学校ハラスメント 暴力・セクハラ・部活動ーなぜ教育は「行き過ぎる」か (朝日新書)
- 作者: 内田良
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2019/03/13
- メディア: 新書
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学校ハラスメント 暴力・セクハラ・部活動─なぜ教育は「行き過ぎる」か (朝日新書)
- 作者: 内田 良
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2019/03/13
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内容紹介
いじめ、体罰、セクハラ……なぜ学校では問題が「隠れる化」するのか。そして教育の現場で起きる問題は教師だけが悪いのか。気鋭の教育社会学者が、学校を取り巻くさまざまな「ハラスメント」の実態を明らかにするとともに、その解決策を探る。
いじめや体罰、スクールセクハラや危険な組体操、部活動の負担など、学校には問題がたくさんあるのです。
これらの問題には、「いじめによる生徒の自殺」のような、以前から繰り返し採りあげられているものもあれば、「部活の顧問としての残業を強要される先生たちの負担」など、このネット社会、SNS時代になって、ようやく「可視化」されるようになってきたものもあるのです。
先生は「聖職」だから、生徒に体罰を加えても、理不尽なことを「教育のもとに」言っても許されるけれど、その一方で、「生徒のためならば、果てしない自己犠牲を求められる」のが当然、と考える人は少なくなかったのです。
一部の先生たちの「それはおかしいのではないか」という声も、学校の内部で握りつぶされてしまっていたのですが、SNSやブログで直接世の中に訴えるようになった先生たちによって、人々の共感を集めるようになりました。
著者の内田良さんは、学校という場所の特殊性について、こんな話をされています。
身体的な暴力は、それが罰の与え方として正当な行為と認識されることが多々ある。「行き過ぎた」かもしれないけれど、それでも「指導」すなわち「教育」の範疇と理解される。
このことは、身体的暴力が発覚した教員に対する行政処分の実態にもあらわれている。
2017年度に「体罰」や「わいせつ」「交通事故」などで懲戒処分や訓告などと受けた公立学校の教員は、全国で5109名である。これを細かく見てみると、車の「飲酒運転」では、51件の処分があり、うち27件(52.9%)がもっとも厳しい懲戒免職である。「わいせつ」行為においても処分は厳しく、210件中120件(57.1%)が懲戒免職である。飲酒運転とわいせつはいずれも発覚すれば重大な処分が待っており、おおよそ2件に1件はクビになる。
他方で「体罰」は、まるで様相が異なる。2017年度は585件の処分があり、そのうち懲戒免職はゼロ件である。被害のなかには、骨折・ねんざが13件、鼓膜損傷が2件ある。それなりの被害が子どもに生じているけれども、だからといって懲戒免職になることはない。
また、学校外で「傷害、暴行等及び刑法違反」を犯したケースは72件で、この場合には、2割強の16件が懲戒免職となっている。学校外の傷害や暴行にはそれなりに厳しい処分が下されるものの、それが学校内の対生徒になった途端に、懲戒免職はゼロ件になる。
これは2017年度に限ったことではない。2013~2017年度における5年分のデータをまとめて分析してみると、懲戒処分等(訓告を含む)の件数では、各種事案のなかで「体罰」の件数は圧倒的に多く、6865件に達する。だがそのなかで懲戒免職に該当する件数は1件にとどまっている。懲戒処分等の件数にしめる懲戒免職の割合でいうと、0.015%とほぼゼロに近い。なお、飲酒運転は処分292件のうち154件が懲戒免職(52.7%)、わいせつは処分1070件のうち599件が懲戒免職(56.0%)である。
教員が学校の外で市民に暴力を振るえば、クビになる可能性がある。刑事罰を受ける可能性も大きい。また逆に、市民が学校に侵入して生徒を殴れば、これも刑事上の責任が問われうる。
他方で、学校内で教員が身体的暴力を振るったとしても、それは重大な問題としては認識されない。刑事罰が科されることもなければ、クビになることもない。ペナルティがきわめて小さい。暴力は、教育的な配慮のもとで起きたこと(起きてしまったこと)なのだから、大目に見てあげようというのである。
昔よりはだいぶ厳しくなったのだとしても、学校内での先生から生徒への暴力に対する処分は、こうしてみると、まだまだ軽いように思われます。その一方で、僕自身も、「ビンタされたけど、お世話になったと思っているし、人間的にも好きな先生」というのも、存在しているんですよね。
「愛のムチ」なんて言葉を信用しているわけではないのだけれど……
ここで暴力の連鎖が生じる。殴った側はもちろんのこと、殴られた側もまた、効果ありと認めてしまう。だからこそ今度は自分が大人の立場になったときに、効果があるはずと信じて、子どもに暴力を振るおうとする。
暴力を賛美している人は、現実にはほとんどいないはずなのに、なかなか暴力がなくならないのは、それに「効果」があることを認めてしまっているところがあるのでしょうね。
先生から生徒への暴力はしばしば問題になるのですが、生徒から先生への暴力というのも、なかなか表沙汰にはならないものの、少なからず存在しているのです。
それに対して、先生の間でも「教師の指導力の欠如によるものだ」と批判する声が挙がったり、警察に介入してもらって、学校内で生徒が現行犯逮捕された、という話も出てきます。
一般社会では、いわれもなく暴力を振るってくる相手には、後者の対応があたりまえだと思うのですが、それが学校内で、先生が被害者で生徒が加害者となると、「先生の指導力不足じゃないか」と言われることが多いのです。
病院で、いろんな患者さんを相手にしている僕の実感としては、「世の中には、話が通じないというか、触るものみんな傷つけないと気が済まないような人間が、確かに、いる」のですが……
著者は、生徒から教師への暴力だけではなく、教師間でのいじめも採りあげています。
学校の先生方との意見交換の場に参加するなかで、私が出会った、もっとも忌まわしい記憶の一つを紹介しよう。
とある教員研修の場において、10名程度からなるグループで、「部活動のあり方」について議論が交わされた。一人の若手教員が、か細い声でこう嘆いた――「私は、〇〇科の教員です。教員採用試験を勉強して、〇〇を教えるために教員になりました。でも毎日、そして土日も部活で時間がつぶれます。自分はやったこともない競技を指導しなきゃいけないし、本当にしんどいです」。
それを受けて、別の教員が手をあげてこう言い返した――「それは一部ですよ! 全部の部活がそんなふうに思われては困ります。僕自身は、たしかに部活がしんどいときもありますが、楽しんでやっています」。さらには、それにつづいて何人かの教員が部活動のすばらしさを語り、援護射撃をつづけた。
私にとっては、本当に衝撃的な場面であった。
学校の先生というのは、外部に対してはきれいごとを発信しているけれど、内部ではお互いに「これきついよね」「やってられないよね」と愚痴をこぼし合っているのだろうな、と僕は想像していたのですが、若手がようやく絞り出した「悲鳴」が、こんなふうに押しつぶされていくのか……
僕自身が運動音痴というのもあって、部活の顧問とかは、スポーツが得意じゃない教師にとってはきついだろうし、そもそも、ただでさえ仕事が多いなかで、時間外や休日のサービス残業化しているのは酷いと思うのです。でも、やりたくない人はやらなくていい、というシステムにできるほど、人が余っていたり、希望者が多いわけでもない。
そもそも、教師がこんな状況下で働いていて、生徒に「いじめをなくそう」「人の話をきちんと聴こう」などという資格があるのだろうか。
学校外の大人が学校内で子どもを傷つけることについては、全校で防犯訓練が実施される。けれども、学校内の大人が子どもを傷つけるということについては、まるで知らないふり。
学校教育において、教師というのは、とても崇高で立派な存在である。そうした位置づけが、教師から子どもへのハラスメントを、なきものにしている。
そして本章の最後に強調したいのは、だからこそ教師においては、学校管理下で出逢う自身のハラスメント被害についても、それがなかったことにされてしまうということである。
教育界では、崇高で立派な存在として、偉大なる教師像が描かれる。その対極に、被害を受けて傷つく教師像がある。まさか、偉大なる教師が、小さなことに傷つき涙しているなどと、誰が想像できようか。
崇高で立派であるからこそ、悪いおこないをするはずがない。だから教師は、加害者カテゴリに最初から含まれない。
教育界において教師は、ハラスメントの加害者としても被害者としても位置づけられない。加害者としての罪を免れうる特権は、同時に被害者としての認定をも妨げうるものとなる。
これは、コインの裏と表の関係にあり、結局のところこのコインは、教育界が教師を特別扱いしすぎてきたことによってできあがっている。
加害者と被害者を想定することなく、ハラスメントそのものを直視していく。崇高で立派な教師像を解体し、学校の風通しをよくする。教師の特権が奪われることで、教師の安全と安心が確立されていく。
ごく当たり前のことなのですが、「先生は聖人君子ではなく、ひとりの人間である」ことを大前提に、物事をみていき、システムを設計していかないと、結果的に、生徒だけではなく、先生のほうも追い詰められていくことになるのです。
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