琥珀色の戯言

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東浩紀さんとカンニングとtwitterの「不当な量刑」

参考リンク:Togetter - 「東浩紀とカンニング問題」

 ここでの東浩紀さんと「カンニングtwitter無防備に告白した(しかも、教授の名前入りで!)学生」のやりとりを読みながら、僕は考えていたのです。
 ああ、twitterって、ネットって怖いなあ、と。

 僕が通っていた大学で、以前、集団カンニングが発覚して大騒動になったことがありました。
 僕の後輩もその中のひとりに入っており、なんとか退学は免れたものの、「留年+その(カンニングをやった)年の取得単位ゼロ」という処分が下されました。
 彼女はいわゆる「天然」な人で、ギラギラと「なんとかして単位をとってやる!」という感じではなく、「遊び呆けているうちに試験勉強が間に合わなくなり、まとまった人数の友達と『じゃあ、カンニングしちゃおうか!』という話になり、映画『ザ・カンニング』まがいの秘密兵器を試験会場に持ち込んだ」らしいのです。
 「罪の意識」なんてそこにはなく、むしろ、「休憩時間に、友達と一緒にトイレに行く」ような「付き合いとしてのカンニング」だったのかもしれません。
 バカですよもう、本当にどうしようもなくバカだ。しかしながら、その愚かさを「まったくの他人事」だと切り捨てられるほど、僕も立派な学生じゃなかった。
 もちろんそれは「甘い考え」であり、「学問と、その徒である自分自身を侮辱する行為」ではあったのですが、当事者がよく知っている後輩となると、やっぱり僕のなかには、「カンニングする奴は最低だ」という憤りよりも、「こんな厳しい処分だなんて、ちょっとかわいそうだよな……」という気持ちのほうが強かったのです。

 もちろん、東教授とは「レベルが違う」のですが、僕のような「赤点医師」でも、専門学校の講師や大学の講義の手伝いを頼まれることがあります(正確には「頼まれたことがある」と過去形ですが)。
 そんななかで、僕がいちばん意識せざるをえなかったのは、「いかにして、試験で生徒を落とさないか」だったのです。
 いや、優しいからというわけじゃなくって、臨床の片手間にやる講義や過去問を少し改変したくらいの試験問題で、生徒を「不合格にする」のは、すごく怖かったのです。
 真面目な話、僕が教えている内容が、そこまで大事なものなのか、自分でも全く自信がありませんでしたし。
 そこは、「先生は自信を持って自分の専門を教え、学生も自ら選択して学びにきている超一流大学」とは根本的に違うのでしょう。
 それでもやはり、「教える側」に立つと、「学生を不合格にする」というのは大きなストレスでした。
 もしこれで留年してしまったら、この子の人生、(たぶん良くないほうに)変わってしまうかもしれないのだから。

 試験監督も何度かやりました。
 学生のときって、「この人たちは、きっと、誰かがカンニングするのを手ぐすね引いて待っているんだろうな」なんて想像していたんですよ。
 でも、自分が試験監督になってみると、試験監督っていうのは「不正を発見するために存在している」のではなく、「不正に対する抑止のために存在している」のだということがわかりました。
 ほんと、僕たち(他の先生もみんなそう言っていた)は、見つけたくないんですよ、カンニングなんて。
 だって、見つけてしまったら、見て見ぬふりはできないから、「告発」しなきゃいけない。
 そのことは、自業自得とはいえ、その生徒の将来に、大きなマイナスとなるでしょう。
 他人の人生をネガティブにな方向に変えるのはつらい。
 それが「仕事」とはいえ、恨まれたり、当事者や保護者との長い長い争いの原因になるかもしれない。
 そもそも、昔大学生だった僕は、目の前で行われるカンニングが「氷山の一角」でしかないことを知っています。
 それがわかっていても、目の前に氷の塊が現れれば、まずそれを避けないとしょうがない。
「ほんと、見てるから、頼むから、カンニングとかするなよな、お互いにめんどくさくなっちゃうから」
と切に願いながら、試験監督をやっていたものです。

 東先生のツイートのなかに、このようなものがありました。

というか、ぶっちゃけ言うと、カンニングより、「カンニングしています」と堂々とツイートするほうがよほどやばい。大学制度への意識も、ネットへの意識も、すべてなにもかもやばい。なに考えているのだろう。

 このツイートは非常に印象的でした。
 「カンニングすること」そのものよりも「カンニングしていることをツイートすること」のほうが重罪なのか?

 僕はこのtwitterでのやりとりのなかでの「フォロワー」たちの存在を考えずにはいられません。
 
 おそらくそんなことはないのでしょうが、ある学生が、試験中、東教授の目の前でカンニングをしたとしましょう。
 その場合、東教授には、2つの選択肢があります。
「その学生を現行犯で告発する」か「見て見ぬふりをする」か。
前者であれば、その学生にはそれ相応のペナルティが課せられ、周囲の学生からは「要領の悪いヤツだ」と憐れまれることでしょう。
それでも、身近な人からは同情もされるでしょうし、社会的に「抹殺」されるようなことにはならないはずです。
後者であれば、その学生が、実力よりも少し良い点を取ることになりますが、学生も試験監督も、面倒事を避けられるのも事実です。

 しかしながら、この学生のツイート「カンニングしました宣言」が、こうしてtwitterで世界中にばらまかれるとなると、問題が格段に大きくなります。
 twitterを媒介にすることにより、「東教授が知った」だけではなく、「東教授が知ったことを、みんなが知っている」ことになるから。

 そうなると、もうこれは「なあなあで済ます」とか「見て見ぬふりをする」ってわけにはいかないじゃないですか、大学側も、東先生も。
「どうして大学側は知っているのに、カンニングを放置するんだ!」って責められるのが目に見えているので、「情状酌量」は難しくなります。

 僕はこの件に関するたくさんのコメントや学生や東さんへの言及を読んで、なんかイヤだな、と思ったんですよ。
 こうしてこの件をリツイートして広めたり、東教授や学生を責める人たちは、自分が「当事者」になるかもしれない、という恐怖感はないのだろうか?
 自分だけは、常に「名無しさん」でいられるという確信を持っているのだろうか?

 「明らかに悪いと決まっているものに、罵声を浴びせて快感を得る」のは楽しいかもしれないけれども、この件に対して、何の利害関係も責任もないあなたのリツイートで、ひとりの若者の立場が、どんどん悪くなっていくのです。
 そのことに対する、罪の意識はありませんか?
 もしこれが誤報だったら、「責任」をとる覚悟はありますか?
 いざとなったら、「自分は他人の言葉をリツイートしただけだから、関係ない」ですか?

これも東さんのツイートから。

カンニングは悪いことだと思います、でもぼくたち無名なんで許してください!か。アホなんじゃない?

「関係無い連中は黙ってろ」とまでは言いません。僕だってこうしてネタにしているので。
 ただ、twitter(をはじめとするネット)というツールのなかでは、ある種の罪は、不当に重い量刑を課せられているのではないかと、僕は考えているわけです。
 元アメリカ大統領ジミー・カーターに、「麻薬常用者に対する最大の処罰は、常用者本人の健康の阻害にとどめるべきであって、それ以上のものではあってはならない」という言葉があるのですが、「カンニング」に対する処罰も「過剰な個人攻撃や社会的制裁」になるべきではない、と僕は思います。
「学問をバカにしている」のは事実だけれども、「単位を取れない、進級できない、あるいは、退学となる」以上の個人情報晒しを含む「社会的制裁」が「善意をふりかざした野次馬」たちによって加えられるのは、あまりに酷でしょう。
 まだ、年端もいかない学生がやったことでもあるし。
 そもそも、こういう事例をみるたびに「リテラシー」について訳知り顔で語る人がいるけれど、本当に「リテラシー」がある人って、こういうときに嬉々としてしゃしゃり出てくるのだろうか?「情報」として存在しているのは、その学生が言ったとされる、ツイートだけなんですよ。
マスメディアの報道に対して、「まだ証拠も揃ってないのに」、ブログの内容に対して、「これはブログ主の勝手な想像だ」って「批判」する一方で、こういうときには、「既成事実」として対象者を大バッシング。それは「リテラシー」じゃなくて、「叩きやすい他者を叩いて、優越感に浸りたいだけ」じゃないの?

 こんな「鼻くそほじりながら、安全な場所(だと本人は信じているところ)で、他人を責めることができる」twitter(あるいはネット社会)って、すごく怖いよ僕は。
 とくに「失うものが多い人」にとっては、百害あって一利あるかどうか。
 いやほんと、個人サイトは数年くらいの間、比較的開放感があったのに、ブログは1年くらい、twitterは流行り出して半年にもならないうちに「失言が許されない場所」になってしまっているよなあ。
 「誰にも相手にしてもらえない淋しさ」を抱える多くの人たちと多数のフォロワーを抱えている一方で「自由に発言することができない息苦しさ」を抱える少数の人たち。それが哀しきネット格差社会
本当に「リテラシー」がある人って、たぶん、「ネットで発言しない人」なのでしょうね。
僕も黙っていられれば、あれこれ苦労しなくてすむのだろうけど。


ちなみに、僕のTwitterはこちらです。
http://twitter.com/fujipon2

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