琥珀色の戯言

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【読書感想】中国「反日デモ」の深層 ☆☆☆☆


中国「反日デモ」の深層 (扶桑社新書)

中国「反日デモ」の深層 (扶桑社新書)

内容紹介
★「反日」を口実に膨れあがる、社会不満と民主化への希求。
危うい習近平新政権の今後を占う一冊。
2017年、中国に“体制変革"が起こる!?


反日デモは一つ間違えば“革命"となりかねない。
ネットがもたらす民主化の足音と“五輪後9年ジンクス"の符合とは?
日経ビジネスオンライン」人気連載『中国新聞趣聞』、待望の書籍化!


「中国」に関しては、あまりにもいろんな情報が溢れていて、ネット上では過激なヘイトスピーチを目にすることも多いため、なんだか食傷気味、というのが僕の本音ではあります。
 オリンピックも無事(チベット問題などを考えると、「無事」だったと言い切っていいかどうかは疑問なところもありますが)終わり、GDPは日本を抜いて世界2位、まだまだ経済発展を続けている国だし、実際は、そんな酷いことにはなっていないんじゃないの?というような「楽観」もあったんですよね。


 しかしながら、この新書を読んでいると、中国という国の複雑さと、残酷さ、終わらない権力闘争、そして、いつ暴発するかわからないくらい高まっている「内圧」を改めて痛感させられました。
 ネットの力などで、「民主化」を求める人たちが増えているのは事実なのでしょうけど、この国に、そう簡単に「革命」が起こることはないだろうな、とは思います。
 
 
 それにしても、「反体制派」と目された人たち(なかには、単に「目立ちすぎ」という理由の人もいるそうです)への、この国の「弾圧」のすさまじさ。
 1989年の天安門事件の指導者のひとりで、2012年6月に変死した李旺陽さんについて。

 李氏は、反革命煽動罪、国家政権転覆煽動罪などで計21年にわたる投獄と拷問を耐え抜き、2011年5月に出所、その後、拷問の後遺症を治療するという名目で市内の病院で当局の監視下に置かれていた。
 死の直前に李氏を取材した香港メディアなどが、その拷問の内容を詳細に報じているが、「棺材倉」と呼ばれる高さ1.6m×長さ2m×幅1mの棺桶のような狭い暗闇の独房に1ヵ月から3ヵ月間、監禁されるそうだ。床に排泄用の穴が一つ開いているだけで、光もなく立つこともできない独房入りを21年間の間に20回も経験し、李氏の筋肉は萎縮し、182cmの長身は179cmにまで縮んだそうだ。

 そして、出所1年後に変死……
 この本には、李さん以外にも「反体制派」と目された著名人たちへの拷問や弾圧が紹介されています。
 無名の人たちや、口もきけない状態にされてしまった人たちも、当然いるはずです。


 中国政府は、「ジャスミン革命」と同じような革命が中国で起こることを恐れているようです。
 そして、著者は、こんな言葉を紹介しています。

 北京の中国人フリージャーナリストは「辛亥革命100周年記念で、辛亥革命当時に思いをはせると、今の中国が驚くほど清朝末期に似ている、ということに気づいてしまう」という。
 官僚の腐敗と汚職の状況しかり、改良主義運動(政治改革)の停滞しかり。経済の「国進民退(国有中央企業が擁護され、民間企業が衰退する)」の状況しかり。しかも、政府系シンクタンクの非公式統計によれば2010年の集団事件(暴動、官民衝突)は18万件を超えている。
「ちょうど、6中全会(共産党第17期中央委員会第6回全体会議)が開催され、来年の政権交代に向けた人事が話し合われているのに、実は知識分子たちが以前ほど、政権の人事に興味を持たない。以前は次の体制の人事についての予測と分析がわれわれの関心事だった。でも、もう政権内部から中国を変えていってくれるなどと、少しでも期待するのがバカバカしくなった。今は中国を変えるのは革命しかない、という気分になってくるね」
 しかしながら中国で「革命が起こり得るのか」というと、その可能性を大きいという人は少ない。

 経済的には発展を続けている中国なのですが、どんどん格差が広がっていき、汚職も蔓延し、人々の閉塞感は高まっていくばかりのようです。
 日本からみていると、そんなに揺れているようにはみえない中国なのですが、長い歴史のなかで、革命を繰り返してきた国ですから、何かのきっかけて、一気に情勢が変わる、ということもありえるのかもしれません。
 少なくとも、中央政府は、ネットを通じての政府批判なども含めて、かなり神経をつかっているようです。

 中国の状況を考えると、政府を批判しても逮捕も拷問もされない(ネット上で「炎上」はするかもしれません)日本という国は、言論においては、「自由なほうの国」なんですよね。
 それを、日本人が有効に利用できているかどうかはさておき。


 著者は、中国で起こっている「反日デモの背景」について、純粋な反日感情に基づくものではなく、政府への批判を公にできない人々の「捌け口」となっていると推測しています。
 そのうえで、中国人の気質をよく知っている著者は、尖閣問題について、こう述べています。

 おそらく日本側は、中国とことを荒立てないことが、秋に本番を迎える日中国交正常化40周年行事への悪影響を防ぎ、在中国日本企業や邦人の安全を守ることにつながると考えていたのだろう。しかしそれは勘違いだ。国家としての尊厳を守れないような国の企業や人間の安全が、中国や中国人に重視はされない。
 中国人とビジネスをしたことがある人ならわかるだろう。彼らはこちらが引けば押してくる。弱みを見せれば攻めてくる。相手が反撃をしないと思えばいくらでも舐めた態度でくる。だが、こちらが実力を備えていたり、あるいは覚悟をもって強く出たりすれば、力が拮抗するところで留まる。それが中国でいうところの交渉力なのだ。

 なるほど……
 こういう「駆け引き」ができないと、中国と渡り合っていけない、ということなんですね。
 とはいえ、あまりに日中対立が高まってくると、中国側も体制への不満を逸らすために「実力行使」を選択する、あるいは、選択せざるをえなくなる可能性もあります。
 

 ずいぶん昔、北朝鮮の核問題をめぐる六カ国協議が北京で行われていたころ、中国のネットで流布した笑い話がある。
 六ヵ国協議中、日本代表がトイレに席を立った時、みんなが我慢強い日本をどうしたら怒らせることができるか、という話で盛り上がった。
 

 北朝鮮代表「国民が拉致されても怒らない国だからな」
 韓国代表「独島(竹島)を不法占拠されてもにこにこしているし」
 ロシア代表「北方領土とられても平気みたいだ」
 中国代表「反日デモで大使館に石投げても日中友好って言っているよ」
 北朝鮮代表「さすがに核ミサイルを撃ち込みゃ怒るだろう」
 するとアメリカ代表が言った。
 「ダメダメ、それは俺がもうやってみたから」


 いろんなバージョンがあって細かい文言は忘れてしまったが、とにかく日本がお人好しである、ということを揶揄する内容だった。この笑い話を改めて思い出してしまうのが今の日本の状況だろう。

 まあ、日本人にとっては、不謹慎というか、はらわたが煮えくり返るような「ジョーク」なのですが、中国人からも「日本は怒って当然の状況」だとみられていたのですね。
 「何をされても怒らない経済大国」って、それはそれで不気味だとも思いますし、相手国からすれば「そういう理解不能なところ」が日本の怖さと感じられているのかもしれませんが……


 知っているようでまったく知らない「中国の政治の現在」が、わかりやすくまとめられている一冊だと思います。
 こんなにさまざまな「非人道的な行為」が行われているのに、経済力があると、世界はけっこう優しいのだなあ、と暗澹たる気持ちにもなるのですけど。

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