- 作者: 天野譲二,GAMEgene編集部
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2017/03/25
- メディア: 単行本
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内容紹介
発売中止ゲームの謎を追え!本書はゲーム開発関係者への取材や当時の報道からゲーム業界の語られざる歴史「未発売ゲーム」を探る調査報告書である。華々しく見えるゲーム業界だがその陰には数えきれないほどの発売中止となったゲームがあったのだ。
かつて、ゲーム専門誌「ユーゲー」「ゲームサイド」に連載されて話題を呼んだ連載『幻のゲームを追え! 』を大幅加筆の上、新規取材も収録し、待望の単行本化が実現。
ファミコン用ソフト『オフザーケン』ほか、さまざまな未発売ゲームの開発関係者が登場。
あの頃、発売を心待ちにするも遊ぶことができなかった発売中止ゲームたち。その夢の片鱗を我々は目撃する──!
僕にとっての、「二大未発売ゲーム」は、名作国産RPG『ブラックオニキス』の第3弾、これまでのダンジョン探索からフィールドに出られる(はずだった)『ザ・ムーンストーン』と、堀井雄二さんの『オホーツクに消ゆ』の次回作としてアナウンスされつづけていた『白夜に消えた目撃者』なのです。
『ザ・ムーンストーン』は、画面写真もけっこう出ていて、定期的に、マイコン雑誌に「開発の状況」がアナウンスされていたんですよね。結局、出ることはなかったのですが。そもそも「国産」RPGなんて言われても、現在の日本のゲーマー的には「わざわざ『国産』とか言う必要ある?」って感じでしょうけど、当時はみんな『ウィザードリィ』や『ウルティマ』に憧れていて、「日本のRPG」というのは地位が低かったのです。
『白夜に消えた目撃者』については、2016年に読んだ矢野徹さんの『ウィザードリィ日記』で、こんな話を読みました。
宮野さんの話。ドラゴンクエストの作者とハバロフスク経由モスクワへ、ゲームの筋作りに行った。ただし、作れそうになかったという。そのときに話し合ったことというほうが面白かった。「いまの作家が小説にかける時間よりも、ファミコンやコンピュータ・ゲームを作る人のほうが、物語の筋を考える時間がはるかに長い」というのだ。編集部の人だから、実態をよく知っているのだろう。
そもそも、シナリオハンティングの時点で、「作れそうにない」という感触だったんですね。それならそうと……まあ、早く言えない事情、みたいなのもあるんでしょうけど。
残念ながら、これら2作については、この本のなかでは採りあげられていないのですが、「発売が告知されながらも、実際には出なかったゲーム」について関係者に取材するのは、予想以上に大変だったみたいです。NDA(秘密保持契約)とかもあるみたいですし。
「あとがき」には、こうあります。
言い訳になるが、これらの取材は難航した。取材を申し込んで快く応じてくださった方もいる半面、全く無視して返事もくれない方もいる。表にできない話がいくらでもある。
そして本書をお読みいただいた方ならば当然「あれが無い」「これが抜けている」とお思いになられたであろう、ビッグタイトル。それはごもっともと頷きつつも、それらが何故紹介できないかは、『諸般の事情』としか書けない面が大きい。
『ファイナルファンタジー』シリーズとかも、たくさんありすぎて「あれって、結局どうなったんだっけ? 結局、タイトルが変更されて一作にまとめられたのかな……」なんていうのが少なからずありますし、最近では「オンラインRPG」なんて、「あの○○の世界が、ネットワーク上に蘇る!」なんて告知されつつ、いつのまにか立ち消え、なんていうのばかりですよね。
いま、新しくオンラインRPGを立ち上げるのは難しいのだろうな、というのもわかるのですけど。
一昔前は、みんなオンラインに行ってしまうのかと想像していたけれど、実際は、時間がかかりすぎたり、「オンラインゲームの世界のルール」みたいなものがけっこう煩わしくて、万人向けというよりは、「好きな人は好き」という範囲にとどまっていますし。
僕はけっこう昔からゲーム業界をファンとして眺めてきたと自負していたので、紹介されているゲームもほとんど知っているのでは、と予想していましたが、読んでみると、知っているのは3分の1くらいでした。
ちなみに、30作の取材結果が収録されているのですが、すべてのゲームに同じだけのページが割かれているわけではなくて、けっこう濃淡があります。
未発表ゲームのシナリオの一部や設定資料集などまで掲載されていて、「好きな人には『お宝』なんだろうな……」と思うものもあれば、『リアルサウンド2』のように、これだけの情報しかないのか……と、少しがっかりしてしまうものもあります。
同じ発売中止でも「ほとんど企画レベル」「なんとか1種類の敵との戦闘シーンがプレイできるくらい」のものから、「あまりにもスケールが大きくなりすぎて、開発不能となってしまった」「ほぼ完成していたのだけれど、売上げが見込めない、などの問題で、世に出なかった」ものもあるのです。
この本を読んでいて思うのは「発売されなかったゲームというのは、なんでこんなにみんな面白そうな気がするのだろう?」ということでした。
テレビゲームの発売前に広告をみたり、レビューを読んだりするのが、学生時代の僕にとっては至福の時間だったなあ。
ああ、『クロス探偵物語』、『1』が面白かったので、『2』を楽しみにしていたんだけど……
プレイステーション2の『電線』とか、発売されていたら、「伝説」になっていたかもしれないのに。
さて、80年代後半、日本のPCは、PC-98やX68000などの国産アーキテクチャの群雄割拠時代だった。そして1989年、富士通が満を持して発売したのが、FM TOWNSである。マルチメディア・ハイパーメディアをキーワードに、CD-ROMを駆使した大容量データと高解像度・多色表示のグラフィック、高品質オーディオを実現した、32ビットネイティブスーパーパソコン!
当時筆者は富士通のFMシリーズ専門誌に籍を置いていたが、毎月登場する新機軸を謳ったソフトの中で一際異彩を放っていたのが、電脳商会の『宴会王』であった。キャッチフレーズは宴会支援ソフト。実際に起動させると、日本神話・天岩戸伝説の宴のアニメーションが表示され、「そもそもの宴会なるもののゆえん……」と、古代から続く日本の宴会の特徴と効用に就いて語られ、最後に「えぇん!かぁい!おぉぉ!」と厳かに絶叫が入るのである。その中には、ビンゴや福引き、宴会の各種口上、風流なBGVと、宴会を支援するツールが収録されている。……馬鹿だ。馬鹿すぎる。その時の印象のあまりにものすごさに、その後続く『宴会王の逆襲』『宴会王Ver.3 地球最大の決戦』まで執拗に追い続ける羽目になってしまったのである。私の人生返してよ! という訳で、今回はシリーズをプロデュースした電脳商会・西澤利治社長にお話を伺った。
この回は2010年取材だそうなのですが、未発売ソフトというより、『宴会王』シリーズの話が主になっていて、著者の思入れが伝わってきます。
僕も一度だけ、この『宴会王』をみたことがあるんですよ。
TOWNSなんて、当時としては超ハイスペックかつ高価なマシンをつかって、こんなことをやる人がいるのか……と唖然としてしまいました。
でも、今のスマートフォンにも、さまざまな「宴会を盛り上げる」あるいは「会話を弾ませる」ようなアプリがありますから、ある意味、時代を先取りしていたのかな、とも思うのです。
また、あの『抜忍伝説』『ラストハルマゲドン』『BURAI』の飯島多紀哉(飯島健男)さんのインタビューも収録されています。
数々の個性的かつ激ムズなゲームを生み出しつつも、ゲーム業界ではいくつもの組織をぶっ壊してきた「クラッシャー」というイメージがある飯島さん。そういえば『ラストハルマゲドン2』はどうなったんだ?というような話にも答えておられます(2007年取材)。
——そして『ラスマゲ』が登場する。
飯島多紀哉:当時でフロッピー5枚組とか、採算とか考えてないですね。オープニングディスクに1枚とか(笑)。前作(『抜忍伝説』)のこともあってショップの評判は悪かったですが、『ポプコム』とか各メディアさんには厚遇していただきましたね。それでも初回の注文は『抜忍伝説』の半分以下の三、四千本でしたけれど。で、発売日がまた某大作ソフトと重なって嫌だなあと(笑)。でも発売日にショップを見に行きましたら、一瞬で完売でしたね。その日の午後から追加注文の電話の嵐でしたけれど、それまで頭下げても「おまえのところの商品なんか売ってうやんねーよ」と言っていたショップが、コロッと態度を変えて来て「おめでとうございます!」「信じてました!」……もうその日一日で私の人生観が変わりましたね。売れりゃなんでもいいんだ、と。
——順風満帆ですね。
飯島:でも、1988年末には社長や周囲と意見の相違があって、辞めてしまいましたけどね。
発売には至らなかった『妖怪変紀行 ラストハルマゲドン外伝』の画面写真も載っていて、「これみたことあるなあ」って。
未発売ゲームには、開発側に技術的な問題、あるいは版権や親会社とのトラブルなどがある場合もあれば、制作側があまりにも理想を追いすぎて、収拾がつかなくなってしまったものも少なくないようです。
「あんなに派手に告知していたのに、ほとんど作ってなかったのかよ!」というものもあれば、「ここまでできていたのにお蔵入りとは、もったいない……」というものもある。
これを読んでいると、面白いゲームというのは、個性的な人々が、こういう「発売できるかできないかギリギリのところ」で、なんとか踏みとどまって、商品にしているのかな、という気もするのです。
かなりマニアックな内容なので、万人におすすめできる本とは言いがたいのですが、ここまで読んで興味を持った方であれば、面白く読めるのではないかと思います。
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