琥珀色の戯言

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【読書感想】薬物依存症 ☆☆☆☆

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Kindle版もあります。

薬物依存症 (文春e-book)

薬物依存症 (文春e-book)

内容(「BOOK」データベースより)
衝撃の逮捕から4年。執行猶予満了を迎える清原が語った、薬物依存の怖さ、うつ病との戦い、そして家族との再会―。


 2020年6月22日、執行猶予期間を1週間前に満了した清原和博さんが、CSの『プロ野球ニュース』に出演していました。
 できることなら、野球に、とくに高校野球に関わって恩返ししたい、と語る清原さんは、けっこう元気そうに見えたんですよ。
 覚せい剤も使っていないのだろうし、だいぶ「回復」してきたのかもしれないな、野球界に復帰するのは簡単なことではないだろうけれど、うまく人生をやり直してくれればいいな、と僕は感じていたのです。

 この『薬物依存症』という本、清原さんへのインタビューをまとめたものなのですが、正直、「執行猶予明け直後に本を出すなんて、商売っ気があるなあ……」なんて思いながら書店でタイトルを眺めていたのです。
 自分はこんなに頑張って薬物依存を克服しました。もう大丈夫、これからは迷惑をかけた人たちのために頑張ります!
 そんな言葉が並んでいるのだろうな、と。

 ……この本を読みながら、僕は涙が出てきて仕方がありませんでした。

 僕は物心ついてからずっと広島カープの大ファンで、西武から巨人、オリックスと渡り歩いた清原選手に愛着はまったくなく(というより、「嫌いなチームの選手」であり続けたと言って良いと思います)、チャンスで変化球に三振した清原選手が、相手投手を「ストレート投げてこんか!お前〇ン〇マついとるんか!」と恫喝した、なんて話を聞いて、なんてガラが悪いやつなんだ……」と呆れかえっていたものです。

 そんな清原さんとほぼ同世代の僕でも、覚せい剤で逮捕されてからの清原さんのこの4年間の告白には、心を動かされずにはいられなかったのです。
 将来に希望を持てるほどの残り時間もなく、さりとて、すべて諦めて「終わり」を待つには、ロスタイムが長すぎる。

「ぼく、一生執行猶予でもいいんです。友人にもそう言ったんです。もう少し執行猶予、延ばしてくれへんかなって……」
 清原和博はそう言って視線を落とした。
 2020年のある夕刻のことだった。
「最初は会う人、会う人に『もうすぐ執行猶予が明けるね』と言われるんですけど、それが嫌で嫌で……。怖いんです。だって……」
 うつむいたままの清原はいつものように黒いスポーツウェアを着ていた。
 白だとか青だとかではなく、いつも黒。
 清原がまとっていたのはこの4年間、ほとんどその一色だった。
「だってぼく、ほとんど何も変わってないんですから」


 このインタビューでは、この4年間の清原さんの苦闘の一端が語られています。
 執行猶予期間中も、覚せい剤をやりたいという誘惑に何度もおそわれたことや、うつ病で薬を飲み続けていること、支援してくれる人に対して、うまくいかない苛立ちからひどい態度をとってしまったこと、アルコールはときどき飲んでいることなど。
 
 こんな状況であっても、応援してくれる人が絶えない清原さんは「恵まれた依存者」ではないか、という気もするんですよ。世の中の多くの薬物依存者は、身内からも見放されてしまうことが多いわけですから。
 その一方で、覚せい剤での逮捕後も、どこに行っても、有名人であること、清原和博であることから逃げられないという辛さもあるのです。
 甲子園の伝説のヒーローであり、超有名野球選手だった自分と、薬物に溺れて、仕事も家族も失ってしまった自分とのギャップは、今も清原さんを苦しめ続けている。
 リセットしてゼロから……ってわけにはいかないですよね。
 だって、「あの清原和博」なんだから。

 清原さんは、薬物をはじめたきっかけを、こう語っています。

 野球をやめた瞬間からどこかぽっかりと心に穴が空いたようで、いつも何かが足りないような気がしていました。
 つまり自分がもうホームランバッターではなくなったということを受け入れることができなかった。あのホームランの快感をどこかで追い求めていた。それに代わるものを探していたんです。
 昔からぼくには趣味がありませんでした。ゴルフにもギャンブルにも夢中にはなれない。野球解説者の仕事にも、タレントとしてテレビ出演する仕事にも、没頭することができませんでした。つくづく野球にしか夢中になれない人間で、野球がなくなったことに対する空白感というのがずっとありました。結局、ぼくは自分の手にあるものに目を向けることができず、失ったものばかりに目を向けていたんだと思います。
 そしてぼくは自分のことをだれよりも強い、だれにも負けない人間だと考えていて、つまりは傲慢だったんです。
 自分が描いていた清原和博というのはこんなものじゃない。そう悩むようになって、その心の喪失感を埋めるために、夜の街に飲みに出ることが増えていきました。
 あのとき、自分はどうい人生を歩みたかったのか、よくわかりません。ただただ歓声と快感と刺激を求めていたような気がします。
 お酒の量がどんどん増えていって、溺れるようになっていきました。
 そんなとき夜の酒場で薬物を持っているという人間に出会いました。その人物は白い粉を出して、これをやれば憂うつなんか吹っ飛んでしまうと言いました。そこでぼくは本当にもう軽い気持ちでそれを手にしたんです。
 目標を持てず、何者なのかわからない自分が嫌で嫌で、そうういう自分から逃げだしたくて、酒を飲んだ勢いでやったんです。
 その1回がすべてでした。あとから考えれば、そこからはもう転げ落ちるようでした。


 「いつから」薬物に手を染めていたのか、ということに関しては、疑問が残るのですが、人間って、酒を飲んだ勢いで気が大きくなって失敗することって少なからずありますよね……どうせ俺には効かないだろうけどやったるわ!みたいな感じだったのかもしれません。
 そういう「1回」がきっかけで、清原さんは、多くのものを失ってしまったのです。

 この本を読んでいると「依存」というのはそう簡単に克服できるものじゃないんだな、ということがよくわかります。
 一進一退というか、ちょっとしたきっかけや気持ちの変化で、また、引き戻されてしまう。

 清原さんが、大阪桐蔭金足農業との夏の甲子園決勝を観戦に行き、「逮捕されてから一度も見せたことがないような顔で笑っていた、と言われた」というエピソードが出てきます。
 清原さんは、ようやく甲子園と再会できた日、久しぶりに幸せな気分になって、美味しいお酒を飲んだそうです。

 ただ昇ったあとには必ずといっていいほど降りが待っている。人生はだいたいいつもそうなんです。
 ぼくの体は壮絶な高揚感にはするどく反応してしまうようになっていました。甲子園から戻ってしばらくすると、また倦怠感に襲われるようになったんです。
 甲子園での幸せな時間の反動のようなひどい落ち込みようでした。
 燃え尽き症候群といえばいいのでしょうか。
 あの夜に口にした美味しいお酒は、やがて現実から逃げるためのものになっていきました。そのころからぼくは、深酒をしてはたびたび酩酊するようになりました。
 ぼくは薬物依存とうつ病にくわえて、アルコールとも戦わなくてはいけないことを知っていくんです。


 薬も、酒も、やめればいいのに!というか、やめろよ、もう!
 ……そう簡単にやめられれば苦労しないんでしょうけど、そう叫びたくなるんですよ、読んでいると。
 
 助けてくれる友人がいて、「がんばってください」と声をかけてくれる人がいて、ふたりの子どもにも、最近は会うことができるようになった。
 でも、「良いこと」があるたびに、その反動で、清原さんは日常の憂鬱や気分の落ち込みが激しくなってしまう、その繰り返し。
 薬物依存というのは、ここまで人間の恒常性みたいなものを破壊してしまうのか……と絶句してしまう場面が、いくつもありました。

 ぼくが世の中の人たちにわかってもらいたいことは、薬物依存症が根性論や精神論ではどうにもならないとうことです。何度も薬物をやってしまうのは生きることを怠けているからだとか、意志が弱いからだと思われているかもしれませんが、それは違うんです。
 刑務所に入ったら薬物をやめられるのは、どれだけやりたくても手に入らないからやめられるだけです。社会に出て自由に生きながら、やれる環境にあっても薬物をやらないという生活は、とても自分ひとりの力では無理なんです。


 実際は、ほとんどの依存者が、人の助けを得られないまま、薬物の誘惑と闘っているんですよね。とはいえ、薬物に依存してしまった見知らぬ人をわざわざ助けるほど、みんな人生に余裕はないのです。

 清原さんは、薬物依存者のなかでは、恵まれた立場にある、と言えるのかもしれません。でも、そんなことはさておき、あれだけ社会的なバッシングを受けたにもかかわらず、清原さんを受け入れ、一緒に野球をしてくれる二人の息子さんたちのために、なんとか頑張ってもらいたい。

 僕の母親は、僕によく「頑張るしかないね」って言っていたのです。それを聞くたびに、心の中で「もうこんなに頑張っているのに……」と思っていたものでした。
 自分が親の亡くなった年齢に近づいてきて、僕は「どんなに大事な人に対してでも、『頑張って』としか言いようのない状況がある」ことがわかるようになりました。

 清原さん、頑張って!
 僕は清原さんの現役時代には贈ることがなかったエールを、いま、心からつぶやかずにはいられないのです。


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