琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】人間仮免中つづき ☆☆☆

内容紹介
愛ってすごい! 愛って尊い!
卯月さん、ボビーさん
ご入籍おめでとうございます!


小泉今日子、帯コメント寄稿。
波瀾に満ちた人生を送ってきた著者が出会った
25歳年上のボビーとの生活は今…


苛烈で型破りで誰よりも強靱な愛の行方が明かされる、
感動のコミックエッセイ続編、4年半ぶり待望の発刊!


あなたにとって、生き死にを委ねられる人はいますか?
読み手の心に突き刺さる「奇跡のつづき」がここに。


 なんかすごいものを読んだ。


 『人間仮免中』を読んだときもそう思ったんですよね、たしか。
 とにかく、すごい迫力というか、圧力みたいなものが伝わってくる作品です。
 冒頭に文章で説明されている部分だけで、もうお腹いっぱいになってしまいます。

 前作「人間仮免中」から4年半が経ちました。
 北海道の、ある障害者福祉施設にお世話になったわたしは
 ボビーと5年間、離れて暮らしました。


 そんな卯月妙子さんとボビーさんが、再び一緒に暮らすことになってから、の物語。
 ただ、僕はこれを読んで、「愛ってすごい、愛って尊い!」という小泉今日子さんのような真っ直ぐな反応はできなくて。
 症状が悪化しているときには、お風呂にも20日に1回、ボビーさんに入れてもらっていた、とか、薬の効果でハイテンションになって、短時間に何十通もメールを送ったり。
 浮き沈みの激しい卯月さんと、喧嘩もしながら、「一緒に生きつづけている」ボビーさん。
 でも、ボビーさんもまた、孤独を抱えている人でもあり。


 幻聴や幻覚にさいなまれることがある卯月さん。
 夜中に大声で喧嘩をし、その様子をうかがっている近所の人たちに怒鳴り散らす二人。
 腹痛で救急病院を受診したものの、幻聴で泣きわめき、何のの処置もできずに帰宅。


 病気だから、本人が悪いわけじゃない。そんなことは百も承知だけれど。
 でも、僕がこの近所の人たちだったり、夜中に診察を求めてきた患者さんに、目の前で混乱状態になられた医者だったりしたら、と考えると、それはもう「愛って美しい!」じゃなくて、「困ったな……」というのが率直な気持ちだと思うのです。
 これを「愛の物語」だと美化できるのは、自分に直接影響が及ぶことのない「コンテンツ」だから、なんじゃないかな。
 いや、世の中のコンテンツに、すべて当事者意識をもって向き合え、なんていうのは無理だということは、わかっているんですよ。
 ただ、「こういう世界」は、僕の身近なところにもあるのだけれど、それが身近なところにあればあるほど、僕は「辟易」してしまう。
 逆に、ふだん辟易している現実の裏側には、こういう「事情」とか「物語」があるのだ、というふうに考えたほうが良いのかもしれませんね。
 

 漫画としても、絵は殴り書きみたいで、スキマが多い。
 卯月さんのコンディションを考えたら、それでも、よく完成させたな、とは思うのです。
 その一方で、描く側の事情に配慮することによって、作品の評価が上がるというのは、その作品そのものをちゃんと読んでいる、とは言いがたいのではないか?


 大変感じの悪い感想を書いていることは百も承知なのですが、僕は卯月さんの人生には圧倒されるけれど、この『人間仮免中』、とくにこの「つづき」に関しては、「マンガとして、コンテンツとしてのクオリティの問題が、『話題性』で覆い隠されているように思えてなりません。
 いや、僕もわかっているんです。「これを美談として消費してしまおうとする自分自身への罪の意識」が、こんな感情的な反発を生み出しているのではないか、ということに。
 そして、この作品には、そんなふうに、感情を揺さぶられる力があることも、間違いありません。
 でもなあ、こうして「消費」されることによって、卯月さんは収入を得ているし、描くことが生きがいにもなっているのだよね。
 それは、たぶん「良いこと」なんだよなあ、間違いなく。


fujipon.hatenadiary.com
※今回の感想を書きながら、けっこうモヤモヤしていたのですが、『人間仮免中』の感想も似たようなことを書いていて、人間って成長したいものだなあ、と苦笑しております。

人間仮免中

人間仮免中

 

アクセスカウンター