琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【映画感想】ノマドランド ☆☆☆☆

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アメリカ・ネバダ州に暮らす60代の女性ファーン(フランシス・マクドーマンド)は、リーマンショックによる企業の倒産で住み慣れた家を失ってしまう。彼女はキャンピングカーに荷物を積み込み、車上生活をしながら過酷な季節労働の現場を渡り歩くことを余儀なくされる。現代の「ノマド(遊牧民)」として一日一日を必死に乗り越え、その過程で出会うノマドたちと苦楽を共にし、ファーンは広大な西部をさすらう。


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2021年、映画館での4作目です。
平日の朝からの回で、観客は僕も含めて3人。
映画館も、新型コロナウイルスの流行の影響で、活気がないというか、閑散としています。
そりゃ、この状況だと、よほど観たい作品じゃないと、わざわざ映画館に行こうとは思いませんよね。『シン・エヴァンゲリオン』や『名探偵コナン』は、新型コロナの影響がなければ、もうちょっとお客さんを呼べているのではないかと思いますし、『鬼滅の刃』がなければ、映画館はいったいどうなっていたことか……と、考えずにはいられません。


第93回アカデミー賞の作品賞と監督賞(クロエ・ジャオ)、主演女優賞(フランシス・マクドーマンド)を受賞したこの作品。
とりあえず、「アカデミー作品賞を獲った作品は、選り好みせずに観てみる」という自分の決め事にしたがってきました。

僕にとってのアカデミー作品賞受賞作は、「興行成績と作品の評価が両立しているもの」(たとえば、『タイタニック』や『ロード・オブ・ザ・リング』)と、作品賞を獲らなければ、僕は興味を持たなかった作品(『グリーンブック』や『ムーンライト』)に大別されていて、後者を個人的に「『ドライビング Miss デイジー』系」と僕は名づけてきました。この映画、大学の講義で見せられたのですが、「なんなんだこの淡々とした映画は……これが『アカデミー賞』なのか?」と、当時の僕は驚いたんですよね。
 最近のアカデミー賞は、意図的に「授賞することによって、地味な作品を世に出す」ようにしているのではないか、とも思うのです。
 それはそれで意味があることなのだろうけど、「今年は『タイタニック』の年だったよなあ!」という盛り上がりがないのはちょっと寂しい。今年は、主演男優賞で予想外の結果となり、「アメリカのアカデミー賞は、『ガチ』なんだなあ」と、ネットではけっこう話題になりました。『日本アカデミー賞』の『東京タワー事件』を思い出します。
今年は、『鬼滅の刃』で良かったんじゃないかなあ。『罪の声』は、けっこう良い作品ですけど。


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 やたらと前置きが長くてすみません。


アメリカの『ノマド』というか、車上生活者たちって、こんな感じなんだなあ……」
 というのが、この映画に対する僕の感想のほとんど全て、ではあるんですよ。

 ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション小説が原作だそうなのですが、たしかに、ノンフィクションっぽいロードムービーになっています。

 本当に「ノマド生活」をしている人たちが主要人物にキャスティングされているんですよね。

 どこからが映画化の際に埋め込まれた演出なのかわからないところはあるのですが、日本の映画に出てくる「キャンピングカーで『道の駅』を渡り歩いている人たちとは、スケールが違うのです。
 そして、車上生活者って、「世捨て人」的なイメージを持っていたのですが、アメリカではノマドのコミュニティもあって、そこでノマド同士が集まって交流もしているのです。
 アメリカ人のどんな状況でもコミュニティをつくりたがるところに圧倒されるのと同時に、車上生活にも「コミュ力」が求められるなんて、なんかめんどくさいなあ、とも考えていました。
 そんなに「ひとりがイヤ」なら、わざわざ車で放浪しながら生活しなくても良いのでは……

 この映画を観ていると、あの広大なアメリカでも車上生活というのは簡単ではないのです。
 当然のことながら、ガソリン代はかかるし、車のメンテナンスも必要です。オートキャンプ場みたいなところに停めるのも、1か月に3〜4万円くらいかかります。

作中では、「Amazonで期間限定の労働者として仕事をしているときには、その駐車料をAmazonが負担してくれる」という話が出てきました。

Amazonって、ノンフィクションなどで採りあげられるのを嫌がる会社というイメージがあったのですがこの映画では、そういう「ノマドが働きたいときに仕事をくれる存在」として、けっこう好意的に描かれている印象です。
 だからこそ撮影させてくれたのかもしれませんし、Amazonの「必要なときに、必要なだけ人を雇う」のと、アメリカで「ノマド」という生き方をしたい人たちのライフスタイルは、けっこう相性が良いのかもしれません。
 
 それは、企業に都合良く時間を切り取られ、搾取されている、とみるべきなのか、Amazonのような企業があるから、働きたいときだけ働くことが可能な時代になったのか。


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 アメリカという国は、「放浪者」みたいな存在に対して、「危うさ」と同時に「自由な生き方」としてポジティブにもとらえる文化があるようです。
 ただ、あんなに広い国だから、車なんて停め放題だろう、というわけでもない。
 ノマドのコミュニティで、「トイレ問題」や「街中で職務質問されないように目立たず駐車する方法」についての講義が行われている場面もあるんですよね。

 さまざまなハードルがある、ということは、裏を返せば、ほとんどの人は「ホームレス」みたいな感覚ではなく、自分のライフスタイルとして「ノマド」を選んでいるということでもあります。

 ずっと一か所にいると、自由になりたい、と思い、放浪していると、どこかに落ち着きたい、というのが人間なんですよね。

 人間の「幸せ」って、いったい何なのだろう?
 愛する人を失ってしまう悲しみを背負うくらいなら、誰も愛さないほうが良いのか?
 故郷に絶望するくらいなら、故郷を離れてさすらい、「心の中の美しい故郷」を封じ込めておくべきなのか?

 車上生活ですから、行きたいところに行けるし、大自然の絶景を堪能したり、野生動物に接することもできる。
 でも、ある登場人物が「大自然のなかでみた素晴らしい光景」について熱心に語っているのを聞きながら、「でも、僕は素晴らしい景色を観たいとは思っても、それを観たから人生満足だ、という気分にはなれないなあ」と思わずにはいられませんでした。

 自然が美しく撮られている映画なんですよ、これ。
 だけど、大自然に抱かれれば幸せ、っていうものでもないよね。それこそ、人それぞれなんだろうけど。少なくとも、僕は「人生」という単位では、野生のヘラジカに会うことより、ニンテンドースイッチの新作ソフトのほうが大事なのです。
 ああ、でも、「人生の終わり」をもう少し明確に意識すれば、この世界に対する見かたも変わってくるのだろうか。

 アメリカの『ノマド』は、60歳以上の高齢者の割合が高いそうです。
 「そんな年齢になって、住むところもないなんて!」と思うか、「まだ身体が動く年齢のうちに、『人生の宿題』を自分で済ませる機会があって羨ましい」と感じるか。

 僕個人としては、「日本各地のビジネスホテルを泊まり歩いてコンビニ飯」みたいな生活が、いちばんしっくりくるんですが。


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