琥珀色の戯言

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対話篇 ☆☆☆☆


対話篇 (新潮文庫)

対話篇 (新潮文庫)

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直木賞受賞作の『GO』、また『レヴォリューションNo.3』で、痛快な青春劇を描いてきた金城一紀の中編小説集。「恋愛小説」「永遠の円環」「花」の3編を収録。『対話篇』というタイトルが示すように、いずれも人と人との出会いや、対話を通して生まれる物語となっている。これまで軽快なテンポの小説を得意としてきた著者が、じっくりと人間の関係性に重点を置き、創作に取り組んでいる。
特に印象深いのは、冒頭の「恋愛小説」。親しくした人間がかならずこの世を去ってしまうという、数奇な運命の男が、ただ1度経験した恋愛の顛末を描いている。ひとを愛したいのに愛せない男のもどかしさが胸に迫る、どこか非日常な匂いのする1編だ。

 また、余命いくばくもない主人公の復讐を、ミステリー調に描いた「永遠の円環」、老弁護士と青年が過去の記憶をたどりながら、ある目的のため旅をする「花」。どれも死、別離など暗くなりがちなテーマを扱いながらも、さわやかな印象を与える作品である。それは、のっぴきならない状況に陥っても、「間違いない。この世界は素晴らしい」(「花」)と主人公に語らせる、著者自身の前向きな姿勢があるからだ。全編を通して感じられる、生きることに対する真摯な眼差しは、既存の金城作品の根底にも共通するものである。ハッピーエンドで終わる話ばかりではないが、登場人物それぞれの人生が、じわりと心に響いてくる作品集だ。(砂塚洋美)

 こういう「あまり面識がなかった人が突然語りだす不思議な体験談」という形式の小説ってけっこうありますよね。村上春樹さんの『東京奇譚集』もそういう作品集でしたし。
 たぶん、そういうふうにしたほうが、主人公が直接語るよりもリアリティが増すのだろうな、と思うのですが、この『対話篇』は、中途半端に実話っぽくするのではなく、「フィクションなのだけど、骨太の物語」として成立している、素晴らしい中編集になっています。
 正直、収録されている3篇とも、「ちょっと話として綺麗すぎる」ような気もするんですけど、金城さんの作品には、「フィクションだからこそ、物語だからこそ、読者に生きる力を与えられるような、悲しいけど美しい話」にしようという意思を感じるのです。
 僕も、収録されている作品のなかでは、『恋愛小説』が最も印象深かったです。

「話しても信じてもらえるかどうか分からないけど、君には話しておきたいと思ったんだ」
 僕はかすかに頷き、先を促した。
「それに、勝手な話だけど、今日はなにもかも話してしまいたい気分なんだ。でも、僕には話をするどころか、おはようを言う相手さえいない……。迷惑かい?」
 僕は首を横に振った。彼は安心したように長いため息をついたあと、言葉を続けた。
「僕は子供の頃、《死神》って呼ばれてたんだ」
 それから、彼は自分の生い立ちをぽつりぽつりと話し始めた。ひとつひとつの言葉を噛み締めるようにしながら。

 この導入部が素晴らしい。
 引きこみかたが上手いなあ。
 一つ一つの話は、一歩引いて考えてみると「ありえないこと」ばかりなのですが、「こういう物語があってもいいじゃないか」と思わせる説得力!
 どの作品も、けっして、「泣ける話」でも「後味の良い話」でもないのですが、だからこそ、金城さんの作品には「生きるための反発力」みたいなものが詰まっているような気がします。
 そんなに厚い本ではないので、小旅行の移動中などにいかがでしょうか。


東京奇譚集 (新潮文庫)

東京奇譚集 (新潮文庫)

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