- 作者: 河合香織
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10歳の少女と、47歳の男。
いたいけな被害者と、凶悪な犯罪者。
事件は、単純な連れ去りに思われた。だが......。
保護された少女は言った。
「家には帰りたくない」
これは、単なる誘拐などではない。
関係者の間に、衝撃が走る。
実際、逮捕された男の公判で、ふたりの間に潜んでいた闇が次々と明かされていく。
「好き」と「愛」が綴られた交換日記。
週末ごとに繰り返されていた外泊。
次第に少女の虜になっていった男は、すべての時間を、そして金を、少女に捧げていったのだった。
つまり、この誘拐を主導していたのは、むしろ少女のほうだったのではないか、というのだ。
そして、ついに暴かれるふたりの爛れた"関係"。
少女は、果たして何を求めていたのか。少女が背負わされていた桎梏とは、いったい何だったのか----。
37歳差の異形の"道行き"を描き出す、衝撃の事件ノンフィクション
『セックスボランティア』の河合香織さん(って、ずっと言われるのも、ご本人にとっては煩わしいんじゃないかとも思いますが)のノンフィクション。
この事件、僕もなんとなく記憶にあり、「誘拐されたはずの子供が、『家に帰りたくない』と言っていた」という話に驚いたんですよね。
自分を誘拐した人間に「共振」してしまうケースは稀にみられるようなのですが、それが「子供」だとすれば、いったいどんな噓で、犯人は子供を手なづけたのか?あるいは、その子供は、よっぽど家に酷い目に遭っていたのか?
このノンフィクションのなかで、河合さんは「加害者」の中年男と直接手紙のやりとりをするなど、かなり近づいて取材をされています。
それも、河合さんが「女」だからなのではないか、と僕はつい考えてしまうのですが、それにしても、「そんなにこの人に接近して、危険じゃないのか?」と思うほど。
この男、前半は「とにかく被害者の女の子のことが愛おしくて、金も無いのに、なんでも言うことを聞いてやって、ついには後先考えずに『誘拐』をしてしまった、ちょっとかわいそうな人」のように思えるのです。
しかし、裁判中に明らかにされる「ある事実」を知ると、やはり「自分の欲望を正当化しようとしているだけのどうしようもない人間」だと幻滅してしまいます。
でもまあ、この女の子のほうも、まだ10歳にもかかわらず、「男を手玉にとる」ような言動を繰り返していて、読んでいると、「なんてどうしようもないコンビなんだ……」とイヤになっていくばかり。
ほんと、「正義と悪」というよりは、「行き場が無くなってしまった人間同士の逃避行」だし、むしろ女の子のほうが男を「踏み台」にしているようにも見えるんですよ。
この女の子を生み出したのも、親の無関心が原因なのだろうけれど、母親の愚かさも「なんとなく、そんなふうに逃げちゃう気持ちもわかる」のだよなあ。
誰にも共感できないけれど、誰かが絶対悪だと言いきれるほど正しい世界じゃない。
僕がいちばん読んでいて身につまされたのは、犯人の中年男が自分の実の娘にあてた、こんな手紙でした。
<めぐ(被害者の少女)の受けた「虐待」については口に出していながらもう一方で、君達の心を踏みにじっている私を恥じ入ります。これだけは、はっきり書けるよ。真紀さんもめぐも私を選んだミスをしてしまったけれど、君は決して私を選んだわけじゃないからね。それが君の不幸な所だよ。ごめんなさい>
赤の他人に「正しいことをしてあげている」と思いこんでいる人間は、自分の家族や周囲の人間が、全然見えていないことが多いのです。これは、僕自身にも言えること。
こんな手紙を父親に書かれた(実際には送られてはいないようですが)娘は、どこに怒りと悲しみと情けなさをぶつければいいのだろう?
世の中の「イビツさ」を濃縮したようなこの事件、気持ちの良い内容ではないですが、読んで損はしないと思います。