琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】少年と犬 ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
家族のために犯罪に手を染めた男。拾った犬は男の守り神になった―男と犬。仲間割れを起こした窃盗団の男は、守り神の犬を連れて故国を目指す―泥棒と犬。壊れかけた夫婦は、その犬をそれぞれ別の名前で呼んでいた―夫婦と犬。体を売って男に貢ぐ女。どん底の人生で女に温もりを与えたのは犬だった―娼婦と犬。老猟師の死期を知っていたかのように、その犬はやってきた―老人と犬。震災のショックで心を閉ざした少年は、その犬を見て微笑んだ―少年と犬。犬を愛する人に贈る感涙作。


第163回直木賞受賞作。
僕が中学生の頃、マイコン雑誌『ポプコム』で活躍していたレーニンさんが馳星周さんになり、7度目のノミネートでついに直木賞受賞!本当におめでとうございます。
今から考えると、あの頃のマイコン雑誌・ゲーム雑誌にはものすごく勢いがあって、新しいもの好きの書き手がたくさんいたんですよね。
そのうち、テキストサイト出身の直木賞作家とかも出てくるのかなあ。

この『少年と犬』、受賞が決まって早速読んだのですが、すごく読みやすい本でした。
それは半分褒め言葉であり、もう半分は「こんな『普通の小説』で直木賞?馳さんだったら、もっと『受賞すべき作品』があったのでは……」という感慨です。
「震災+動物(犬)+子ども」という、お涙頂戴スーパーコンボみたいな内容だったりして……と苦笑しながら読み始めたら、その通りだった、という……

この本を読みながら、思い出していたのは、『レンタルなんもしない人』のことだったんですよ。


fujipon.hatenadiary.com


さまざまな登場人物が、この、賢くて凛とした犬の前で、自分の「心のうち」を晒していくのです。
彼らは、同じ種族である周囲の人間からすれば、犯罪者だったり、ダメな夫だったり、頑固なジジイだったりするのですが、そういう人間になったのには、それなりの理由も背景もあるんですよ。
でも、テレビやネットのニュースでは、彼らが「結果的にやったこと」だけが採りあげられ、なぜ、彼らがそういうことをしてしまったのか、は、ほとんど顧みられないのです。

この物語の「犬」には、超能力があるわけではないし、ホイミやケアルが使えるわけではない。
人間側は、犬にいろんな感情を投影して、頼りにしたり、癒されたりしているけれど、犬は、犬としてそこにいるだけです。
むしろ、「下手に慰めの言葉をかけてきたり、説教してきたりしない」ことこそ、犬の存在意義なのかもしれません。

それでも、犬は食べさせたり散歩させたりしなければならないわけで、短時間であれば「レンタルなんもしない人」に頼るという手もあるわけです。

ただ、「レンタルさん」は、著書のなかで、「交通費とかしかもらっていないときはさておき、依頼ごとに1万円以上もらうことにしてからの『レンタルなんもしない人』は模倣するの結構難しいんじゃないかと思う。受け取る金額に比例して、かなりの”なんもしたくなさ”が要求される」と仰っているんですよね。

ずっと一緒にいる、ということに煩わしさを感じないのであれば、人間より犬のほうが「ただ、傍にいてくれる存在」としては優秀なのでしょう。
むしろ、いろんな事情を抱えた人間側のほうが、「せめて、この犬に対しては、何かしてあげたい」と思うようになっていくのです。

犬と飼い主の話といえば、僕は椎名誠さんの『犬の系譜』という作品を思い出すのですが、これは、飼い主側からみた、歴代の飼い犬を振り返る小説でした。
この『少年と犬』は、一頭の犬からみた、歴代の飼い主の話で、かえって、オーソドックスな展開だという印象を受けました。

本当に、「これで直木賞なのか……」と思うくらい「オーソドックス」な小説で、310ページの初出についての記載をみると、単行本化する際の「ある決断」がなければ、もっとインパクトが弱かったのではないか、とも思われます(これが作者の最初から意図したものだったのか、単行本にするときに変えられたのかはわかりませんが)。

読みやすいし、動物好きにはたまらないだろうし、すでに高名な作家が直木賞を受賞する際には「前のあの作品で受賞しておくべきだったのに」というのは、よくあることです。

それに、「直木賞受賞作だから」と、日頃あまり本を読まない人が手に取ったとしたら、このくらいが分量的にも読みやすく、わかりやすくて感動できる「ちょうどいい」作品なのかもしれません。

馳さん、7回目のノミネートで、この作品で受賞か……
2アウト満塁で、バッターにさんざん粘られて、もう投げるボールがなくなってど真ん中のストレートを放ったら、かえってバッターのほうが驚いて手が出ず三振、みたいな……


不夜城 (角川文庫)

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