琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】52ヘルツのクジラたち ☆☆☆

52ヘルツのクジラたち (単行本)

52ヘルツのクジラたち (単行本)


Kindle版もあります。

52ヘルツのクジラたち

52ヘルツのクジラたち

内容(「BOOK」データベースより)
52ヘルツのクジラとは―他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラ。たくさんの仲間がいるはずなのに何も届かない、何も届けられない。そのため、世界で一番孤独だと言われている。自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、新たな魂の物語が生まれる―。

 「2021年ひとり本屋大賞」6作品め。

 虐待、難病、性的マイノリティ、閉鎖的な田舎の人々……
 これを「今の時代をうまく切り取っている」と思うか、「いま創作の世界で流行っているものの全部入り幕の内弁当小説」と感じるか。
 すみません、僕は後者でした。

 主人公の境遇は、たしかに「典型的に不幸」なのだけれど、主人公が移住先で出会った被虐待児に対する接し方を読んでいると、「結局、この人も『自分基準』で他者を解釈して、独善的に『守ってあげようとする』だけ」にしか思えなかったのです。

 そもそも、その子を主人公が「52」って呼ぶのがありえない。
 「52ヘルツのクジラ」云々って言うけどさ、ちょっと誰かに向けて「ねえ、52?」って呟いてみてくださいよ。あるいは、誰かから「こんにちは、52」って話しかけられる場面を想像してもらいたい。

 人から番号で呼ばれるのって、囚人かスパイくらいだろ……
 そういう「人間的な感覚」すら虐待された影響で喪われている人、という設定なのだろうか……

 確かに、主人公の境遇、とくに家族からの虐待は読むのがつらいくらいなんですよ。
 でも、だからといって、自分がいくら傷ついているからって、他人を傷つけることが正当化されるわけがない。
 「自分と、自分にとって都合の良い人と、都合の悪い人」がこの作品の世界には存在しているだけの世界。
 なぜか主人公の周りには、彼女を捨て身で守ってくれる人が次から次へと現れる。
 
 僕はこういう人を何人か知っています。
 メンヘラ女性のなかには、不思議な魅力(?)で、自分を守ってくれる人を惹き付けるタイプがいるんですよ。
 「守り手」に手を挙げた人は「自分だけが、この人を助けてあげられる」と勘違いして尽くした挙げ句に、さんざん振り回され、ひどい別れ方をするか、一緒に地獄に堕ちるか。

 そういうのは「女性、とくに若い女性ならではのめんどくささ」があるのかもしれないけれど、『キモくて金のないおっさん』が世間から総スルーされていることは、「小説」にもならないんだよな、と、げんなりしてしまうのです。

 自分が不幸だったら、不倫したり、詐欺をやったりしても良いのか?って話だよね。
 本を読んでいる「第三者」の立場なら、「そういう背景があるならしょうがないよね」って思うかもしれないけれど、不倫の向こうには相手の家族がいるし、詐欺にはお金を奪われた被害者がいる。

 「物語」としては「美しい」けれど、主人公は、これから「52」を過剰に期待させていくだけではないのか?
 主人公は「あなたと私は似ている」という思い込みで、「救い」の押し売りをしているだけではないのか?


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 そもそも、この物語の悪役たちは、あまりにも平板な「どうしようもない人たち」なんですよ。
 そんなに世の中シンプルじゃなくて、世の中の親子関係って、おそらく多かれ少なかれイビツなところはあるし、親子の情は、そう簡単に捨てられないからこそ難しい。

 まったく「毒親成分」が無い親なんて、存在するのだろうか?

 以前、『公募ガイド』か何かで、推理小説の書き方講座を読んだことがあるのです。
 講師は、推理小説にとって大事なのは、「犯人も探偵役もベストを尽くすこと」だと書いていました。
 探偵が歩いていたらいきなり犯人にぶつかったり、致命的な証拠を偶然通りすがりの人にもらったりするような、あるいは、犯人がつまらないミスをしてしまう、という推理小説は、読者を興ざめさせるのです。

 この『52ヘルツのクジラたち』って、読んでいると「物語をドラマチックにする、あるいは読者を『泣かせる』ために、御都合主義でキャラクターが配置されている」のが、とても鼻につくんです。登場人物が、みんな「そのキャラクターを演じている役者」のように感じます。

 正直、最近売れている小説、本屋大賞にノミネートされている小説の「生きづらさ大バーゲンセール」に、僕は飽き飽きしているのです。
 生きづらいのはお互い様だけど、本を売るための不幸競争に付き合わされることに疲れてきた。

 今は、『本屋大賞』で言えば、『村上海賊の娘』みたいな、ギンギンに生きている人の話を読みたい気分です。


fujipon.hatenadiary.com


 オラに元気を分けてくれ!
 生気を吸い取られるような「生きづらさ小説」ばかりで、さすがにもうキツくなってきた。

 自分から買って読んでいる人に、勝手に文句ばっかり言われて、この作品もいい迷惑だということは百も承知なんですけどね……
 

fujipon.hatenablog.com
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蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫)

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