Kindle版もあります。
内容(「BOOK」データベースより)
ビブリア古書堂に舞い込んだ新たな相談事。それは、この世に存在していないはずの本―横溝正史の幻の作品が何者かに盗まれたという奇妙なものだった。どこか様子がおかしい女店主と訪れたのは、元華族に連なる旧家の邸宅。老いた女主の死をきっかけに忽然と消えた古書。その謎に迫るうち、半世紀以上絡み合う一家の因縁が浮かび上がる。深まる疑念と迷宮入りする事件。ほどけなかった糸は、長い時を超え、やがて事の真相を紡ぎ始める―。
『ビブリア古書堂』の新シリーズ2作目。
新シリーズ1作目の『ビブリア古書堂の事件手帖 ~扉子と不思議な客人たち』が出たのは2018年9月ですから、約2年ぶりの新作です。
『ビブリア古書堂』後に、そのフォロワーとして、「ちょっと珍しい職業+若い女性+専門知識を活かした推理+恋愛要素」のライトノベルが、雨後の筍のようにたくさん登場しましたが(カフェとか和菓子とか時計修理とか)、結果的に僕がずっと読んでいるのはこのシリーズだけになってしまいました。
第2シリーズになって、栞子さんの娘である扉子さんが主役になる……のかと思いきや、今作は回想として、栞子+大輔夫婦がまだ結婚して間もない時期に起こった、横溝正史の幻の作品『雪割草』に関する事件が語られます。
作中でも触れられているのですが、この謎解きそのものが、横溝正史の作品世界のようでした。
「金田一耕助と角川映画」のイメージが強い横溝正史という作家の別の一面も紹介されています。
子どもの頃に江戸川乱歩の「少年探偵団シリーズ」や横溝正史の『獄門島』を読んでいた僕にとっては、「子ども向けだろうが、大人向けだろうが、読みたい本は読みたい」という扉子さんの気持ちはよくわかります。
でもまあ、親になってみると、「これは子どもに読ませて良い本なのか?」と思うこともやっぱりあるわけです。
僕は子どものころ、「子どもだから、という理由で『子ども向けの本』を読まされることに納得がいかなかったし、『教科書に載っているような『名作文学』よりも、むしろ、いま大人が読んでいる本を読みたかった」のです。
そのことは間違ってはいなかったと思うのだけれど、大人になってみると、僕自身の読書体験から「教養として読んでおくべき世界名作文学全集」的なものがすっぽり抜け落ちていて、しかしそれをいまさら読むのもなあ、という感じでまもなく50歳……本当に、本ってたくさんありますよね……
横溝正史の『獄門島』といえば、事件の重要な手がかりとなる言葉がモロに放送禁止用語だったのが、とくに印象に残っています。
映画『あしたのジョー』のパート2で、パンチドランカーの症状が出てきた矢吹ジョーが、何度も「〇チ〇イになっちまう……」という言葉を口にするのですが、僕がその映画をテレビの深夜放送でみた際にはジョーがそれを口にするたびに、「(ピー)になっちまう……」とピー音でセリフが消されていて、かえって変な感じになっていたのです。
でも、『あしたのジョー』の場合は、(ピー)が頻発してもストーリーの大筋には影響を与えない(それでも、しょっちゅう(ピー)(ピー)って音が入っていると、作品の世界に入り込めないのは事実です)。
ところが、『獄門島』は「(ピー)じゃが、仕方あるまい」という言葉の(ピー)の部分がダブルミーニングになっているというのが、事件の肝なので、ここが消されると、もう何がなんだか、ということになってしまうんですよ。
僕が観た『獄門島』は、市川崑監督、金田一役は石坂浩二さんのバージョンで、公開時や最初にテレビ放映された際には「差別用語」の部分が消されていなかった時代でした。
その後映画としてはリメイクされていないのは、放送禁止用語問題が大きいのかもしれませんね。Wikipediaによると、テレビでは、1977年版から2016年版まで、5回ドラマ化されているそうです。
僕はこれらのドラマを観たことはなかったので、これもWikipedia情報なのですが、放送禁止用語への配慮から、苦労している様子がうかがえます。2016年度版は「原作通り」だったそうなのですが、NHK-BSプレミアムだったから地上波よりは規制が緩かったのか、それとも、時代が変わって、書かれた当時の情況を考慮してそのまま、という判断がなされたのか。
今回の『ビブリア古書堂』は、この放送禁止用語に関するあれこれには触れられていませんが(ミステリのトリックについては言及しないようにしているのかもしれません)、僕も久しぶりに金田一シリーズを読み返してみたくなりました。
『雪割草』も、そういえば読んだことなかったなあ。
本の内容にはそんなに踏み込んでいないにもかかわらず、登場してくる本についての因縁話だけで、その本を読みたくなるのは、このシリーズでは「ちゃんと調べたことを書く」のと同時に、「知っている、わかっていることでも、『ビブリア古書堂』の世界に合わないことは、あえて書かないようにする」ことを徹底しているからなのだと思います。
第1シリーズとおんなじじゃない?
栞子さんと扉子さん、キャラ被りがちだし。
でも、この作品に関しては、年に1作くらいのペースであれば「前とおんなじ」で続いてくれれば十分なんだよなあ。