琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

開かせていただき光栄です ☆☆☆☆


内容紹介
開かれたのは、躰、本、謎。作家生活40年のキャリアを誇る著者の集大成にして新境地! 18世紀ロンドン。増える屍体、暗号、密室、監禁、稀覯本、盲目の判事……解剖医ダニエルとその弟子たちが辿りついた真実とは? 18世紀ロンドン。外科医ダニエルの解剖教室から、あるはずのない屍体が発見された。四肢を切断された少年と顔を潰された男性。増える屍体に戸惑うダニエルと弟子たちに、治安判事は捜査協力を要請する。だが背後には、詩人志望の少年の辿った稀覯本をめぐる恐るべき運命が……解剖学が先端科学であると同時に偏見にも晒された時代。そんな時代の落とし子たちがときに可笑しくときに哀しい不可能犯罪に挑む。


このミステリーがすごい!』の2012年版(2011年)で第3位にランクインしていたので購入。
「18世紀ロンドン。増える屍体、暗号、密室、監禁、稀覯本、盲目の判事……」という「異形系の世界」に、カタカナの登場人物が大勢で、かなり取っ付きにくい作品ではあります。
「人体解剖なんて、気持ち悪くて……」という人には、あまり向かないだろうな、とも思います。

それでも、これだけの世界を構築しきったことには素直に感動してしまいますし、ロンドンが舞台であることの「意味」も、物語の後半で明らかにされます。
こういう「耽美的な世界」は、好きな人にとってはたまらないはず。

「顔無し男は首に痕がある。絞められたらしい」アルが言った。
「死因、絞殺……か。毒殺の痕は?」
「皮膚にはあらわれていない」
「防腐処理抜きなら、まず、腹からだな」
 はらわたが真っ先に腐る。
「年下のを開くのは、嫌だな」吐息をつくベンを「死因を見つけてやれ」クラレンスが激励した。
「こんなに酷いことをしやがった奴を逮捕する手掛かりになる」
 また溜息をつくベンに、「やってしまえば。それでことが済むものなら、早くやってしまったほうがいい」クラレンスは朗唱した。マクベスの科白だ。「此の一撃で以て萬事が終局となるものなら、未来なんかどうなろうと、かまうものか」
 そうして、「さて、開かせていただき光栄です」 delighted to meet you――お目にかかれて光栄です――を、dilated to meet youと言い換えて、クラレンスは男の躯に会釈した。

その一方で、僕は、せっかく「18世紀の解剖教室」なんていう舞台を設定したんだから、もうちょっとトリックとか謎解きに解剖学的な知識を生かしてほしかったな、とも感じました。
「死体を隠しやすい場所」として使用されていただけ、という印象が強かったんですよね。
登場人物も、後出しで「実はこんなすごい人でした!」っていうのは、ちょっとズルいかな、と。
何人も人が死ぬわりには、「大風呂敷を広げすぎてしまって、小さくまとめてしまった」ようにも思われました。
事件の半分以上は、勝手に解決してしまいますし、その過程にも、あまりに偶然性が強すぎます。


ただ、この作品は、ミステリとしての「謎解き」がメインというより、18世紀のイギリスで、類まれな才能を持ちながらも、なかなか世に受け入れられず、鬱屈していた若者たちの姿を描こうとした小説なのかもしれません。
「国」とか「社会制度」とか「人々の偏見」に対して、誇り高くあろうとしながらも、妥協せざるをえない自身への苛立ちも伝わってきました。
読後は、せつなさと空虚さと満足感がブレンドされたような、なんともいえない気分になれますし、登場人物たちの「想い」には共感されられるところも多いんですよね。

「労作」だし「良作」だと思います。
「普通のミステリ」を読みたい人には、ちょっとオススメしずらいけれども。

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