琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

コロナ禍の経済不安……あなたのお金を守る方法とは?

保育士の給料が安い、銀行の利子が低い、不景気で店がつぶれる……なんで日本はこうなった?
身近な経済の疑問を、中国からきたお嫁さん・月(ユエ)サンに分かりやすく徹底解説!
コロナ禍のいま、政府はどうすべき? その答えがここにある!

身近な“お金”の問題が、 スッキリ分かって、明るい未来が見えてくる!
笑って読めて役に立つ、世界一やさしい経済マンガ!!

監修:飯田泰之(明治大学経済学部准教授)


 amazonでの紹介文には「世界一やさしい経済マンガ」と書かれているのです。
 たしかに、(経済を扱ったマンガとしては)わかりやすいし、読みやすいのは間違いありません。
 僕はこれまで、仕事と趣味のことばかりで、「お金」は普通に働いていればそんなに困らない、という人生を送ってきました。お金お金言うのは、みっともないことだとさえ思っていたのです。
 40代半ばくらいから、「経済」というものに興味を持つようになって、いま勉強中なのですが、結局のところ、経済というもの(あるいは、「経済政策というもの」)に、絶対的な正解はないみたいです。少なくとも、今の人類には、答えを出せていない。
 だからこそ、世界各国がいまも試行錯誤しているんですよね。
 
 この本で著者が述べていることも、現在の経済学のなかでのひとつの考え方でしかなくて、新型コロナウイルスによる不況や経済的なダメージに対して、本当に減税や大規模なお金の給付が「長い目でみても有効」なのかどうか。
 まさに生きるか死ぬか、という状況の患者さんに、耐性菌ができるかもしれないから、という理由で抗生物質を使わない選択はできない、というのがコロナ禍の現実ではあるのですけど。

 政府がお金を使えば、日本人がお金を持つようになり、物価上昇率が2%を超え、GDPが上昇していく。
 お金が回るようになって、物価以上に給料が上がっていき、日本は「豊か」になっていく。

 そんなにうまくいくのだろうか……

 僕は、新型コロナ禍が収束したあとは、コロナに対する経済政策で政府が使ったお金を「取り戻す」ために増税されるのではないか、と予想しています(著者もそれを危惧しています)。
 10%への消費増税も、結果的には景気を悪化させ、経済成長を阻害してしまったため、実際は税収アップにはつながっていないという説もあるようです。
 

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 海外でモノの価格が上がっている大きな理由のひとつは「人件費が上がっていること」なんですよね。
 アメリカでは「物価が2%ずつ上がるが、給料は3%ずつ上がっている」そうです。
 逆に言えば、日本でモノの価格が上がらないのは、「人件費を上げずに済んでいるから」でもあるのです。
 結果的に、物価を上げながら、それ以上に給料も上げてきた諸外国との差は、どんどん開いていきました。

 ただ、僕は、アメリカや韓国のような「自己責任的な競争社会」で、その国の「生産性」が向上し、GDPが上がっても、そこに住んでいる人たちは本当に幸せなのだろうか?と疑問ではあるんですよ。
 国のひとり当たりのGDPや収入が高いといっても、ごく一部の「超勝ち組」が稼ぎまくり、大多数の「負け組」の分をカバーして平均値を挙げるような社会って、「超勝ち組」以外にとっては、つらいのではなかろうか。
 自分の日常で見える範囲のみんなが同じくらい「ちょっと貧乏」なほうが、他者との「格差」をつねに意識させられる「豊かな国」よりも、「幸せ」なのではなかろうか。
 もちろん、経済学者はそんなことは言わないだろうし、グローバル化のなかでは、そういう国のサービスや技術は、「勝ち組」の国に、搾取されていくリスクもあるのですけど。

 この本は「わかりやすい」し、「面白い」けれど、わかったような気分になるのは、けっこう怖いことではないか、とも思うのです。
 そんなに簡単に正解が出るのであれば、こんなに苦労しないのではないか。
 そもそも、「日本が豊かになる」ことが、精神的なものも含めて「自分が豊かになる」ことにつながるのかどうか。
 他の国がどんどん経済成長を遂げ、「豊かになっている実感」が伝わってくるだけに、日本の停滞がもどかしい、というのはあるんですよね。
 実際の日本は、停滞しながら格差社会にもなっているのだから、「どうしてこうなった」って感じなのです。
 それでもまだ、「世界第3位の経済大国」なんだよなあ。

 この本のなかに、共産主義の敗北によって、経済や労働の問題を語ることができなくなり、代わりに環境問題や人権問題について闘うようになった「バラモン左翼」と、「個人の権利よりも組織や国全体の利益」という右翼思想と、その考え方に親和性があったビジネスエリートたちが結びついた「ビジネスエリート右翼」の話が出てきます。

 多くの「一般人」は、この両極の「意識が高い人たち」の空中戦に共感できず、取り残されているように感じているのです。
 アメリカでは、民主党の支持基盤だったはずのラストベルト(アメリカ合衆国の中西部地域と大西洋岸中部地域の一部に渡る、脱工業化が進んでいる地帯)の人たちが、トランプ前大統領を支持したことによって、トランプ政権が誕生しました。
 僕が以前読んだ本のなかで、この地域で長年ブルーカラーとして働き、民主党支持者だったという人たちが、「俺たちは仕事がなくて困っているのに、民主党の偉い連中はセクシャルマイノリティのトイレの話ばかりしている」という不満を口にしていました。

 この本は「わかりやすいけれど、正しいかどうかはわからない」と僕は思うのですが、結局のところ、経済的な充足というのは、人間にとってわかりやすい幸福というか、「不幸を減らせること」ではあります。
 多くの人が、経済に興味を持ち、実験的な経済政策を試行してみることを望めば、少なくとも、今のような停滞からの変化は期待できそうです。
 でも、アメリカのように、格差を拡げながら「経済成長」「生産性を向上」していくのって、本当に幸せなのだろうか……もしかしたら、「みんなで停滞しているからこそ、いまの日本はそれなりに住み心地が良い」人のほうが多いのかも……
 『機動戦士ガンダム』を観れば、みんなガンダムに乗る自分を想像するけれど、大部分の人はザクとかジムとかボールに乗るわけだし(実際は、ジムに乗っている人だって、けっこうなエリートパイロットなんだよね、たぶん)。


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