琥珀色の戯言

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【読書感想】火のないところに煙は ☆☆☆

火のないところに煙は

火のないところに煙は


Kindle版もあります。

火のないところに煙は

火のないところに煙は

内容(「BOOK」データベースより)
「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」突然の依頼に、作家の「私」は、かつての凄惨な体験を振り返る。解けない謎、救えなかった友人、そこから逃げ出した自分。「私」は、事件を小説として発表することで情報を集めようとするが―。予測不可能な展開とどんでん返しの波状攻撃にあなたも必ず騙される。一気読み不可避、寝不足必至!!読み始めたら引き返せない、戦慄の暗黒ミステリ!


 「2019年ひとり本屋大賞」3作目。
 オカルトを題材にした連作短編集で、「怖い」との評判も聞くのですが、僕はもともとホラーとかオカルトには「アリバイ崩し」的な興味しかないので、ちょっと乗り切れなかったな、というのが正直なところです。
 この作品は、「ミステリ」のカテゴリーで紹介されることが多いこともあり、読みながら、「最後にすべての短編がリンクして、『謎解き』が行われるのだろうな、この超常現象を、どんなふうに種明かしするのだろう?」と楽しみにしていました。
 読み終えてみると、消化不良な感じなんですよ。
 いや、こういう超常現象みたいなのは、むしろ、ちょっとぼんやりしたような読後感のほうが「怖い」とも思うんですが、そういう点を加味しても、なぜこれが『本屋大賞』最終候補の10作に選ばれたのか、僕によくわかりませんでした。
 
 ただ、いかにも知人や隣人から何かの折に聞かされそうな、ゴロゴロはしていないけれど、一生に一度や二度は接する機会がありそうな「呪い」とか、「霊」とか「占い」の話は、そんなに突飛なものではないだけに、ちょっと背筋が冷たくなるところはあるのです。

 なかでも、第三話の「妄言」という、「親切そうなんだけど、実際はものすごく迷惑な隣人の話」は、ああ、こういうことって、ある(あった)よなあ、と深く嘆息せずにはいられませんでした。
 住む家は選べても、隣人って、選べない。用心したつもりでも、困った人が引っ越してくることもある。

――何なんだ、これは。
 自分は本当のことしか言っていない。身に覚えがないからそう主張しているだけだ。なのに、なぜ言えば言うほど嘘みたいになってしまうのか。
「俺のことが信じられないのかよ」
 崇史さんは、腹の底に力を込めて声をしぼり出した。
「俺の言うことより、隣に住んでるだけの人間の言うことを信じるのか」
 ようやく、妻の視線が泳ぎ始める。
「私だって、寿子さんの考えすぎだろうって思ったけど……でも、あなたが嘘をついたりするから」
「だから嘘なんてついてないって言ってるだろ。俺は本当に今日はまだ夕飯食ってないんだよ」
「でも、寿子さんは絶対に崇史さんだったって言うし、妻の妊娠中に浮気する人って多いって聞くし……それに、火のないところに煙は立たないっていうじゃない」


 僕の経験上、善人のようにみせかけて、「火のないところに煙を立ててほくそ笑む人」って、少なからずいるんですよ。なぜそんなことをするのか理解不能なのだけれど、理解不能なだけに「わざわざそんなことをする人がいるわけがない」と考えてしまう人もいる。
 なぜ身近な、長い付き合いの人よりも、そんな浅いつきあいの人の嘘や告げ口を信じてしまうのか?
 人は「信じたいものを信じる」生き物であり、そういう嘘や悪口が「信じたいこと」なのか?
 そういう人って、また、相手の心が弱っていたり、疑心暗鬼になっているタイミングで、攻撃を仕掛けてくるんですよね。
 
 結局、超常現象よりも怖いのは、人の思い込みとか疑いの心なのではないか、と感じるところがたくさんあるのが、この作品集の本当の「怖さ」なのかもしれません。
 個人的には「怖いというより、なんかいろんな不快なことを思い出してしまう作品」なので、おすすめはしかねます。
 それはそれで、著者にとっては目論見通り、ではあるような気もするのですが。


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