- 作者: 半田滋
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/10/31
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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Kindle版もあります。
- 作者: 半田滋
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内容紹介
イスラム国による日本人の人質殺害事件が発生しました。それを受け、海外でテロなどの事件に巻き込まれた日本人を救出するために、自衛隊を派遣する議論が活発化しています。つまり、自衛隊を戦場に投入するという議論です。
尖閣諸島と竹島の問題に象徴されるように、日中、日韓関係が悪化しています。拉致問題をはじめ、北朝鮮との関係も光明が見えません。安倍晋三首相は、解釈改憲で集団的自衛権を認めました。日本と直接関係がなくても、自衛隊は仲の良い他の国のために、戦争に行かなくてはなりません。安倍首相の狙いは、あきらかに、「戦争のできる日本」へと国を変えることです。
アジアにおける日本、世界における日本のあり方が、どんどん変わってきているのは事実です。では、日本は「戦争のできる国」を選択するべきなのでしょうか。
そのことを知り、未来の日本で選び取るのは、戦場に行かされる可能性のある若い世代です。本書はQ&A形式で自衛隊と日本の国防、米軍との関係について基本的な知識を盛り込みました。中学生でも読めるような設計にしております。
東京新聞論説兼編集委員の半田滋氏は、防衛省・自衛隊の取材を四半世紀にわたって経験しているベテランで、国防関連の講演を相当数こなしています。その半田氏が、平易、かつ、新聞やテレビでは決して触れようとしない国防の本当を語ります。
「北朝鮮からミサイルが飛んできたとき、それを撃ち落とせるの?」「日本国憲法を変えたら、戦争になってしまうの?」「自衛隊に無理矢理入れられる時代は来るの?」といった、だれもが知りたくて、でも、だれも答えてくれなかった疑問に、明快な答えが出ます!
防衛省・自衛隊の取材を四半世紀にわたって続けているというベテラン記者による、「日本の国防と、自衛隊のいま」。
「中学生以上なら読めるように書いている」という触れ込み通り、字も大きめ、難しい感じにはルビがふられていて、かなり読みやすくなっています。
Q&A方式で、わかりやすく書かれており、「これから戦場に行くことになるかもしれない世代の若者たちに読んでほしい」という著者からのメッセージが込められているのです。
「大人が読むには、初歩的な内容すぎるのではないか」と思いつつ読み始めたのですが、実際に読んでみると、自衛隊の「リアル」について、ほとんど知らなかったということがわかってきます。
自衛隊は、2007年に陸上自衛官の定員が削減されてから若い隊員が減り、1991年に32.2歳だった自衛官全体の平均年齢が、2008年には35.1歳と高くなっているそうです。
今度は自衛官の給料をみてみましょう。18〜26歳を対象に2〜3年間の任期で採用される「任期制隊員」の給料を紹介します。景気が悪くなった日本では、この任期制隊員に応募する若者が増えています。
陸上自衛隊の任期制隊員(2年間)の収入は一任期で約580万円。一任期ごとにボーナスがあり、二任期(四年間)務めると総額1336万円がもらえます。海上、航空それぞれの自衛隊(どちらも3年間)の任期制隊員は、一任期の総額が919万円、二任期(6年間)で1709万円になります。衣食住にかかるお金は自衛隊が負担してくれますから、給料やボーナスは全額、自由に使うことができます。朝から晩までちゃんと働いても、年収が二百万円以下にしかならない「ワーキング・プア」と呼ばれる若者たちが増え、社会問題となっています。多くの若者たちにとって、自衛隊の報酬額は魅力的に映るのではないでしょうか。
勤務時間は原則として午前8時15分から午後5時までです。地方の駐屯地や基地で働く自衛官は、変則的な勤務のある日を別にすれば、夕方には家に帰れます。趣味に打ち込んだり、家族といっしょに過ごしたりする時間を、十分に取ることができるのです。
この後、著者は「ただし、国防や災害時の派遣などの可能性もあるので、一概に、恵まれているとも言えない」と述べています。
自衛官たちの訓練の厳しさや災害やPKOでの派遣時のストレスを考えると、ヘタレな僕は「ちょっと自分には無理だな……」と思うのですが、「何も起こらなければ」待遇としてはそんなに悪くはなさそうです。
いわゆる「生活費」のかなりの部分を負担してもらった上での、この給料ならば、ね。
ただし、「戦場」に行くということは、やっぱりかなりキツいことではあるのです。
陸上自衛隊がイラクで生活を送った宿営地には、十三回、二十二発のロケット弾が撃ち込まれました。航空自衛隊がアメリカ兵をイラクの首都・バクダッドに運ぶときなどは、機内に地上からミサイルで狙われていることを示す警報音が鳴り響き、狙いが定まらないように、アクロバットのような飛び方をしなくれはなりませんでした。
無事に帰国しても、戦争の恐怖は消えるものではありません。2014年3月末までの、陸上自衛隊で20人、航空自衛隊で8人が自殺しています。全員イラクに派遣された経験を持つ人たちで、過酷な環境で活動したことが影響したと考えられています。
クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』という映画のなかで、ずっと米軍の砲弾の音が鳴り止まないなか、眠れぬ日々を過ごしていた硫黄島守備隊が描かれていたのですが、その弾が当たらなかったとしても、「いつ死んでもおかしくない、気が休まらない状況」に置かれるというのは、ものすごくきつい。
もし、生きて帰ることができたとしても。
戦場で心の傷を負う兵士は、ものすごく多いのです。
日本の「自衛隊」は、戦後、「戦死者」を出していないことになっていますが、それは、幸運だったからでしかありません。
アメリカ兵を運んでいれば、いくらそれが「侵略戦争はしない」とアピールしている国であっても、標的になるでしょうし。
ただ、だからといって、「武器を捨てて、平和を訴え続ければ大丈夫」という確信を持てないのも事実で。
戦争はイヤだけれど、嫌がっていれば、相手も遠慮してくれるとはかぎらない。
先日起こった「イスラム国」の人質事件の際、「もし自衛隊に、日本人人質を救出する能力があったら、そうすべきなのか?」というようなことを、僕は考えていました。
人質のひとつの命のために、より多くの自衛隊員の命が危険にさらされるような「救出作戦」を、実行すべきか否か?
あるいは、あの事件の「報復」として、相手に空爆を行って、子どもを含む犠牲者を大勢出すような作戦が実行されるべきなのか?
舐められたら、どんどん好き勝手にやられてしまう、そういう意識があるのはわかるのです。
でも、どこかで、どちらかがブレーキをかけないと、キリがなくなってしまう。
とはいえ、自分からブレーキをかけるのは難しい……
この本を読んでいると、著者は「集団的自衛権」に否定的で、アンチ安倍首相なのだろうな、というのが伝わってきます。
でも、僕はTwitterで安倍首相への罵詈雑言を繰り返している「左派」の人たちの言動をみると、山本浩二監督やブラウン監督が交替すれば、チームが急に良くなると考えていたカープファンみたいだな、と思うことがあるのです。
批判するっていっても、内容は、小学生の悪口みたいな揚げ足取りとか誹謗中傷ばかりが目立つし。
僕は積極的な安倍支持者ではないのですが(というか、正直あんまり好きじゃないんですが)、ネットでみかける「アンチ安倍」の大人げなさには、がっかりしてしまいます。
憲法を変える場合、正式な手続き(憲法第96条)にしたがって、衆議院、参議院のすべての議員の3分の2の賛成を得たうえで国民投票を行い、その投票で国民の半分以上の賛成を得なければ、憲法を変えることができません。
しかし、安倍首相は「わざわざ憲法を改正しなくても、憲法に書かれていることの理解の仕方を変えるだけで十分」という理屈で、これまでクロだったものをシロと言いかえてしまいました。しかも、自民党と公明党というふたつの与党(首相を支持する政党のこと)が、他の人々にはその話し合いの内容を見せない閉ざされた協議を一ヶ月半行っただけで、「集団的自衛権は行使できる」と閣議決定(首相とすべての大臣の合意で決める内閣の意思)で変えてしまったのです。この強引なやり方に、国会を取り囲むように大勢の人々が集まり、抗議の声を上げました。
先ほど説明したとおり、政治家が好き勝手なことをできないように憲法はあるのです。憲法にしばられる側の政治家が、自分に不都合だからといって憲法の解釈の仕方を一方的に変えるのは、憲法を無視していると批判されても仕方がありません。
アメリカ政府は、安倍首相のこの決定を「歓迎する」と言っています。将来、アメリカのために日本が戦争してくれれば、アメリカ軍の兵士が1000人死ぬところ、代わりに日本の自衛官が300人でも400人でも死んでくれるかもしれません。アメリカの負担が軽くなるのですから、賛成するのも当たり前です。
しかし、アメリカは民主主義を大切にする国でもあります。2014年5月8日、新聞「ニューヨーク・タイムズ」は、電子版の社説でこのように書きました。
「解釈改憲は、民主主義のプロセスを完全に傷つける行為である。憲法は権力をチェックするものであることを安倍首相は知るべきだ。日本は民主主義の試練に直面している」
アメリカの新聞は、安倍首相のやり方に、厳しい目を向けているのです。
たしかに、「改憲しなくても、解釈を変えてしまうことでやりたいようにやれる」のであれば、憲法の存在意義がなくなってしまいます。
アメリカのメディアは、自分の国の「国益」に反することでも、日本の「民主主義」に疑問を呈しているのです。
アメリカは、間違いをおかすこともあるけれど、自浄作用も、まだ失われていない。
この本を読んでいると、自衛隊というのは、けっこう強いのだな、ということとがわかります。
もちろん、その「強さ」が証明されないことを願ってはいますけど。
その一方で、「日本には平和憲法もあるし、専守防衛だから」とは言うけれど、長距離ミサイルが飛んでくる時代なのに「専守防衛」などというのが、果たして有効なのか? あるいは、「日本は戦争をしないから」と、戦場で血を流す役割を、アメリカに押しつけて「平和国家」を吹聴しているのは正しいことなのか?という疑問もわいてくるのです。
親しくしていた海上自衛隊の幹部がしみじみ言いました。
「自衛官の先輩たちが退官するとき、私たちにかならずこう言うんです。『戦争が起きなくて本当によかった』。もちろん私も、戦争が、いつまでも起きないことを願っています」
戦争が未来永劫起きない、ということは、たぶんないでしょう。
それは、人間の歴史が、証明しています。
けれど、少しでも先延ばしにすることは、不可能ではないはずです。