- 作者: 中村うさぎ,三浦しをん
- 出版社/メーカー: 毎日新聞社
- 発売日: 2013/11/05
- メディア: 単行本
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内容紹介
あたしは、世界でたった一人のあたしの味方なんだから。
浪費、整形、ホスト・・・・・・女の業を体現し続ける作家・中村うさぎと、“女戦線"からの離脱を切に願う“隠遁女子"作家・三浦しをん。ともに女子校に育ち、だけど歩んできた道は正反対。そんな2人が、長い漂流の先に見つけたものは──。
美人か、ブスか。美醜という基準は、女子の生き方をとても縛るものだよね。女子って「でも、ブスじゃん」の一言で、そこまで積み上げられてきたものが、すべて台無しにされる感ってあるから───中村うさぎ
出家制度がもっと根付いたら楽なのにって最近よく思うんです。「大変残念ですけど、モテとかそういう文脈からは脱落させていただきます」っていうことを、もっと分かりやすく、世間に示す制度があっていいんじゃないかって───三浦しをん
中村うさぎさんと、三浦しをんさんによる「女子について」の対談。
中村うさぎさんは、難病で一時期かなり危険な状態であるという報道がされていましたが、病状はかなり落ち着いてはおられるようです。
とりあえずよかった。
この本、1958年生まれの中村さんと、1976年生まれの三浦さん(ともにキリスト教系の女子校出身、なのだそうです)が、自分たちの半生を振り返りながら「女子として生きることの煩わしさ」みたいなものを語る、という内容なのですが、これを読みながら、僕はいろいろ考えてしまったんですよね。
世間では、とくに同性の集団の「仲間うち」では、異性に対して「女っていうのは……」「男ってさ……」というような「性別全体での傾向」みたいなものが語られがちじゃないですか。
でもほんと、「女子」も千差万別なんだなあ、って。
三浦しをんさんは、「まえがき」のなかで、こんなふうに仰っています。
でも、正直に言おう! 私はどうしても、どうしても、モテに興味が持てない!(シャレではない)。入浴も男受けする服もトークスキルも、心底どーでもいい! もっとほかに、自分にとって重要なこと(漫画とか)があるような気がしてならないのだ!
しかし、ひとと会ったときには、それなりに話を合わせるようにしている。「モテ」や「恋愛」や「結婚」に興味がないと断言するのは、この社会においてはなんとなく少数派かなという気がして、勇気が出ないからだ。
そこで、「いいひとがいたら、むろん交際や結婚もやぶさかではない」という態度を取ってきた。そんな態度を取っても、「圧倒的にモテない」事実は覆らないのだが、周囲と違和を生じさせないためには、「恋愛戦線から脱落するのをよしとはしていない」というポーズが重要だと思ったのである。「モテにも恋愛にも結婚にも興味ないなんて、ド変態にちがいない」。そんな無言の圧力を勝手に感受し、実体のない「世間」に対して予防線を張ってきたのだと言えよう。
「自意識」や「他人の目」から自由になりきるのは、たぶん不可能だろう。だが、うさぎさんと話して、ちょっと勇気が出たというか、吹っ切れた。
世の中には「モテ」とか「恋愛」とかに興味が薄い人や、他のことへのほうが人生における優先順位が高い人って、少なからずいると思うんですよ。
でも、そういう人たちは、実体があるのかないのかわからない「世間」に対して、予防線を張らなければ生きづらい、それは、僕にもわかるような気がします。
まあでも、そんな三浦さんがとくに好んでいるのが、BL(ボーイズラブ)という、男性同士の恋愛を描いた漫画のジャンルであるというのは、なんだかちょっと不思議にも思えるんですよね。
「人間や人間関係の煩わしさが面倒」と言いつつも、結局、その「人間や人間関係の物語」を読んでいるんじゃない?って。
まあ、僕だって、「スポーツは苦手だし、自分でやりたいとは思わないけれど、観戦するのは大好き」なので、「当事者」になるのではなく、「観察者」でありたいのだ、ということなのかもしれません。
三浦さんは、この対談のなかで、特定のキャラクターへの思い入れは、あまり強くない、とも仰っていますし。
しかし、そんな三浦さんのような「女子」がいる一方で、こういう人もいるのです。
中村うさぎ:そういえば、この間、料理のことで面白い話を聞いたんだ。あたしの友達が、会社の男も含めて何人かで、1台の車でスキーに行くことになったの。でさ、そのイベントを仕切ってる女に、「おにぎりとか持ってこうか?」って聞いたんだって。そしたら「いらないから。そういうの一切ないから」って言われたの。「じゃあ、お菓子くらい持って行くね」って言ったら「そういうのも、ホント、いいから」って言われてさ。スキーの当日、本当に手ぶらで行ったのよ。そしたら、その女さ、きっちり人数分のおにぎりを作ってきて、お菓子も飲み物も持ってきたんだって。
三浦しをん:え〜怖すぎる! 仕切ってる女は、「いいよ、私が全部用意しておくから」って言い方したわけじゃないんですよね?
うさぎ:そういう言い方はしてない。たぶん、彼女を気が利かない女にするための戦略。
しをん:世が世なら天下統一してますね(笑)。
うさぎ:大奥とかね、権力闘争で勝ち抜けますよね。おにぎり作った女が、モテにつながったかは分からないけど、間違いなく株は上がると思わない?
僕がそういう裏事情を知らずに、その場にいたら、おそらく「この子は気が利くなあ」って、好感度が急上昇していたと思います。
すぐそばに「何もしていない子」がいれば、なおさら……
別に「女性がおにぎりを作ってくるべき」なんて思っているわけではない、ないはずなんだけれども、こういう場面で、けっこうイメージって植え付けられてしまいがちです。
年齢を重ねてくると、他人の「性格」って、なんとなく行動で判断できるような気がしてしまうけれど、実際は、こういう駆け引きを知らないまま、「わかったつもりになっている」ことって、多いのだろうなあ。
この対談を読んでいると、「恋愛にもけっこう積極的なほう」で、比較的外の世界に出ていくのが好きそうな中村さんと、「恋愛に興味を持てず、家で漫画を読んでいるのが幸せ」の三浦さんは、対照的な生き方をしているようにも思われます。
しかし、両者とも「本当にあるのだかどうかわからない『世間』というもの」と、ときには衝突し、ときには流れに逆らえずに、生きづらさを抱えてきた人ではあるんですよね。
そして、二人は「世間の同調圧力を勝手に『察して』自分をがんじがらめにするような生き方は、もう止めていいんじゃないか」という共通認識を持っているのです。
しをん:私ね、「努力すれば、なんとかなる」っていうのは、学生時代までの話であって、社会に出て働き始めてからは、努力ではなんともならないことがいっぱいあると思ってるんです。根回しだったり、タイミングが大事なこともあるだろうし。頑張れば頑張るほど、仕事が報われるわけでもないんですよ。でも、それに気づけないというか、それをどうしても認められない人もいるんだと思うんです。
うさぎ:それは、男女問わず、だよね。
しをん:はい。学生時代はがむしゃらに勉強して、校内で一番の成績で東大に入ったとしても、会社では途端に思うようにいかなくなることは、男性にもあると思う。でも、会社組織はいちおう男性向けに作られたものだから、うまく立ち回れれば、ある程度はどうにかなると思うんです。だけど、女が同じことをしても、何かの拍子に「でも、ブスじゃん」っていう一撃があるんですよ。
うさぎ:最後は、ブスの壁にぶつかるんだよね。
男の一員である僕としては、その「うまく立ち回る」ってことが、すごく難しいんだけど……とか、思ってしまうのですが、たしかに、こういう「本来関係ないはずのところで、「でも、ブスじゃん」を持ち出してくる人って、いるんですよね。
そして、それなりの「効果」がある。
中村うさぎさんと、三浦しをんさん。
どちらかのファンであれば、読んでみて損はしないはずです。
ただ、「男が女心を知るために読む本」としては、あんまり適切ではないかな、とは思いつつ。