- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
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- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2017/08/10
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内容(「BOOK」データベースより)
最強の殺し屋は―恐妻家。「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。一人息子の克巳もあきれるほどだ。兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。引退に必要な金を稼ぐため、仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。『グラスホッパー』『マリアビートル』に連なる殺し屋シリーズ最新作!書き下ろし2篇を加えた計5篇。
『本屋大賞』ノミネート作。
伊坂幸太郎さんの「殺し屋シリーズ」は、複数の殺し屋たちの思惑が入り乱れて、話が思わぬ方向に転がっていく……という展開が多いのですが、この『AX』では、超一流の殺し屋「兜」の日常というか、裏稼業での冷酷さとひたすら家庭では気を遣っている恐妻家の面とのギャップが主に描かれています。このシリーズでは、比較的短い章ごとに、一人称の人物が次々と入れ替わっていくのだけれど、『AX』は「兜」ばっかりだな……と思いながら読んでいたのです。ところが、それにもちゃんと理由があった。
兜は愛妻家、マイホームパパというか、本当に「恐妻家」という感じなのですが、読んでいると「こういうのあるよなあ、というか、これ書いたの僕じゃない?」と思うような、リアルな「家庭生活あるある」で構成されています。
正直、兜の殺し屋稼業よりも、「伊坂さん、これ、誰かに取材して書いたのだろうか、それとも、あんなにナイスガイで家庭生活もうまくいってそうな伊坂さんも、こんなことを日々考えているのだろうか……」というほうが気になってしょうがなかったのです。
家に帰ると、克巳が居間にいて、カップラーメンを食べていた。育ちざかりの高校生なのだから、もっと栄養のあるものを食べろ、と兜は言わない。自分が同じ年の頃は、もっといい加減な食生活で、というよりも生活自体が爛れきっていたため、言う資格がないという思いだったが、それ以上に、「カップラーメンなど食べるな」と否定すれば、それはすなわち妻に、「ちゃんとした料理を作れ」とメッセージを発していると受け止められる可能性がある。妻に限らず女性は、いや人間は、と言うべきかもしれないが、とかく、「裏メッセージ」に敏感だ。相手の発した言葉の裏には、別の思惑、嫌味や批判、依頼が込められているのではないか、と推察し、受け止める。おそらく、言葉が最大のコミュニケーション方法となった人間ならではの、生き残るための能力の一つなのだろう・困るのは、こちらが裏メッセージなどまったく込めていないにもかかわらず、嫌味や当てこすりだと解釈されることだ。たまったものではない。そして兜の妻は、表しかないメッセージに裏を見つける天才だった。
伊坂さん、実感としてこれを書いているのであれば僕はあなたに共感するし、自分は幸せだけれど、取材した内容をネタとして使っているというのであれば、心の底から呪詛の言葉を吐きたい。
たぶん、あちら側も、同じようなことを考えていて、お互いに、ありもしない「裏」を見つけて苛立ちを増幅させていることって多いんですよね。
末井昭さんの『生きる』という本を『AX』と同時期に読んでいたのです。
末井さんはダブル不倫の末に、現在の妻と離婚を決意するのですが、なかなか「別れよう」と言い出せなかったそうです。
末井さんは、こう仰っています。
勢いを付けるために何人かの知り合いに離婚の相談をすると、「やめた方がいいですよ。誰と結婚しても同じですよ」という意見が多かったのには驚きました。中年になると、みんな結婚生活に失望しているんだなと思いました。
メディアやネットでは(ネットもメディアのひとつなんでしょうけど)、「ものすごくうまくいっている夫婦の話」と「修羅場、泥沼になっている話」の両極端が採りあげられることが多くて、コンプレックスを抱いたり、これよりはマシだな、と優越感を抱いたりすることばかりです。
でもまあ、多くの人の実感というのはこういうものなのかもしれません。
僕が中学生だったら、「そんな結婚生活に意味があるのか?」って反発していたと思います。
それでもつながっていたいのは、執着なのか、「それもまた愛情」なのか。
「兜」の物語としては、綺麗にまとまっているのですが、兜自身も殺し屋として、さまざまな人を消してきた既往があるわけで、無罪どころか、かなり重い罪を背負っているともいえる。兜のとった行動が、本当に家族のためになったのかどうか、というのも、なんともいえないところがあります。
でも、そういう点も含めて、僕はこの作品、好きです。
恋愛ミステリ、があるのであれば、倦怠期ミステリ、があってもいいよね。
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