琥珀色の戯言

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アジアンタムブルー ☆☆


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2006年11月に公開された、阿部寛松下奈緒主演の純愛ストーリー。原作は、大崎善生による同名のベストセラー小説。愛らしいハート型の葉をもつシダ科の植物、“アジアンタム”。その性質は極めて繊細で、枯れ始めると手の施しようがなくなる危うさを孕んでいるが、ごくまれにその宿命を逃れ、再び美しい葉を茂らすことがあるという――。アジアンタムのような女性・続木葉子(松下奈緒)。雑誌編集者の山崎隆二(阿部寛)は、新進カメラマンである彼女に魅せられ、ふたりは次第に愛し合うようになる。しかし、葉子の身体にある異変が……


 この映画、最初の40分までは「ありがちな恋愛映画だけど、松下奈緒さんが演じている薄幸そうなカメラマンはけっこう存在感あるし、阿部寛さんも頑張っているし、そこそこ観られる映画だな、という感じでした。
 ところが、途中から本当にすごいんですよこれ。どんどん早送りしたくなってきます。
 
 すみません、この続きは完全ネタバレでお送りします。
 いつものように、まだ未見で、これから観る予定の方は、読まないでくださいね。

 以下ネタバレ感想。

 うわーまた『ラストラブ』観ちまったよ、というのが僕の率直な感想なんですが、この映画を観ていて驚いたのは、最初の40分くらいの時点での山崎と葉子が付き合い始めるシーンでした。エロ雑誌の編集と同級生の妻との不倫でボロボロになった山崎が、偶然入ったコンビニでバイトしていた面識のあるカメラマンの葉子と見つめあい……
 次のシーンで、いきなり同棲しちゃうんですよこの2人。いや、確かに2時間という上映時間は、原作に比べて短いとは思うのですが、この2人が「付き合い始めるプロセス」を観客は見たいと思うんですよ。こういう「孤独な2人」がどういうふうに相手との距離を測りながら近づいていくのかっていう。でも、そこをカットしちゃんですよねこれ。
 その後の2人はいきなりバカップル化。葉子がいきなり「普通の女の子」になって、山崎に甘えまくるようなシーンを見せられます。そんなキャラじゃないだろお前は、と説教したくなるくらい。僕はもう3倍速で観ようかと思いましたよ。
 1時間経ったくらいのシーンで、葉子はいきなりスキルス胃癌を宣告され、余命は1ヶ月に。いやほんと、ドラマや映画ってしょっちゅう人が記憶喪失やスキルス胃癌になりますが、20代女性がそんなにガンガンとスキルスにならねえよ……予後1ヵ月レベルだったら、体重も激減しているだろうし、無症状ってことはないだろ……
 そして、2人はニースに旅立つのですが、死ぬ前の葉子はいきなり服を脱ぎだし、山崎と葉子は激しくベッドで愛し合います。そんな体力どこにあるんだよ……スクリーンの松下さんは、最期まで顔色良好だし。
 でも、この映画、「ベッドシーンで松下奈緒さんが頑張っている分だけ(露出は全然ないですけどね)、『ラストラブ』よりマシ」だったのは事実なんですが。
 友人の妻との不倫の話は、伏線だと思わせておいて最後まで回収されずに終わってしまいますし、なんというか、「真面目にやっている分だけ、『ラストラブ』よりかわいそう」な感じでした。
 せっかくの原作をこんな映画にされて大崎善生さんもかわいそう……だと原作未読の僕は思ったのですが、

“ポルノ小説”『アジアンタムブルー』を読む
↑で、小説版の「あらすじ」を読んで驚きました。

 読者を大崎ワールドの虜にしてしまう装置として、新鮮なエロティシズムがある。主人公が高校1年の時だ。美術部の先輩、石原美津子と出会う。彼女は校内一の美女で、1年生の時に道展(北海道庁主催)で油絵の特選に選ばれている。東京芸術大学の油絵科を目指す才媛でもある。2人の年上の男性との恋愛で複雑な立場にあるが、そんな中、うぶな童貞でありながら、トラウマを抱えている主人公に、共感する部分を見出し、癒しの相手、逃避の場として、主人公に近づく。ある日、彼女は主人公を美術部の部室に呼び出し、性器をみせるのである。

 美津子はパンティを脱ぎ、グリーンのチェックのスカートをはいたまま、椅子に浅く腰掛け、「もっと近くに来て」「みたいんでしょう?」と言うのだ。やがて、左脚を椅子の肘掛の上に載せると、「さあ、見せてあげる」…スカートがまくれあがり、大きく伸びた青白い太股が見え、そしてその中心に今まで一度も見たことのない…「そこを開いてごらん」…。SEXはしない。別れ際、キスをしながら「私、君のことは本当に大好きよ。それは忘れないでね」…「これから先、どんなことがあっても頑張るのよ…」。

 この小説には、悲惨な死がいくつか出てくる。いわば、追い詰められた人々である。石原美津子のエピソードがその1つだ。美津子の本当の恋人は美術部の顧問の桶川で、公認の恋人が堀内。堀内は、美津子と桶川の仲を疑い、美術教員室から出てくる桶川をメッタ刺しにして殺してしまう。刺した堀内は、東大進学も何もかも捨てて学校近くの国道でダンプカーに飛び込む。車輪の跡には脳と黒ずんだ血と、髪の毛がアスファルトの上に芝生みたいに生えている。
 
 エピソードの2つ目。失意の主人公とデパートの屋上で知り合った中川宏美の夫は、宏美の友人と不倫の上に、ある日、突然、中央線(高円寺駅)に飛び込む。「昼前に元気に出ていった人が夕方5時に轢死体になっているってどんな気分だと思う。あなたならどうする?」(宏美)。警察には、ばらばらになった肉片ひとつひとつが几帳面に白い包帯でくるまれており、包帯には血がにじんでいた…。ところが、同時刻同駅で、不倫相手も逆方向の線に飛び込み自殺していた。

 いや、僕が悪かった。こういう原作を、よくぞここまで「まともな恋愛映画」にしたものだと思います。藤田明二監督おつかれさまでした。この原作って、「描写がくどいケータイ小説」だよねえ……「ケータイ小説」と「文学」の「ちがい」っていうのは、「細かい部分の描写にどのくらいこだわるか」だけなのかもしれないけど。 
 まあ、よっぽど阿部寛さんと松下奈緒さんのファンでもないかぎり、これを観るのなら、『ただ、君を愛してる』を観たほうが1万倍くらい有意義に時間を使えると思います。『ただ、君を』のほうも「トンデモ恋愛難病映画」なのだけれども、少なくともあの映画の宮崎あおいさんには一見の価値はあるので。

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