内容紹介
ツイッター上で大きな話題を呼んだ著者(@May_Roma)のノマド論が読みやすい電子書籍に!
元国連職員などとして数カ国で働いてきた谷本さん(現ロンドン在住)が、日本で流行るノマド論のおかしさを一刀両断。組織に寄りかからず自立した働き方が必要となる日本の未来を担う人たちのために、本当に有益なアドバイスを贈る。
僕はあまり@May_Romaさんのこと、好きじゃなかったんですよね。
言っていることは「正論」なのかもしれないけれど、僕のtwitterに流れてくる(誰かがリツイートした)発言は、他人を嘲っているように感じるものが多いし、彼女に媚を売って、寵愛を競っているような「フォロワー」たちも気持ち悪くて。
そもそも、この人が英語の重要性を声高に主張するのって、「マラソン選手が走ることの素晴らしさを力説するようなもの」じゃないの?って、ずっと思っていました。
とはいえ、話題になっているし、Kindle版で450円という価格もあって、「どんなことが書いてあるんだろう」という興味から、この本を買ってみたのです。
読んでみて、なんだかすごく納得してしまいました。
ああ、この人は口は悪いし偉そうにみえるけれど、言っていることは「正論」だし、こちらが聴く姿勢になれば、すごく役に立つことをわかりやすく話してくれているのだな、と。
この本の前半では、日本にはびこる「ノマド幻想」が、徹底的に打ち破られていきます。
著者は、「ノマドセミナー」を「貧困ビジネス」と断じているのですが、僕のような「ノマドアレルギーのオッサン」にとっては、小気味良く感じるくらいの、完膚無きまでのやっつけっぷりです。
ノマドについて考えるに当たり、私は日本のさまざまなブログや有名人のメールマガジンなどを読みました。多くの方が、アメリカなどで10年以上前に言われていたフリーエージェントに関するネタを使い回し、「これからはノマドだ。海外の働き方は、云々……」などと書いておられました。
また「ノマドになるためには……」と、紹介しているのは「こんなパソコンを使いましょう」「喫茶店はどこそこに行くと、無料で使える電源があります」「かっこいい名刺を作りましょう」「セルフプランディングをやって、自分のイメージを作り上げましょう」など、馬鹿げたことばかりです。そんなことは仕事の本質ではありません。喫茶店の無料電源なんて、小学生だって探すことが可能です。
これなんか、「まさにその通り!」としか言いようがありません。
僕には、いまの日本で「ノマドライフを宣伝している人」の多くは、「ノマド」という格好良さそうなイメージを売りつけることによって、その日暮らしをしている「ネズミ講の上位カーストの人」に見えます。
能力も技術も資格もないけど、虚栄心だけがある人が、そのネズミ講の末端に加入して、何も得られないまま身ぐるみ剥がされ、年だけ取って放り出される。
「ノマドライフ」をアピールして生きている人の生活そのものを客観的にみると、すごく不安定だし、たいして楽しくもなさそうなんですよね。
スターバックスやドトールで「仕事」をするって言っても、僕だったら、1時間もいれば他の客や店員さんの目が気になってしまいそうだし。
そもそも、AmazonやGoogleだって、いつまで今のような紹介料を出してくれるかわからない。
彼らが少し方向転換しただけで、収入が激減する可能性があり、その場合、失業保険が出るわけでもない。
少なくとも、「炎上エントリでアクセスを稼ぎ、アフィリエイトで収入を得る」なんて生活モデルは、「とりあえず今は自由っぽい感じがする」かもしれませんが「自立」にはほど遠いと思います。
率直なところ、僕もめんどくさい人間関係をリセットして生きていきたいなあ、と考えることはあるんですよ。
でも、「人間関係によって守られている」面も、少なからずあるのです。
著者も「仕事をするうえで、孤独であること」の怖さもこの本のなかで語っておられます。
「人間関係のしがらみ抜きで、仕事の成果だけで評価される」というプレッシャーは、並大抵のものではありません。
それに、ひとりで仕事をしていると、「自分のペースやポジション」がわからなくなってくる。
僕はいろんな職場で働いたことがあるのですが(転勤が多い仕事なので)、やっぱり、「良くも悪くも環境が人を変える」ところって、あるんですよね。
実績のある研究室で働いていれば、なんとか周りについていくだけでも、それなりの仕事ができる。
でも、何もないところで「好きにやっていいよ」と言われたら、少しずつラクなほうに流れてしまう。
「ラクだし、楽しいから」という理由で、ひとりで働く「ノマド」を選ぶような人は、あまり良い結果を得られない。
むしろ、そういう人こそ、なんとか組織にしがみつく生き方をしたほうが、良いのではないかなあ。
「ノマド」に向いているのは、「組織の枠のなかに、収まりきれないような人」なのです。
たぶん、本当にノマドでやっていける人って、大部分は、組織の中にいてもそれなりに重い責任をこなせる人、なんですよね。
ただ、著者は「ノマドなんてバカバカしい」と否定しているわけではないのです。
いまの日本の狭いネットの中でだけ通用する「『ネズミ講』的な、ノマドのためのノマド」は行き詰まっても、「働き方の多様性」は広がっていくはずです。
ネット社会のなかで、「自分の専門的な知識や能力を活かして、時間や場所の制約から自由になる働き方」を選ぶ人が増えていくのは世界の趨勢だし、企業としても「必要なときにだけ、必要な能力を持っている人の力を借りる」ほうが、「何でも屋の社員を大勢抱えている」よりも、はるかに効率的ですから。
僕がこの本のなかでいちばん印象に残ったのは、この話でした。
介護のために結婚できない、仕事ができないという人が本当に大勢います。これは本人や企業にとっての損失だけでなく、社会全体の損失でもあります。高齢化が急激に進む中で今のままの働き方を続けていたら、日本は働き盛りの貴重な労働者を失うだけでなく、介護する人たちも共倒れになってしまいます。
私の実家の父は「要介護5」ですから、この介護の問題は自分の問題として真剣に考えています。
私の友人のシステム開発者やデザイナー、映画関係の仕事をしている方の中にも、親の介護があるために、自宅でできる仕事に切り替えた方々がおられます。皆さんまだ30代です。本当は外でも働きたいのですが、柔軟な働き方を認める組織は少ないため、給料が減っても自営業の道を選んでいるのです。優秀な方ばかりですので、これは企業にとっても社会にとっても損失です。
その上、日本では少子化も急速に進んでいます。
若い人たちが子供を産めない理由は、仕事との両立が難しいことや、養育費がないというのが原因のひとつです。
日本社会が、今後、北欧のような「高負担、高福祉」社会となっていくとは考え難いのです。
そうなると、「長生きする親」の介護は、子供にとって、さらに負担になっていくのは避けられません。
そんな中で、「介護や育児をしながら働くための『ノマドワーク』」というのは、「大事な選択肢」になっていくのではないかと思います。
ある意味「消去法的な選択肢」ではありますが、それでも「介護で仕事ができず、経済的にも精神的にも追いつめられていく」よりは、はるかにマシなはずです。
分量としては、1時間で読める程度、新書なら100ページくらいかな、という感じなのですが、いまのところKindle版のみで450円。
こういう「新書にするには分量的に足りない。でも、必要最低限のことが書いてある本」が、この価格で売られるようになったことは、電子書籍の大きなメリットだと思いますし、こういう試みは読む側にとってありがたい。
かなり「水増し」しているように感じる、200ページくらいの新書って、たくさんあるから。
@May_Romaさんって、ちょっと苦手なんだよな……という人にこそ、読んでみていただきたい電子書籍です。