琥珀色の戯言

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【読書感想】移民の宴 ☆☆☆


移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活

移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活


こちらはKindle版。ちょっと写真は見づらいかも。
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内容紹介
おとなの週末」の人気連載を単行本化。年明けにクリスマスを祝うロシア人、カレーライスもラーメンも食べられないけれど、寿司は大好きというムスリム(イスラム教徒)の人々、屋台街のような中華学校の「園遊会」、レストランの賄いもワインとチーズ付きのフランス人……。知られざるご近所さんの食卓に突撃。日本初の”ごはん”文化比較論的ルポ。


「日本に住んでいる外国人たちは、ふだん、どんなものを食べているのか?」
他人の食生活というのは、けっこう気になるものですよね。
著者は、観光ではなく、日本に長年住んで、生活をしている、さまざまな外国人たちの「ふだんの食生活」を取材しています。
彼らは、日本にいても、母国の料理を食べ続けているのか、日本料理ばかり食べているのか、それとも、両者の折衷状態なのか?


まあ、この本のなかで紹介されているのは、「ふだん家族だけで食べる料理」というよりは、大勢が集まったときに食べるような「おもてなし用」の母国の料理が多いのですけどね。

 いま、日本には外国人が207万人もいるという(2011年6月調べ)。もはや人口206万人の岐阜県に匹敵し、名古屋市の人口に迫る勢いで、全くもって大変な数だ。
 実際に、外国人はどこにでもいる。電車に乗っても、コンビニエンスストアやショッピングモールに入っても、繁華街や光司現場を通りかかっても見かける。親戚や友人が外国人と結婚したとか、小学校や中学校では学年に何人かは外国人がいるとか耳にする。
 彼らの多くは一時的な滞在者ではない。十年、二十年という単位で住み、日本語を話、日本で家庭生活を営んでいる。日本に移り住み、ここに根を下ろした人たちなのである。

 僕が現在住んでいる九州の地方都市には、東京ほど多くの外国人はいません。
 それでも、コンビニやファミリーレストランなどで働いている外国人の姿をみる機会は、少しずつ増えています。
 同じ国、同じ土地で暮らしていても、彼らが普段どんな生活をしているのかというのは、全く知る機会がありません。
 この本は「食生活」だけではなく、彼らのなかでのコミュニティ、そして、地元の日本人たちとの関わりが「食」をテーマに描かれているのです。

 
 この本を読んでいると、ムスリムイスラム教徒)に寿司好きの人が多い、なんて話が出てきます。
 寿司といえばナマ魚ですから、肉を食べることが多そうな彼らにとっては、ちょっと抵抗がありそうな気がします。
 著者は、彼らが「寿司好き」になった理由を、ハラルミート(イスラムの作法にのっとって処理した肉)を入手するのが大変で、また、「豚肉を食べてはいけない(スープなどのダシをとるために使用するのも禁止)」などのイスラム教の禁忌について無頓着な日本では、肉料理よりも魚料理のほうが「かえって安心して食べられる面がある」のではないかと推測しています。
 その一方で、

 ちなみに、(ムスリムが多い地域の)スーパーのハラルチキンは非はラルのチキンと値段が変わらない。河井さんによれば「血抜きが上手だからおいしい」という日本人もいるとか。とすれば、日本人も当たり前にハラルミートを食べる時代に突入するかもしれない。

 とも書かれています。
「おいしいから」イスラム教の教義にのっとって処理されたハラルミートを選ぶ日本人。
 別にそれは悪いことでもなんでもないのですが、なんだかちょっと不思議な感じもしますね。


 母国の料理と日本食の割合については、お国柄というよりは、それぞれの外国人の生活環境によって、という感じなのですが、「母国の料理しか食べない」という人は、この本のなかには出てきません。
「母国の料理と日本料理が入り混じっている」か、「日本食中心」という場合が多いようです。


ある台湾人女性の場合。

 呉さんは家では日本食と中華料理の両方を作るという。台湾では料理をしたことがなかったが、日本に来てから料理教室に通って日本食を習い、また台湾に里帰りしたとき台湾料理をお母さんやお姉さんに習った。
 うちでの食事はどちらかというと日本食が多いという。
「やっぱり子供は保育園から日本食を食べているし、それに台湾の料理は作るのが大変」
 中華は炒め物が多くて簡単じゃないかと思うのは、私たち(というか私?)が無知だからのようだ。呉さんによれば、「とにかく時間がかかる」。
「調味料が多いし、下準備に手間がかかるんですよ。それに色も気にするので、味だけでなく色のバランスにも気を配らなければならないし」
 その点、日本食は煮物や焼き魚など簡単で手早くできる。子供たちはハンバーグやカレーも好きだという。


 ただし、「日本食は簡単で手軽なのか」については、著者はこうも述べています。
「外国の家庭料理は、時間や手間はかかるけれど、一度つくったら何日も同じものを食べることが多い。日本食の場合はそうはいかないし、それこそ『ハンバーグやカレーから煮物まで』料理法やメニューのバリエーションが多彩なので、けっして『簡単』ではない」
 これは確かにそうだな、と思います。
 日本の「家庭料理」って、ファミリーレストランのメニューみたいに、さまざまなジャンルのものが含まれているのだから。



 この本を読んでいてあらためて考えさせられたのは「外国人」とは何なのか?ということでした。


 東日本大震災の際、南三陸町で被災したフィリピン人女性は、こう語っていたのです。

 日本人被災者の多くは被災地を離れたくないと思っている。それはそこが生まれ育った故郷だからだ。でも彼女はフィリピン人。国に帰るという選択肢はないのだろうか。
 そう訊くと、彼女は静かに微笑んで首を振った。
「日本で35年、この町に20年、誤解を受けながら長い時間をかけて地元に溶け込みやっと仲間になれたんです。今更他の土地に住むつもりはないですね」
 南三陸町に生まれ育った人にとっては自動的にここが居場所だが、アメリアさんにとっては努力してやっとの思いで獲得した居場所なのだ。この土地生まれの人と同じかそれ以上の愛着があるということだ。


(中略)


 でも今の困難な状況が一段落するまで、一時帰国するという手はあるんじゃないか。
地震の直後はそう思ったときもあるけど、パパさん(夫)を置いて帰るわけにいかない。一緒に行ってもパパさんは言葉がわからないし。私は子供がもう大きいけど、他の人たちは子供がまだ学校に行ってるから、やっぱりフィリピンに行っても困るんです。
 それにうちの人がゼロから始めるなら、私がそばにいたい。背中を押して、押して……」
 日本に、南三陸町にしっかりと根を下ろしている。在日外国人というより「外国籍日本人」と呼ぶべき人たちなのである。

 この女性はフィリピンで生まれ、国籍はフィリピンかもしれないけれど、在日外国人にヘイトスピーチを繰り返す「日本で生まれ、日本国籍を持つ人」よりも、ずっとずっと「日本人」なのではないか、と僕は感じます。
 

 この本に出てくる「外国人」の多くが、住み続けたいと思うような日本であってほしいと思うのです。
 これだけさまざまな食べものを受けいれ、取り入れてきた日本人になら、きっとできるはずだから。

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