で人材登用を進めようとしても、そもそも有能な人材が管理職になりたがらないし、パートも正社員になりたがらない(もちろん、すべての人がそうだということはあり得ないし、実数で測れば昇進を断る人の方が少数かもしれない。しかし、これが本土の組織だったら、そんな人が一人でも存在すればニュースになるだろう)。


 これ、本当の話?と言いたくなるのですが、著者は、そういう労働者が多い理由について、第一に「責任ある立場になって、同僚から孤立してしまうのを恐れる気持ちが強い」ことを挙げています。会社で昇進すれば、多少なりともそうなるのは致しかたない、とも思うのですが、沖縄の社会では、それは受け入れがたいことなのです。偉くなったり、給料が上がらなくても、「みんなと一緒」がいい。
 そして、第二の理由として、「沖縄では、物事を変える人や社会を発展させる人に対して、強い同調圧力がかかる」と述べています。
 著者は、本土のいじめが「弱いものいじめ」なら、沖縄のいじめは「できるものいじめ」だとも書いています。

 沖縄社会では、人の個性よりも、周囲とのバランスが遥かに重視されるから、能力の高い人は社会のバランスを崩してしまう「悪者」だ。
 教室で質問するだけで、「あいつはいいカッコしている」という空気が生まれる。沖縄社会では、優等生になることも、成功することも、人前で誰かに優しくすることも、自分の意見を声にすることも難しい。
 2018年10月29日に放映された日本テレビ系のバラエティ番組『月曜から夜ふかし』で、沖縄社会では、勉強に熱心な子どもをマーメー(マメ、真面目)と呼んで軽蔑する風潮があることを取り上げていた。
 沖縄で「マーメー」と呼ばれるのは最大級の侮辱で、子どもたちが勉強に対して消極的になり、全国最低水準の学力にとどまる主因になっていることを示唆した内容だった。


 真面目な子、勉強する子がバカにされやすい、というのは、1970年代に九州の小学校に通っていた僕も体験したことなので、沖縄だけのことなのだろうか?とは思うのですが、沖縄ではその傾向が強い、もしくは、長年残り続けている、ということなのでしょうか。

 この本を読んでいると、「楽園」だったはずの沖縄が「みんなで足を引っ張り合って、悪しき平等を維持しようとしている社会」のように見えてきます。
 正直、著者が書いているのは、あくまでも「著者がみた世界」であって、著者の沖縄での経験がバイアスになっているのでは……と感じるところもあるのです。
 その一方で、「日本人である僕が、ここに書かれている沖縄について感じること」は、「外国、とくに西欧から日本をみた人が感じること」に近いのではないか、と考えずにはいられません。

 目立たないように、みんなからはみ出してしまわないように、と競争することを避けてしまったがために、成長が停滞しているのだけれど、自分の身の回りの人々もみんな同じような状況なので、「こんなものなのかな……」と、なんとなく現状を受け入れてしまっている人々。
 その「同調圧力」にうまく適応でき、疑問を持たない人にとっては、「楽園」なのかもしれないけれど。


 この本の後半部には、著者が沖縄のホテルの経営立て直しを試み、一定の成功をおさめた「愛の経営」について書かれています。
 著者はすごい人だと思うのだけれど、その一方で、さまざまな事情で頓挫してしまった「従業員を大事にし、自分を愛する心を尊重する経営」が、沖縄に根付くのかどうか、僕は半信半疑でもありました。
 結局はひとりひとりが変わっていくしかない、ということなのでしょうけど、それができれば、こんなに長い間、「のんびりという名の停滞」に陥ってはいませんよね……これはこれで、適応できる人にとっては「居心地の良い社会」なのだろうし。

 「日本から貧困がなくならない本当の理由」が知りたい人にとっては、大きなヒントになる一冊だと思います。


本音の沖縄問題 (講談社現代新書)

本音の沖縄問題 (講談社現代新書)

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