琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

あなたがここにいて欲しい ☆☆☆☆


内容(「BOOK」データベースより)
懐かしいあの日々、温かな友情、ゆっくりと育む恋―常に目立たず控えめな吉田くんは、さまざまな思いを秘めて大学生活を営んでいた。小学校時代の図書室での幸福感。小田原城のゾウ、親友でヤンキーの又野君、密かに恋心を寄せる舞子さん…。やがて、高校卒業後に音信が途絶えていた又野君と再会。2人に去来する思いとは。そして舞子さんとの恋の行方は?(表題作より)名作「ハミングライフ」を含む、新たな青春小説の傑作。

僕は基本的に「青春小説」というヤツは苦手です。
部活で活躍することも、モテることもなく、好きでもないのにそれしかできなかった勉強を細々とやっていた人間としては、小説に出てくるような華々しい「青春」って、すごく劣等感を刺激されるので。
中村航さんの作品、文庫になるとなんとなく手にとってしまうのですが、よく知られている『100回泣くこと」は、「死」を演出に利用しているようで、僕はあまり好きになれませんでした。
「作者が登場人物を殺す小説」って、好きじゃないのです。
でも、この『あなたがここにいて欲しい』という中編集、僕はけっこう気に入りました。
ああ、中村さんも、僕と似たような子どもだったのかもしれないなあ、と素直に思えたし。

この作品集に収められている作品は、それぞれ、「小道具」が非常によく効いています。
表題作『あなたがここにいて欲しい』の小田原の公園のゾウへの主人公の思い入れ、「自分は変わっていくけれど、そのゾウにだけは変わらずにそこにいてほしい」という、温かで、傲慢な願い。
なんだか、『ライ麦畑でつかまえて』を、ちょっと思い出してしまいました。

 小学六年生になった。
 その頃には祭りの日は、ただ”学校が休みになるラッキーな日”になっていた。
 僕らは友だちの家に集まって、ゲーム&ウオッチをやった。『ファイア』で人命を救助し、『ヘルメット』で落ちてくるスパナをよける。『オクトパス』で蛸足から逃れ、『ポパイ』でほうれん草を食べる。飽きるとその辺になるマンガ本を読んだ。

『男子五編』のこんな文章を読むと、僕も自分の子ども時代の記憶がよみがえってきます。
ブルーザ―・ブロディや『北斗の拳』のストーリー進行など、作品世界との「同世代感」がすごい。
たぶん、この作品を最も楽しめるのは、僕くらい、40歳前後の男ではないでしょうか。

オビには「『100回泣くこと』の著者が描く青春恋愛小説」と書かれていますが、これは「青春小説」ではありますが、「恋愛小説」とは言い難い作品集です。
だが、それがいい
恋人が難病になったり、すぐに友人と寝ちゃったりするような「恋愛小説」にリアリティを感じられない「非モテ・インドア系男子(あるいは、昔そうだったオッサンたち)」に、ぜひおすすめしたい、「ぼくたちのための青春小説」です。

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