琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

ウォッチメン ☆☆☆☆


映画『ウォッチメン』公式サイト

ベトナム戦争キューバ危機など数々の事件の陰には、人々を見守る“ウォッチメン”と呼ばれる監視者の存在があった。しかし、1985年のニューヨーク、米ソ間の緊迫状態が続く中、政府により活動が禁じられていたウォッチメンの1人、エドワード・ブレイクが暗殺され……。1986年に発表され、ヒューゴー賞を受賞するなど、高い評価を受けたアラン・ムーアの名作グラフィックノベルを、「300/スリーハンドレッド」のザック・スナイダー監督が映画化。

金曜日のレイトショーで鑑賞。観客は20人程度。けっこう1人で観に来ている人が多かったです。
ネットのレビューでは賛否両論のこの作品なのですが、僕はけっこう面白かったです。
163分の上映時間はかなり長いし(半分くらいの時点で、「まだ1時間以上あるのか……」とぐったりしてしまうくらい)、登場人物が多く、アメコミやアメリカの歴史という「文脈」を理解していないと、ついていくのはかなり難しい。観ながら、「ああ、たぶんこれ、僕は内容の半分もわかってないんだろうな」と感じずにはいられなかったのですけど。
結局、Dr.マンハッタン以外の「ヒーロー」たちが、「超人」なのか、「ものすごく能力が高い人間」なのか、最後までよくわかりませんでしたし、Dr,マンハッタンの力があまりに強大(+抽象的)すぎて、「こんなまだるっこしいことしなくても、Dr.マンハッタンに任せとけばいいんじゃないの?」という気もしました。
ダークナイト』でも語られていた、もはや「100%の正義の味方では、世界を救えないのではないか?」というメッセージは、ものすごく伝わってくるのですが、その一方で、「ウォッチメン」たちがあまりに「個性的」すぎて、「バットマン」ほど共感できないのも事実でした。

この物語で僕がいちばん印象的だったのは、この作品の狂言回しであるロールシャッハが「容赦しないヒーロー」になったきっかけである、ひとりの少女が変質者に殺された事件のエピソードでした。

「神は、少女が死んだことなんて、なんとも思っちゃいないさ」

このロールシャッハの「絶望」こそ、いまの世界に生きる人たちの多くが感じているものなのだと思います。
「やられる前にやれ!」「悪は根絶しなければ、明日は我が身だ」

あまりにも理不尽で残酷な「悪意」の犠牲になる人に対して、「それが神の意思だったのです」という慰めは、もう、通用しない時代になってしまった。
「神が死んだ無慈悲な世界」で自分の身を守れるのは、自分自身だけ。
暴力を抑止するためには、もっと大きな暴力を!

Wikipediaによると

ウォッチメン』のタイトルは、ユウェナリスの風刺詩第6歌『女性への警告』からの抜粋に由来する。

noui consilia et ueteres quaecumque monetis amici,
"pone seram, cohibe".
sed quis custodiet ipsos custodes
cauta est et ab illis incipit uxor

この引用の逐語訳が、ムーアの『ウォッチメン』に込められた主題を暗示している。

I hear always the admonishment of my friends:
"Bolt her in, and constrain her!"
But who will watch the watchmen?
The wife arranges accordingly, and begins with them

私は我が友の忠告を常に聞く。
「彼女をビン詰めにして、拘束せよ!」
しかし、誰が見張りを見張るのか?
妻は手筈を整えて、彼らと事を始める。

ということでした。

「無慈悲で理不尽な暴力から人々を守る」ための「正義の力」も、あまりに強くなれば、腐敗し、彼らが決めた「悪」を容赦なく排除していくようになってしまう。
現実には、マンガのなかのような「無垢のスーパーヒーロー」は存在しない。
「悪意の力」を抑止するための「力」が、本来の目的を超えて暴走し、新たな「より強大な悪意の力」になっていくという悪循環。
小学生でも「人類が何百回も絶滅するような量の核兵器」なんて必要ないことはわかりそうなものなのに、人類は、それを作らずにはいられない。

「将来の1万人の命を救うために、いま、100人を見殺しにするのも『現実的な正義』じゃないのか?」
「争いしか起こさない「事実」よりも、それなりに仲良くやっていける「嘘」のほうが正しいのではないか?」

これは、「スーパーヒーローたちの迷走」の映画であるのと同時に、「『強大な敵』を失ってしまった、超大国の閉塞感」を描いた作品なのでしょう。
アメリカこそ、世界の『ウォッチメン』なのだから。

やっぱり、「なんでその目的でそんなまわりくどいことをやるんだ?」とか、「Dr.マンハッタンの力は『スーパーヒーロー』すぎないか?」とか思うところもあるのですが(そこが『ダークナイト』ほど感情移入できない原因でもあるのでしょう)、「考えながら映画を観たい人」にとっては、けっこう楽しめる作品です。

アクセスカウンター