琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】トラックドライバーにも言わせて ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
幅寄せ、ノロノロ運転に急ブレーキ、アイドリングに堂々と路駐――どれも「深い理由があるんです」
公道上でとかく悪者にされがちなトラック。そのドライバーも「態度が悪い」と批判されがちだが、内情を知れば、そんな見方も一変するはず。
これまで語られてこなかったドライバーたちの本音を、元トラックドライバーの女性ライターが徹底解説!
読後、街中でトラックを見る目が一変すること必至!


 トラックが日本の物流を支えている、というのは知っているつもりだし、あの大きな車を長時間運転し続けるというのが過酷な労働だというのもわかります。
 車の運転が得意ではない僕は、遊びに出かけるときに借りてきたキャンピングカーを運転したとき、普段乗っている車より「周りが見えない」ことが怖くて仕方ありませんでした。
 僕はトラックを運転したことはないけれど、死角の多さや止まりにくさは、小型のキャンピングカーどころではないはず。

 そう頭では思っていても、追い越し車線をゆっくり走り続けていたり、路肩に停まっていたり、窓からタバコを投げ捨てたりするトラックに出くわすと、やっぱり苛立つのです。

 この新書は、自身もトラックドライバーとして働いていた著者が、一般車から「邪魔者」扱いされがちなトラックドライバーの事情と、運送業界が抱えている問題について語ったものです。
 読んでみると、トラックの「一般車を苛立たせる運転」には、そうせざるをえないさまざまな事情があることがわかります。
 よほどのことがないかぎり、指定時間の範囲内に届けられる宅急便や、再配達が基本的に無料であることなど、日本の顧客は運送業界に高いハードルを課しているのも事実で、その求めるレベルの高さが、ドライバーたちの負担にもつながっています。

 これらすべてのトラックには、共通して言えることがある。「死角」の多さだ。
 乗用車よりも車高があるため、トラックに乗ったことのない人からは、よく「視界が広そう」と思われる。確かに前方の見通しはいい。乗用車では、前のクルマのリア(後ろ)部分しか見えない事例も、トラックからだと2台3台先の乗用車まで見える。が、トラックはその形状ゆえに死角が多く、斜め後ろにいるバイクや、車体の下で遊んでいる子どもに気付きにくくなり、目視不足の事故を起こしやすい。
 こうした死角に毎度神経を尖らすトラックドライバーには、ある共通した思いがある。
「一度でいいから、一般ドライバーにもトラックの運転席に座ってもらい、どれほど見えないのか体感してもらいたい」ということ。
 筆者も心からそう思う。どんなにトラックの危険性を言葉で訴えても、その「車高の高さ」と「死角の怖さ」は、身をもって体感しないとなかなか分かってもらえない。

 特に死角になりやすいのは、トラックの左後方だ。
 乗用車では左後方を確認する際、後部座席に窓が付いているため、比較的外の状況を把握しやすいが、一般的なトラックは、座席から後部が全て壁。そのため、平ボディの場合、助手席の窓からリアウインドウ(後ろの壁に付いている小窓)までが完全な死角になることが頻繁にある。
 さらに箱車(荷台が箱型になっており、後部が開閉する作り(一部側面が開閉するタイプもある)のトラック)においては、いかんせん後ろが「箱」であるため、そのリアウインドウすらない。ゆえにルームミラーはほぼ飾りで、そこから得られる情報は、「自分の顔の疲れ具合」くらいなもの。そのため、取り付けていなくても車検が通るのだ。
 こうした結果、トラックは左後方が死角になりやすくなるのだが、よりによってトラックの左後方は、二輪車の「定位置」。彼らは隙を見つけるや否や、そこから最も危険なポイントである「トラックの真横」をすり抜けていこうとするのだ。
 ドライバーからすれば、彼らのこうしたすり抜けは、自殺行為以外の何ものでもない。


 トラックは左後方が死角になりやすい、というのは、トラックの運転者以外も知っておく必要はあると思います。交通事故の被害者にならないために。
 小型のキャンピングカーを運転したときのことを前述しましたが、運転していて「死角」があるというのは、本当に怖い。
 著者の話を読むと、トラックに乗ったことがない人が想像しているよりもずっと、トラックは死角が多いということがわかります。ルームミラーがなくても車検に通るくらい「見えないもの」だと認識されているんですね。
 もちろん、さまざまな情報をドライバーがリアルタイムに更新しながら、事故を起こさないように運転しているのでしょうけど、これからは、車の周囲を見ることができるカメラの搭載や人や障害物を感知するセンサーなど、テクノロジーの導入が進んでくるのではないかと思われます。
 トラック運送においては、人手不足もあり、いちはやく自動運転車の導入が推進されていくのかもしれませんね。
 しかし、そうなると、今度は「運送業界で働いていた人たちの雇用がなくなる」という問題が生じてくるわけです。
 医療の仕事もそうなのですが、「仕事がきついから、なんとかしてほしい」と思いつつ、「自分の仕事がなくなってしまったら困る」のですよね。

 一般ドライバーがトラックのノロノロ運転に「イライラする」と感じるのは、一般道や渋滞中だけではないはず。高速道路の「追越車線上」でも同じくらい邪魔だと感じるところだろう。が、これにもトラックの構造上の理由がある。
 大型トラックには、高速道路での事故防止のため、2003年からスピードリミッターの装着が義務付けられた。これにより、大型車はどんなにアクセルを踏み込んでも、時速90キロまでしか出せなくなったのだ(大型車の高速道路上の制限速度は時速80キロ)。
 そんな中、運送会社の多くが「社速」として時速80キロで走るトラックを、この90キロのトラックが追い越そうとすると、単純に計算しても約1分間「トラックの並走」が起きてしまう(車間80メートル、車長10メートルの場合)。
 こう言うと、「時速10キロの差くらい我慢して、全トラック時速80キロで最左車線を走ればいい」とする声が返ってくるのだが、時間と戦う長距離ドライバーにとって、1時間10キロの差は大変大きい。単純に計算して、10時間走れば100キロ。東京からだと、沼津あたりまでの差が開く。

 こうしてノロノロ走るトラックの中には、前の車両と大きく車間を空けて走るケースもあり、一般車から更なるひんしゅくを買うことがあるのだが、実はこの「車間」にもちゃんと理由がある。「荷崩れの回避」だ。


 トラックはスピードを出さないわけではなくて、出せないようになっているのです。
 その一方で、約束の時間ちょうどに荷物を届けなければならない(早すぎてもダメなのだそうです)。
 たしかに、たかが10キロでも、運転している時間が長くなると、大きな差がつきます。
 後ろで運転している一般車としては、トラックが前にいると視界が狭くなるので、前に出たいのだけれどなかなか出られない、という状況はつらいものがあるのですが。

 この本を読むと、大きなトラックが路肩に停車して休んでいるのも、駐車場でずっとアイドリングをしているのにも、それなりの理由があるのです。
 「ポイ捨て」に関しては、「一部の心無いドライバーのせいで、『トラックドライバーはマナーが悪い』と見なされがちで、自分たちも迷惑している」という声もあるようです。
 トラックは目立つだけに、あれやこれやと非難されがちではありますが、ポイ捨てもトラックドライバーだけがやっていることではありません。
 ただ、こちら側からすれば、「トラックと衝突しても、相手はまず死ぬことはないだろうけど、こっちは即死するな……」という怖さもあるんですよね。
 トラックドライバーだって、好きで事故を起こすわけないのだけれど。

 国土交通省が発表した「平成30年度宅配便取扱実績について」によると、同年の宅配便取扱個数は43億701万個。そのうちトラック運送は約98.9%にあたる42億6061万個で、日本の経済はトラックによる物流が支えていると言って間違いない。
 そんなトラックの配達員一人が担当する荷物の個数は、ネットショッピングが普及した現在、多い時で1日200個を超える。さらに日本には中元や歳暮など、他の国にはない「贈り物」についての習慣が多く、1年の間に幾度となくピークがやってくる。


(中略)


 周知の通り昨今の配達は、時間帯指定や再配達などのサービスが当然のように提供されている。そのほとんどが無料で行われるにも拘わらず、受取人からは数分遅れるだけで「何のための時間帯指定だ」というクレームが浴びせられる。中には、「午後5~7時」の時間帯指定で、「5時1分」にチャイムを鳴らしても「早いだろ」とクレームを付けてくる受取人もいるため、配達員の苦労は我々の想像以上だ。


 「時間内」であっても文句を言われたら、たまらないですよね。その一方で、時間指定とはいえ、その2時間から3時間のあいだは、ずっと家で、いつチャイムが鳴るかわからないまま待っているというのも、けっこうめんどくさいものではあるのです。頼んだのは自分なのに。
 こういうサービスというのは、上を目指せばキリがない、ということなのでしょう。
 
 トラックドライバー側の事情を知っても、運転中に前がトラックだったら「見えにくくて邪魔だなあ」とは思うでしょうし、高速道路をゆっくり走って道を塞いでいたら、相変わらずイライラするはずです。 
 それでも、「あちら側の事情」を知ることによって、その苛立ちの程度は、けっこう小さくすることができるのではないかという気はします。
 あの車で、僕がAmazonで買ったものを運んでいるのだ、と想像すれば、事故にあってほしくはないですし。


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