だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人
- 作者: 水谷竹秀
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2017/09/26
- メディア: 単行本
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Kindle版もあります。
だから、居場所が欲しかった。バンコク、コールセンターで働く日本人 (集英社学芸単行本)
- 作者: 水谷竹秀
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2017/11/24
- メディア: Kindle版
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内容紹介
「お電話ありがとうございます。○○社の△△です。ご注文ですか?」陽光溢れる、東南アジアのタイ、バンコク。高層ビルの一角にあるコールセンターでひたすら電話を受ける日本人がいる。非正規労働者、借金苦から夜逃げした者、風俗にハマって妊娠した女、LGBTの男女……。生きづらい日本を離れ、彼らが求めたのは自分の「居場所」。フィリピン在住の開高健ノンフィクション賞作家が現代日本の現実をあぶりだす問題作。【目次】プロローグ/第一章 非正規の「居場所」/第二章 一家夜逃げ/第三章 明暗/第四章 男にハマる女たち/第五章 日陰の存在/エピローグ
英語圏のコールセンターが、人件費が安くて英語に馴染んでいるインドやフィリピンに置かれている、というのは知っていましたし、日本語のコールセンター業務が中国などで行われている、というのも聞いたことがありました。
前者はわからなくもないのだけれど、後者の場合、海外で日本語のクレーム対応までできる人を探すのは、かえって割高ではないのかと疑問だったんですよね。
海外で働きたい(日本を出たい)日本人を、現地基準ではけっこう高めで、かつ、日本で同じ仕事に人を雇うよりも安い賃金で集めることによって、こういう海外でのコールセンター業務が成り立っているのです。
この本の舞台であるタイであれば、日本より物価が安いので、この国で生活したい日本人を安く雇えるんですね。
辺りが刻一刻と薄暗く染まりゆく2013年春先のある夕暮れ時、タイの首都バンコク中心部にある巨大ショッピングモール「ターミナル21」の屋外喫煙所は、どことなく重苦しい空気に包まれていた。
「実は私、今、妊娠しているんです」
30代半ばの青山理沙(仮名)はたばこを手に突っ立ったまま、重い口を開いた。ついさっきまで冗談半分に話していた時の笑顔は跡形もなく消え、凍り付くような緊張感が漂っていた。最近飲酒を止めたというので、理由を尋ねたところ、そんな唐突な答えが返ってきたのだ。しかも、お腹の子供の父親は、東南アジアのある国からタイへ出稼ぎにきた買春相手の男性という。
「何を聞いても驚きませんよ」
とあらかじめ伝えてはいたものの、彼女が発した言葉に「ほぉー」と反応したきり、内心では動揺していた。アジアで働く日本の若者たちをテーマに取材を続けていた私はこの数時間前、20代の起業家から「世界一の会社を作りたいですね!」と未来に懸ける熱い想いを聞かされていただけに、そのギャップを自分の中でうまく咀嚼できなかった。
話を聞いていくうちに、彼女と同じ職場の一部女性たちも”男を買っている”ことが分かった。
その職場とはコールセンターのことである。
時給1000円を軽く超えるため、日本では高時給の仕事だと認識する向きもあるようだが、ここで言う職場は日本ではなくタイの首都バンコクだ。コールセンターは東京に本社を置く日本企業のもので、働いている日本人は日本語で電話に応対し、業務内容も日本のコールセンターとさほど変わらない。その中に、青山以外にもゴーゴーボーイに通う日本人女性が潜んでいるというのだ。
コールセンターで働く日本人について、青山はこう説明する。
「働いている人は30代が中心で、ぱっと見はオジサンが多いです。学生の時、クラスに必ず一人か二人は変な子がいたじゃないですか? コールセンターはそれが全員集合したみたいな職場です。どこか一般常識が欠落したような人が多いですね。自分も含めてかもしれないですけど、真っ当に生きていける人っていうのが少ないんだろうなって。日本社会に適応して、出世するとか、家庭を持つとか、そういうレールに何の疑問も持たず、すいすい世の中を渡っていける人はここにいないなっていう感じがしますね。そんな環境に私も居心地の好さを感じているのかな」
この言葉どおりに受け取るとすれば、バンコクにあるコールセンターという職場には、日本社会のメインストリームから外れた、もう若くはない大人たちが集まっているということになる。バンコクへ渡った段階で「人生の落伍者」というレッテルを貼られてしまった人たちが、一つの職場にまとまって存在しているということなのだろうか。
そうは言うけどさ、レールに乗っているように見える人間たちだって、みんなすいすい渡っていけるわけじゃなくて、必死にレールにしがみついてるんだよ……と思いながら、僕はこの本を読んでいたのです。
日本人男性が東南アジアからの出稼ぎの女性と付き合って、さんざん貢がされた挙句に、金の切れ目が縁の切れ目になってしまう事例はたくさんあるわけで。
もちろん、うまくいくことだってあるので、こういう僕のイメージは偏見なのかもしれませんが。
この本を読んでいると「一度たがが外れてしまったら、男も女も『やること』は一緒なのではないか、あるいは、男女に限らず、『そういう人』はいるのだな」という気がしてきます。
その「男女平等」が喜ばしいことかどうかはさておき。
現地との経済格差を利用して、「買っている」わけですし。
でも、僕も40代になってあらためて考えてみると、いろんな常識とか羞恥心に縛られて、自分の欲望を抑えて生きても、結局何も良いことなんて無いのかもしれない、という気がしてくるのです。
いい学校に入るために勉強し、いい会社に入るために就職活動をし、出世するために休みもとらずに働き、老後のために貯金し、そうこうしているうちに親の介護だ子供のお受験だのと「義務」が増え、ようやく落ち着いたと思ったら、もう自分が介護される側だった……
「後でラクをするために、今、苦しんでおこう」とは言っても、墓の中でラクしてどうするんだろう……
この本を読むと、バンコクのコールセンターには、「日本で周りとうまくやれなかった」という人たちが多く、海外で時間を守ってきちんと働き、向上心を持って勉学に励む」というタイプの人は少ないようです。
電話での受け答えなので、服装はほとんど自由。
勤務時間はけっこう融通が利き、残業もない。
「生来の日本語話者であれば、マニュアルどおりにやれば特別なスキルは要らない仕事」なのですが、その一方で、この仕事を続けても、先行きが明るくなるような資格やスキルにはつながりません。
現地の日本企業の駐在員たちからは「同じ日本人でも、ダメな人たち」と蔑まれることも多いそうです。
タイには、現在約67000人の邦人が在留していて、日本からの正社員(駐在員)の平均年収は約1000万円だそうです。現地採用者の給与は駐在員の5分の1から2分の1程度。
さらには現地採用者の中でもヒエラルキーが存在する。
商社や人材紹介会社、不動産や製造業、フリーペーパーなどで働く場合、研修期間は別にして給与は原則、タイの労働省が定める日本人の最低賃金、月額5万バーツからのスタートになる。ところがコールセンターの場合、3万バーツからと最低賃金を下回っている。その理由は、コールセンターという業種がBOIから事業認可を受けて投資症例恩典が付与されているためで、この場合は最低賃金が適用されない。故に賃金が最低ラインより低めに設定され、企業にとってはこれが人件費の削減につながっているのだ。たとえば、日本の通販業者が電話応対業務をバンコクのコールセンターに外注することで、経費を従来の3分の2程度に削減できるという。
この待遇格差に関する情報は在留邦人社会では周知の事実となっているため、「コールセンターで働く」=「月給3万バーツ」と自動的に格付けされがちだ。とはいえ、3万バーツという月収をどう判断するかは微妙なところだろう。タイの物価が日本の3分の1〜5分の1程度であることを考慮すれば、日本で月収15〜20万円ほどを受け取っている金銭感覚と変わらないような気がする。
食事や生活必需品を極力節約して、夜遊びや趣味にお金を使う、という人も多いようです。
駐在員のように、日本食レストランに通うことなんてできません。
そして、周囲の日本人社会のなかでは、「コールセンターで働いている日本人」は、「ダメな連中」だと見なされている。
そういう立場になることは、けっして気分の良いものではないと思う。
ただ、それが金で買った一時的な快楽なのだとしても、愚かな浪費だとも言い切れない。
日本で真面目に働いていても、ただ、ジリジリと追い詰められていくだけで、そんな「一時の喜び」すら味わえないのかもしれないな、と僕は怖くなるのです。
だからといって、今さらタイで遊び呆けよう、とも思いませんが。
「真面目」というよりは、そういう人間に生まれついてしまっただけ……なのだろうか、それとも、僕も何かきっかけがあれば、タイで夜遊びにハマっていてもおかしくないのかな。
こんな自堕落な生き方で、買春相手の子供を妊娠するなんて!
そう蔑むのは簡単だし、日本から性欲を輸出するなよ!とも思うのですが、これもまた「愚行権」ってやつではありますよね。
自分のお金でとことん遊んで、お金がなくなったら野垂れ死にするというのも、ひとつの「人生」ではありますし、誰かが「遊ばずに真面目に日本で働け」なんていっても、それがイヤだからタイに住み着いてしまったのだし。
それは29歳の秋だった。
一緒に行った友人が先に日本へ帰国した後のこと。フリーペーパーに掲載されていた女性向けのホストクラブに好奇心をそそられ、試しに行ってみたのがすべての始まりだった。
「今までのタイ人のイメージがコロッと変わりました。待ち合わせに指定された駅に行くと、王子様みたいな男性が迎えに来たんですよ!」
そう語る藤原の目が輝いた。
「王子様」は背が高く、浅黒い肌に日本人に比べて彫りの深い顔立ち。真っ白いYシャツにネクタイを締め、この段階ですでに藤原の心は相手に釘付けになってしまった。
「すんごいかっこよかったんですよ。それから毎日通いました。私も暇で一人だったし。お金を5000バーツ払うだけで、あんなかっこいい人と一緒に飲めちゃうんですよ。簡単じゃないですか! 日本よりも安くて、夢のような話ですよ! 手っ取り早くていいなって。金で解決!」
正直、なんだこれは……と思うのだけれど、この人に説教できるほど僕も素晴らしい人生をおくっているわけではないし。
誰が困るのか、と言われたら、本人がお金を使い果たして困窮するリスクが高いだけの話です。
読んでいると、自分の価値観が揺さぶられる本ではあるのです。
こうやって、いろんなものの「捌け口」まで外国にアウトソーシングするのが「グローバル化」なのだろうか……
fujipon.hatenadiary.com
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日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」 (集英社文庫)
- 作者: 水谷竹秀
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2014/06/26
- メディア: Kindle版
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- 作者: 水谷竹秀
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2015/11/06
- メディア: Kindle版
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