琥珀色の戯言

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【読書感想】ホテルローヤル ☆☆☆


ホテルローヤル

ホテルローヤル

Kindle版も出ています。
何気に直木賞受賞時にKindle版があった作品は、初めてなのではなかろうか。
[asin:B00DLQ14RS:detail]

内容(「BOOK」データベースより)
恋人から投稿ヌード写真撮影に誘われた女性店員、「人格者だが不能」の貧乏寺住職の妻、舅との同居で夫と肌を合わせる時間がない専業主婦、親に家出された女子高生と、妻の浮気に耐える高校教師、働かない十歳年下の夫を持つホテルの清掃係の女性、ホテル経営者も複雑な事情を抱え…。

第149回直木賞受賞作。
僕の予想では、宮内悠介さんの『ヨハネスブルグの天使たち』と並んで「まず受賞はなさそうだ」と踏んでいた作品なのですが……
twitterで、直木賞桜木紫乃さんの『ホテルローヤル』に決定、というのが流れてきたときには「これは誤爆か釣りだな」と身構えてしまいました。


(以下はこの作品、あるいは桜木紫乃さんのファンは不快になる可能性が高いので、読まないことを推奨します。たしかに予告しましたからね!)



今回の直木賞候補作は、恩田陸さんの作品以外は、すべて「連作短編」ばかりだったのです。
この作品は「ホテルローヤル」を舞台に、廃墟になったホテルローヤルから、その建設開始へと、時間を巻き戻す形で、さまざまな男女の「地方(北海道)での生と性」が描かれていくのです。
時間が巻き戻されていく連作短編ですから、桜庭一樹さんの『私の男』みたいな感じですね、形式としては。
でもね、『私の男』ほど、読んでいて不快になったり、心をかきむしられることはありません。
連作短編である意味もあまり感じられず、「流行りだから連作にしたんじゃない?」と勘ぐってしまいます。


この作品で描かれている、「不倫」「売春」「離婚」「貧困」などを読んでいると、「ああ、またこんな話かよ」って気分になるんですよね。
綾小路きみまろ世代の「ケータイ小説」みたいなもんじゃないの?
あるいは、激安『セブン』(ブラッド・ピット主演の映画)の世界。
なんか、直木賞の選考委員って、せせこましい話というか、狭い世界でオッサン、オバサンがネチャネチャと絡みあったり、セックスばっかりしているような話が大好きだよね。
「恋愛もの」「セックスのことばかり書いてある小説」が基本的に苦手なのもあるだろうけど、僕はもう罰ゲームみたいな感じで最後のほうは読んでいました。
あの『ふがいない僕は空を見た』と同質の「セックスのこととか不倫とか描いてれば、『ブンガク』なのか?」という疑念が湧いてくる作品なんです。


なぜこれに『ジヴェルニーの食卓』や『巨鯨の海』が負けてしまったのだろうか……
こういう世の中だからこそ、「わかりやすい、薄っぺらい身近な生と性」よりも、もっと「ダイナミックな物語」が評価されてもいいんじゃないかなあ。
時事ネタは、それこそ芥川賞に任せておいて。


……以上は、考えてみると、この作品への感想というよりは、「なぜこれが直木賞なんだ?」という恨み節になってしまっていますね。
賞なんていうのは、その作品の「飾り」でしかなくて、「なんでこれが受賞作なんだ!」=「悪い作品」だというレッテル貼りは、されるべきではありますまい。

 気の小さい男と、打算的な女だったの。上手くいってるように見せなくちゃ、あんなところで喫茶店なんかやってられないでしょう。お客さんの悩み相談を聞きながら、一杯四百円のコーヒーと、五百円のランチを維持するために仲がいいふりするのって、ただの偽善じゃない」

そんなこと、大発見のように、偉そうに言われなくても、当事者がいちばんわかってるって……
ふがいない僕は空を見た』が大好きな人なら、「良い小説」だと思うのではないでしょうか、たぶん。

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