琥珀色の戯言

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スタバではグランデを買え! ☆☆☆☆

スタバではグランデを買え! ―価格と生活の経済学

スタバではグランデを買え! ―価格と生活の経済学

著者からのコメント
私の家の近くに24時間営業のスーパーがあり、店に入ってすぐの棚では、有名飲料メーカーの500mlペットボトル入りのお茶が98円で販売されています。ところが、店の前の自動販売機でも同じお茶が売っていて、その価格は150円です。移動に10秒もかからない場所で98円で売られているお茶が、自動販売機では150円で売られていて、しかも結構売れているようなのです。ともに冷やしてあり、もちろん同じ味です。
同じモノがすぐ近くで異なる価格で売られていて、どちらで買う人もそれなりにいるのはなぜか? 自動販売機で150円で買ってしまう消費者は合理的ではないのか? じつは、150円で買うことが合理的だと思われるケースも多いが、それはなぜか?
本書は、身近な「モノやサービスの価格」について、「消費者の視点」で理解することを目的にした経済の入門書です。しかも、徹底してひとつのコンセプトに絡めて考えます。それは「コスト」です。ただし、かなり広い意味でのコストに注目します。
石油がほとんど採れないはずの日本が、ガソリンや軽油の輸出を大幅に増やしているのはなぜか? どんどん高機能化するデジカメの価格がどんどん安くなるのはなぜか? 100円ショップの安さの秘密はどこにあるのか? といったことも考えます。
もちろん、表題にあるように、スタバのコーヒーの価格についても考えます。じつは、本書の結論は「グランデを買え」というものではありません。こういった本のタイトルは少し大げさなのです(お許しください)。スタバのコーヒーの話は、本書が取り上げているたくさんの話題のひとつにすぎません。スタバのコーヒーに興味がない人でも、身近なモノやサービスの価格に興味があれば、ご一読いただければと願っています。

著者の吉本佳生さんは、「商売」が上手いなあ、と思いながら読みました。Amazonのレビューなどを読んでいると「経済を専門で勉強したことがある人間には物足りない」なんて書いている人もいたんですけど、そもそもそういう人をターゲットにしている本ではないわけで。
僕みたいに、「携帯電話のプランを『めんどくさいから』という理由であらためて見直そうと考えたこともない人間」にとっては、本当に考えさせられる内容ではあるんですよね。実は、企業というのは、僕みたいな「めんどくさがってサービスを検討・活用しようとしない消費者」から、うまく利益を得ているわけです。僕は今まで自分のことを「それなりに商品知識もある、賢い消費者」だと思い込んでいたのですが、企業側にとっては、「いいお客さん」だったわけです。
もっとも、「そういうのを細かく分析するために必要な時間などのコスト」というのも、考えてみる必要はありそうなんですけど。

携帯電話の料金サービスについて、こんな話が紹介されています。

 親しい友人・恋人・家族など、特定の相手への通話料金の割引サービスも、じつは、企業による価格差別の典型例です。結論を先に述べるなら、通話時間が通話料金に反応して増減しやすい用途の通話については、通話料金を安くする(割引サービスを適用する)という価格設定をしているのです。
 話をわかりやすくするために、携帯電話での通話を「(1)友人・恋人・家族との通話、(2)仕事相手との通話」の2つに分けて考えます。携帯電話会社が注目する両者の性質のちがいは、通話料金が値下がりしたときに、どれだけ通話時間が増えるか、その反応の大きさにあります。
 友人・恋人・家族との通話では、通話料金が安いと思えば思うほど、明日になれば会って話ができるのに、何となく携帯電話で無駄話をしてしまうといったケースが増えます。逆に通話料金がすごく高くなれば、かけるのをやめてしまうような通話が多いということです。
 他方、仕事相手との通話は、そもそも携帯電話でないと困るような状況で、仕事の話をきちんと伝えるのに必要な時間だけ、携帯電話で通話をするといったケースが多いでしょう。たとえ通話料金が高かったとしても、通話時間を短くする余地は小さいと考えられます。
 そのような消費者の行動をよく理解している携帯電話会社は、通話料金を下げると、無駄話などをして通話時間を増やしてくれそうな「(1)友人・恋人・家族との通話」については、割引によって通話料金を安くして、利用者にどんどん通話してもらおうとします。他方、通話料金を上げてもさほど通話時間が減らない可能性が高い「(2)仕事相手との通話」に対しては、比較的高い通話料金を維持しようとします。

「特定の相手との通話時間を安くする」というサービスを聞いて、僕は「それって携帯電話会社はかなり損するんじゃないの?」と思っていたのですが、こんなふうに説明されてみれば、実はかなり「合理的なサービス」であるのだということがわかります。そう考えれば、同じようなサービスに見えても「特定の相手とは無料」とか「特定の相手とは定額」の場合は「割引」とは違い、携帯電話会社にとっては、かなり痛みを伴ったサービスだということなんですよね。
この本には、そのほかにも「さまざまな家電量販店が1つの地域にかたまって作られる理由」や「100円ショップの仕組み」など、興味深い「身近な経済の話」が紹介されています。タイトルになっている「スタバでグランデを買ったほうがいい理由」については、「なるほど」と思ったのと同時に、「割安だからといって、飲みたい量より余分に注文するのは、やっぱり結果的には『損』なのではないかな」という気もしたんですけどね(岡田斗司夫さんの『いつまでもデブと思うなよ』を読むと、そう思うんですよ確かに)。
「経済学なんてめんどくさいものは、なるべくかかわりたくない」と常日頃考えている人にはけっこうオススメです。手抜きをしているせいで、いかに「搾取」されているのかがよくわかりますよ。

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