琥珀色の戯言

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【読書感想】フィリピンパブ嬢の社会学 ☆☆☆☆

フィリピンパブ嬢の社会学 (新潮新書)

フィリピンパブ嬢の社会学 (新潮新書)


Kindle版もあります。

フィリピンパブ嬢の社会学(新潮新書)

フィリピンパブ嬢の社会学(新潮新書)

内容(「BOOK」データベースより)
「アイシテルヨ~」の笑顔のかげに、凄まじい人生があった。フィリピンパブを研究するうちに、あるパブ嬢と付き合うようになった筆者は、その奴隷同然の暮らしを目の当たりにする。月給6万円、偽装結婚、ゴキブリ部屋に監視付、休みは月に2回だけ…そしてある日、彼女に懇願されて、雇い主のヤクザのところに、なぜか乗り込む羽目に!前代未聞、ノンフィクション系社会学


 著者は大学3年時「在日フィリピン女性の生活」をテーマにした国際政治学のゼミに入ったそうです。
 とくにフィリピンに興味があったわけではなく、「そのゼミに友達が何人か入ったから一緒に入っただけ」だったのだとか。
 それがきっかけで、人生が大きく変わってしまうことになりました。
 学生時代の部活でも「友達が入ったから一緒に入部した」という人のほうが、その友達よりも結果的にその部活にのめり込んでしまう、というのは、よくある話ではあります。

 ミカと知り合ったのは2011年、7月のこと。
 ミカの本名はミッシェル。フィリピン人だ。名古屋市中区の夜の繁華街、栄4丁目のフィリピンパブでホステスとして働いていた。
 僕はその頃、大学院生で、修士論文にフィリピン人ホステスのことを取り上げようと考えていた。大学院の女性指導教官は、国際政治学が専門で、ジェンダーや多文化共生の観点から、在日フィリピン人女性の生活についての研究、および支援を行っている。僕は教官に、名古屋にはフィリピンパブが集中していること、ホステスの多くが偽装結婚で来日していること、背景にはおそらく暴力団が絡んでいることなどを話したら、
「フィリピンパブについての学術調査は、これまで見たことがありません。面白い研究になるかもしれませんね」
 ということでOKが出た。
 それで実態調査のために訪れたパブで、テーブルについたホステスの一人が、たまたまミカだった。


 著者は、もともと夜の街が大好きな遊び人、というわけではなく、「学術調査のために」フィリピンパブに通いはじめ、このミカさんと交際することになったのです。
 ほんと、人生ってわからないものだなあ、と。

 ミカがメイ(ミカの姉)に日本行きの決意を伝えると、日本から行くマネージャーにマニラで会えといわれた。僕がミカに会う1年半前のことだ。
「2010年の2月ぐらいかな。マニラに住む日本人の家で、日本から来た4人の男と会った。一人はナカタ、一人はイシハラ、あとの2人も日本人の男性ね」
「ナカタ」はミカのマネージャーだ。イシハラは偽装結婚斡旋組織の中心的人物であるサイトウの下で働く男。偽装結婚の斡旋に詳しく、サイトウが案内役としてナカタに付けた人物だという。あとの2人は偽装結婚相手の候補だった。
 ナカタはミカに、この2人のうちどっちと結婚したいか尋ねてきた。
「私は小太りの男を選んだの。その男がお姉さんのお客さんだったから。お姉さんから、私の客と結婚すれば安心だからっていわれてた」
 ミカが選んだ結婚相手はコクボという男だった。34歳。メイの客だが、ナカタの子分のような存在だった。偽装結婚すると、ナカタからコクボに毎月5万円の報酬が出るということは、この時聞いた。
 結婚相手が決まると、ミカはナカタから契約内容を聞かされた。契約期間は2年。仕事は日本人の男と酒を飲んで話すだけの簡単な仕事。給料は1年目は月6万円、1年経つと1万円上がる。他に食費として月1万5千円。休みは月2回。マネージャーの許可なく外出してはダメ……。
 契約書類はなかった。だいたい偽装結婚をもとにできあがっている契約だ。文書にできるわけがない。それに、文書がなければいくらでも変更がきくし、訴えられることもない。

 水商売、それも外国から出稼ぎにきている人と付き合うとなると、お金を搾り取られて、「金の切れ目が縁の切れ目」になるのではないか、と考えてしまうのですが、著者とミカさんの場合は、事態は意外な展開をみせていきます。
 ただ、ミカさんを日本に送り出した家族の金銭感覚については、読んでいて、これはキツいな、と思わずにはいられませんでした。
 ふだんの仕送りの他に、帰省すると、身内がなんだかんだと理由をつけて、お金を貰おうとしてくるのです。
 日本とフィリピンの間には、まだこんなに経済格差があるのか、と驚きました。
 僕が子どもの頃の30年前くらいであれば、「フィリピンは貧しくて、日本は豊かなんだな」と納得していたと思うのですが、中国人観光客が博多で「爆買い」し、ハウステンボスに団体で来てワイワイやっている現在の日本でも、フィリピンの田舎と比べると、こんな条件で「出稼ぎ」に来るほどの格差があるのですね。
 ミカさんは、著者に対しては、お金を引き出そうともせず、2人でつつましい生活を送っているのですが、その一方で、ミカさんはパブで贔屓にしている「お金持ちの客」から、フィリピンまでの旅費や家族へのお土産代を何十万円も無心するのです。
 もちろん、それに対して、気前よく払えるくらいの経済力がある相手なのでしょうけど、正直、僕はこの「おねだり」に、あんまり好感を持てませんでした。
 こういうのは「夜の世界の常識」みたいなのがあるのかもしれないけれど……

 ミカに「ホステスは大変じゃないの?」と聞いたことがある。
「それは大変だよ。売上ノルマとかペナルティーもあるし、毎日仕事だからね。でも幸せだよ。だって仕事あるじゃん、フィリピンは仕事ない。それにあなたがいるから幸せ。毎日、楽しいよ」


 それでも仕事があるし、家族に仕送りができるくらい稼げるから幸せ。
 働く側も、働かせる側も、お金を貰う側も、出す側も満足なのだから、それで良いじゃいか、というのと、本当にそれで良いのか、というのと。

 ミカと結婚すると決めたとき、送金のことは覚悟していた。しかし、フィリピンの家族のすさまじい金の要求を目の当たりにすると、これからどうすればいいのか不安になってしまった。
 その夜、僕はカイル君に電話した。初めてフィリピンを訪れたときにホームステイした家の友だちだ。いまカイル君はアラブ首長国連邦のドバイの病院で看護師として働いている。
「今フィリピンに来ているんだ。ミカの家族がどれだけ金を送っても、すぐに使って要求する。どうすればいいんだろう」
「どこの家族も同じだよ。フィリピンの家族は、僕たちが金持ちの国でたくさん稼いでいると思ってるから、いくらでも金を送ってもらえると思っている。そうじゃないなんて、いくら説明しても無理だよ」
 カイル君のドバイでの給料は月30万円。フィリピンでの給料は約3万円だったから、10倍も違う。もちろん家族に仕送りもする。8万円プラス妹の学費。それでも母から、頻繁に送金の催促がある。
 フィリピンでは国民の1割が海外に出稼ぎに出ている。そして彼らから送られてくる外貨送金がフィリピンの消費を生み出し、経済を支えているのだ。ミカの家族のように、送金だけで生活しているというのは、一家族の問題ではない。国全体の問題なのだ。それは分かっている。分かってはいても、受け入れることは難しい。


 家族からの送金に頼って生活するのが「当たり前」である国と、「そんなのは家族とはいえ、恥ずかしいこと」だと考える国。たしかに「分かってはいても、受け入れることは難しい」だろうなあ。
 正直、「美談」とも言いきれないし、何かスッキリしないところはあるんですよ。
 でも、だからこそ、これも「ひとつの現実」なのだろうと思うのです。


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