琥珀色の戯言

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【読書感想】「最前線の映画」を読む Vol.2 映画には「動機」がある ☆☆☆☆

内容(「BOOK」データベースより)
名作・傑作と呼ばれる映画には、かならず作り手の「動機」が隠されている!アカデミー賞受賞作『ROMA/ローマ』『シェイプ・オブ・ウォーター』『スリー・ビルボード』『ファントム・スレッド』をはじめ、『パターソン』『アンダー・ザ・シルバーレイク』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』など、近年の話題の映画を深読み。


 僕は年間30作くらい映画館で観ているのですが、この本で町山さんが紹介している12の作品のなかで、観たことがあるのは『シェイプ・オブ・ウォーター』だけでした。
 この12本の映画というのは、「カルト作品」ではないけれど、イオンモールシネコンでお客さんがたくさん観に来る、というタイプの作品でもありません。
 それでも、けっこう有名な俳優が主演している作品ばかりで、日本で大々的に公開されている映画というのは、多くの作品のなかのごく一部なのだということを思い知らされます。
 僕が唯一観ていた『シェイプ・オブ・ウォーター』の町山さんの解説を読んで、僕は作品を観ないで、この本を先に読むのはちょっともったいないかな、と思ったんですよ。

 研究所で半魚人は「両棲人間」と呼ばれている。それは、1928年にソ連の作家のアレクサンドル・ベリャーエフが書いた小説 両棲人間』から取られている。ある少年が、マッド・サイエンティストに改造されて、水中でもエラ呼吸ができる両棲人間にされてしまう。孤独な彼は真珠採りの少女に恋するが……いわば「逆人魚姫」だ。
 アンデルセンの『人魚姫』も、脚を得る代償に声を失った。
 イライザは、半魚人にこっそり近づき、レコードで音楽を聴かせる。この場面は『フランケンシュタインの花嫁』(35年)で、人間に虐待された人造人間が、バイオリンの音色に癒やされる場面に似ている。声が出せないイライザとしゃべれない半魚人を音楽がつなぐ。
「イライザが声を出せないのは、”声なき人々”の象徴だから」(ギレルモ・)デル・トロ(監督)は言う。
 イライザ以外の清掃員は親友のゼルダのような黒人やラテン系ばかり。1962年は黒人の人権が認められていく過渡期で(街頭のテレビに、黒人のデモが弾圧されるニュースが映る)、このような政府施設では、清掃や食堂など下働きばかりだった。
 たとえば、リー・ダニエルズ監督『大統領の執事の涙』(2013年)に描かれているように、歴代大統領の執事たちは、ずっと黒人だった。国家機密に関わる会話を耳にしたところで、黒人には何も理解できないだろう、仮に理解できたとしても何の行動も起こせないだろう──と見くびられていたのだ。
 1952年、ラルフ・エリクソンという黒人作家が、『見えない人間』という小説を発表している。「見えない人間」とは、透明人間という意味ではない。黒人のことだ。そこにいても、無視されていた人たち。
シェイプ・オブ・ウォーター』で、白人の研究員たちは、清掃員とすれ違っても挨拶をしない。見えていない。ホフステトラー(マイケル・スタルバーグ)という研究者以外は。


 映画というのは、すべてのシーンに「存在理由」があるのです。
 この本を読むと、ぼーっと眺めていただけのところに、そんな意味があったのか、と驚かされることばかりです。
 それと同時に、こういう予備知識がないと、作品の意味を十分に受け取れない、ということに、ハードルの高さも感じずにはいられません。
 キリスト教徒には常識である聖書の知識も、僕にはほとんどありませんし。
 町山さんの解説を読むことによって、僕にもそんな背景をそれなりに理解することはできるのだけれど、その解説は、どうしても「ネタバレ」にもなってしまうのです。
 もちろん、この本だけ読んでも十分面白いし、解説は面白いけど、この映画を2時間観るのはつらそうだな……」というのも何作かあったんですよ。

 本来は、予備知識なしでまず紹介されている映画をみてから、「答え合わせ」をするのがベストなのでしょうけど。

『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』なんて、解説を読んだかぎりでは、「ものすごく真剣なのか、何かの冗談なのか、よくわからなくなっている」感じなんですよ。

 なかでも、マーティンを演じるバリー・コーガンが笑いそうで困ったというのが、スパゲティを食べるシーン。
「僕のスパゲティの食べ方は父さんとそっくりだと言われた。世界中でこんな食べ方をするのは父さんと僕だけだと思った。けれど、後で、誰もがみんな同じ食べ方をすると知って、怒りがこみあげてきた。父さんが死んだと知ったときよりも頭に来た」
 このセリフだけなら、父を亡くした少年を嘘で喜ばせた人たちへの怒りとして共感できるが、その食べ方とは「スパゲティをフォークで巻いて巻いて巻いて、一皿全部フォークに巻き取って口に突っ込む」なのだ。あのさ、そんな食べ方、君以外に誰もしないから!


 たしかに、そんなことをする人は見たことがない、というか、それって可能なのだろうか……
 そのシーンを確認するためだけに、この映画をちょっと観てみたくもなったのですが。


 『ラブレス』のアンドレイ・ズビャギンツェフ監督の話。

 デビュー作『父、帰る』でも、息子を捨てた父親が戻ってきても、愛のなさは変わらない。結局、父親は死んでしまう。それはズビャギンツェフにとって心の中の父親を葬り去るための物語だった。しかし、その後も彼は愛なき親たちの物語を描き続けている。
「あなたは子どもの頃のトラウマを、いったいいつまで描き続けるつもりなんですか?」インタビューでそう聞かれたズビャギンツェフは、こう答えている。
 父親が死んだ後、手紙が届いた。父親の娘……つまり自分の腹違いの妹からだった。そこには「お父さんは、あなたの映画『父、帰る』を見たんです」と書いてあった。映画を見たあと、父親はベランダに出て、一人で黙って一時間くらい、夜の景色を見ながらタバコを吸っていたという。それを読んで、ズビャギンツェフは「僕を五十年前に捨てた男は、息子のことを少なくとも一時間は考えてくれた」と思ったという。


 映画には、これほどまでに監督の「想い」が込められているのです。
 「もっとメジャーな作品のレビューが読みたかったのに」と思いながら読み始めたのですが、読み終えたときには、「観たい映画」がたくさんできました。


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