- 作者: 帚木蓬生
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2010/09/03
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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内容紹介
国内推定200万人。ギャンブル依存症緊急レポート
パチンコ、スロット、競輪、競馬・・・。庶民の娯楽の陰で、急速に増え続ける依存者。依存症は意志の問題ではなく、進行性の病気なのだ。依存症の全貌と回復への具体的な治療を明かす、衝撃レポート。
内容(「BOOK」データベースより)
国内推定200万人。まさか自分は…と侮るなかれ!ギャンブル依存症は、進行性の病気なのだ。様々な症例と共に、この病の全貌を紹介し、立ち直りへの具体的な治療を明らかにする。患者のギャンブル依存と闘う、作家・精神科医の緊急レポート。
これは本当に「身につまされる本」であり、パチンコにハマっていたことがある僕にとっては、全くもって「他人事ではない」と感じました。
ギャンブルにハマるのは「特別な、心が弱い人」だと思われがちなのですが、現実は必ずしもそうではありません。
この本の前半部の「ギャンブル依存症の人たちの体験告白」を読むと、どこにでもいる「普通の人」が、ちょっとしたきっかけからパチンコやパチスロを知って、いつのまにかギャンブル依存になり、消費者金融から借金を重ね、身内に迷惑をかけ続けている「ギャンブル依存症患者」になっていくことがよくわかります。
わたしが始めてパチンコ店に行ったのは、短大のときです。一年生の夏休みに、三歳年上の兄が連れて行ってくれました。店の中は騒音でやかましく、タバコの煙が充満していて、こんな所に何時間もいたら病気になると思いました。
わたしは40代半ばまでは、ごく普通の主婦でした。高校を卒業して農協に勤め、二十二歳のとき伯父の仲介で見合い結婚をしました。相手は6歳年上でタイル工場に勤めていました。仕事人間で、納期が迫ったときなど、残業も休日出勤も断らないような人でした。
私がパチスロを始めたのは大学二年のときでした。奨学金をもらっていましたが、振り込まれたその日に全部使ってしまうこともありました。そんなときは田舎の母親に電話をして、教科書代が予想以上にかさんだとか、大学のゼミで合宿をしなければならないとか、適当な嘘を言って送金してもらっていました。両親とも大学には行っていないので、大学がどんな所か全く分からないのです。嘘は簡単に通りました。
私がパチンコにはまり出したのは、高校を卒業してしばらく農協に勤め、四年で転職、事務用品の会社の営業マンになってからです。時間があればパチンコをしていました。休みの日は朝からです。その頃、見合い結婚をしていましたが、残業や休日出勤だといえば、妻も信じていました。
パチンコ(パチスロ)というのは、本当に「ちょっとした心の隙間」に、するりと入り込んでくるのです。
この本の前半部分6人のギャンブル依存症患者の体験記なのですが、普通の、というかむしろ、世間では「平凡」であったはずの人たちが、いとも簡単に「ギャンブル地獄」に引きずりこまれていく様子が、赤裸々に告白されています。
「ギャンブル依存症になった後の彼らの行動」のあまりの酷さに、同情するのも難しいのですが……
ギャンブル依存は、患者の人格そのものを変えてしまうのだけれども、周囲の人たちは「改心すれば、ギャンブルをやらなくなって、真人間に戻る」と思いこんでしまい、傷口をどんどん広げてしまうのです。
この本の冒頭に「病的ギャンブラーの自助グループ(GA)での20の質問」が収録されています。
(1)ギャンブルのために、仕事や学業がおろそかになることがありましたか。
(2)ギャンブルのために、家族が不幸になることがありましたか。
(3)ギャンブルのために、評判が悪くなることがありました。
(4)ギャンブルをしたあとで、自責の念を感じることがありましたか。
(5)借金を払うためのお金を工面するためや、お金に困っているときに、何とかしようとしてギャンブルをすることがありましたか。
(6)ギャンブルのために、意欲や能率が落ちることがありましたか。
(7)負けたあとで、すぐにまたやって、負けを取り戻さなければと思うことがありましたか。
(8)勝ったあとで、すぐにまたやって、もっと勝ちたいという強い欲求を感じることがありましたか。
(9)一文なしになるまで、ギャンブルをすることがよくありましたか。
(10)ギャンブルの資金をつくるために、借金をすることがありましたか。
(11)ギャンブルの資金をつくるために、自分や家族のものを売ることがありましたか。
(12)正常な支払いのために、「ギャンブルの元手」を使うのを渋ることがありましたか。
(13)ギャンブルのために、家族の幸せをかえりみないようになることがありましたか。
(14)予定していたよりも長く、ギャンブルをしてしまうことがありましたか。
(15)悩みやトラブルから逃げようとして、ギャンブルをすることがありましたか。
(16)ギャンブルの資金を工面するために、法律に触れることをしたか、しようと考えることがありましたか。
(17)ギャンブルのために不眠になることがありましたか。
(18)口論や失望や欲求不満のために、ギャンブルをしたいという衝動にかられたことがありますか。
(19)良いことがあると、2,3時間ギャンブルをして祝おうという欲求が起きることがありましたか。
(20)ギャンブルが原因で自殺しようと考えることがありましたか。
上記の質問のうち、7項目以上が「はい」なら、病気です。
ちなみに僕は5項目しか(?)あてはまりませんでした。
でも、いちばんハマっていた時期なら、7項目は軽くクリアしていたのではないかと思いますが。
「ギャンブル依存症」というのは、実際のところ、表に出ているよりもはるかに患者さんの数が多い病気なのでしょう。
本人も家族も「意志が弱いから、ギャンブルをやめられないのだ」と思いこみ、それが「自分の意志ではどうしようもない病気」だなんて、夢にも思わない。
そして、涙を流して謝罪する患者のために、借金を肩代わりしてやるのだけれど、患者はまた性懲りもなく借金をしてしまう。その繰り返し。
著者は、この本のなかで、患者本人への治療だけではなく、家族を中心とした周囲の人々の「対処法」も詳しく書いています。
病的ギャンブリングに関して、患者自身そして家族がともに陥っている錯覚は、この病気が本人の<意志>の力でどうにでもなると思っていることです。
本人の<意志>が弱いからギャンブル地獄に陥り、抜け出せないのだとたいていの人は思っています。このため、<意志>さえしっかり持てばギャンブルはやめられると信じ、誓約書を書かせて、借金のしりぬぐいをする例があとを絶ちません。
病的ギャンブラー百人を調べた私の統計では、二十四人が精神科的合併を有していました。約四分の一です。
最も多いのはうつ病でした。十七人です。(中略)
うつ病の次に多かったのがアルコール依存症で、百人のうち五人いました。しかしこれはアルコール依存の診断を厳しくしていますので、アルコール乱用も含めると、この三倍くらいの数字になると思われます。
こと病的ギャンブリングには、<援助しない援助>があることを忘れてはなりません。病的ギャンブラーの回復は、この<援助しない援助>からすべて始まるのです。
このとき、一番頭を悩ますのが、借金でしょう。家族にとっては、利息も増えるし、早晩自分たちの身にも災禍が降りかかってきそうな気がしてなりません。早く清算してやろうという性急な解決策をとりがちです。
本人の借金は本人に返済させる。返済できなければ、債務処理をする。これが鉄則です。本人の借金を、連帯保証人にもなっていない親兄弟が支払う必要は全くありません。
債務整理も、ギャンブルの治療に導かないでやっても、これは尻ぬぐいと同じ効果になってしまいます。まずは病的ギャンブリングの治療を最優先させ、それからおもむろに債務整理にとりかかるのです。
周囲の人たちが、「本人のため」だと思ってやっていることが、本人の治療のためにマイナスになることは、けっして少なくないようです。
<援助しない援助>なんて言われても、なかなか実感できないとは思うのですが、この本を読んでいただければ、著者の「真意」が理解していただけるはずです。
そして、僕が驚いたというか、「やっぱりなあ」と痛感させられたのは、この「病的ギャンブリングの原因」について書かれているところでした。
先に述べたように、私のメンタルクリニックを初診した病的ギャンブラー百人の統計があります。
パチンコのみ 17人(4人)
スロットのみ 22人(2人)
パチンコとスロット 43人(2人)
百人のうち、何と八十二人が、パチンコ・スロットによってギャンブル地獄にはまり込んでいました。()内は女性の数です。女性は八人しかいなかったので、その全員がパチンコ・スロットで地獄行きになっています。
ちなみに、残りの十八人は、ひとりずつ、はまり込んでいるギャンブルの種類が微妙に違っていました。
ちなみに、残りの18人のうち、パチンコ・スロットをやらない病的ギャンブラーは、わずかに4人だけだったそうです。
地域によって多少の違いはあるのでしょうが、僕が住んでいるところでは、パチンコ屋の営業時間は、だいたい、10時から23時までです。
要するに、打つ側がその気になれば、朝から夜中まで、延々と店内でパチンコをすることが可能なんですよね。
しかも、2週間に1日くらいの店休日を除けば、ほぼ毎日、パチンコ屋は営業しています。
これだけ身近なところに、一日中オープンしているギャンブル場があれば、そりゃあ、「依存症」にもなりますよね……
自分自身、あるいは身内が「病的ギャンブラー」であることが疑われるのであれば、ぜひ一度この本を手にとって、読んでみてください。
そして、そうでない人も、こんなに身近な場所で「一日中・365日」ギャンブルができる国・日本のありかたについて、考えてみていただきたいのです。
けっして「他人事」ではないし、「ちょっとしたきっかけで、ギャンブル依存症になってしまうくらいの心の弱さ」は、誰にでもあるはず。
「病的ギャンブリング」は、誰でもかかる可能性がある「病気」です。
僕は、子供が生まれてから、パチンコ屋にほとんど行かなくなりました。
最近ふと思ったのだけれど、子供が生まれてから、「死にたい」と思うことが無くなったというか、死ぬことそのものを考えなくなったんですよね。
僕はそれだけでも息子に感謝していますし、なんとか生きていてよかったな、と思っています。
ギャンブルは、やっぱり楽しい。
でも、ギャンブルにしか「生きがいのようなもの」を見出せない人生は、やっぱり悲しい。
↑で御紹介した「20の質問」で、自分自身が7項目以上あてはまる、あるいは、周囲にあてはまる人がいれば、ぜひ、この本を読んでみていただきたいと思います。