琥珀色の戯言

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重力ピエロ ☆☆☆☆


重力ピエロ (新潮文庫)

重力ピエロ (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった頃、事件は始まる。連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアートの出現。そしてそのグラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎解きに乗り出した兄が遂に直面する圧倒的な真実とは―。溢れくる未知の感動、小説の奇跡が今ここに。

伊坂さんの代表作のひとつ『重力ピエロ』。今回初めて読んだのですが、僕はこれ、「サーカスのブランコ乗りの兄弟が身軽さを生かしたトリックで完全犯罪をめざす話」だと、ずっと思い込んでいました。
実際は、『アヒルと鴨のコインロッカー』よりもさらにミステリ色が薄い、「家族小説」「青春小説」です。「ミステリ」だと思って読むと、ちょっと拍子抜けしてしまうかもしれません。「遺伝子のウンチク」は語られているけれど、それが「謎解き」と何の関連があるのかと考えてみると、かなり強引かつ物語の本質とは無関係のような……

「子供を何人殺そうが知ったことではないですが、犬を遊び半分で殺したら死刑ですよ。俺が許さない」
「あのね、日本は法治国家なんだからね」教授が言った。
法治国家!」春はそこで、この世でもっとも下らない単語を聞いた、という笑みを浮かべた。「人を一人殺しただけでは、たいがい、死刑にはならない、大勢殺せば殺すほど、事件をたくさん起こせば起こすほど、裁判が長引いて、長生きできる。その法律は誰を守ってくれる? ましてや、犬を守る?」
 彼らは、相手にできない、とわざとらしい溜息を吐いた。
「犬に非があるわけない。犬を殺すくらいなら、人間をどうにかしろ」

それでも、この作品の伊坂さんの「青くささ」が、僕はたまらなく好きなんですよ。
最近の「有名作家になって、世の中に高いところから警告を発している(ように見える)伊坂幸太郎」よりも、この時代の「いろんな矛盾に悩み、自分の小ささを自覚しながらも、世界という大きな壁に口笛を吹きながら全力で激突していった伊坂幸太郎」のほうが魅力的なんだよなあ。
そういうのって、「好きなアーティストが売れたとたんに嫌いになってしまうファン」みたいなものなのかもしれないけど。

「家族小説」としては、ちょっと理想論すぎる(というか、現実にこういう状況になったら、親子というのはもっとギクシャクせざるをえない)とも思うのですが、伊坂さんが書くと、そういう「理想論」が手の届くところにあるように思えるのは不思議です。
しかし、「殺してもいい命なんてない」のか、「殺されてもしょうがない人間もいる」のか、悩ましい小説ではありますね。これはハッピーエンド……じゃないよねやっぱり。

今日から映画『重力ピエロ』公開なのですが、この作品は「寄り道」である、この家族の小さなエピソードの積み重ねが魅力なので、2時間にまとめてメインストーリーだけを追うような映画だと、あんまり面白くならないような気がします。

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