琥珀色の戯言

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【読書感想】革命のファンファーレ 現代のお金と広告 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
クラウドファンディングで国内歴代最高となる総額1億円を個人で調達し、絵本『えんとつ町のプペル』を作り、30万部突破のメガヒットへと導いた天才クリエイターが語る、"現代のお金の作り方と使い方"と最強の広告戦略、そして、これからの時代の働き方。


 幻冬舎電子書籍がセールで安くなっていたので購入。
 僕は西野亮廣さんのファンじゃない、というか、むしろ、西野さんのスタンドプレイや炎上商法を苦々しく見ている側のオッサンなわけです。
 でも、この本を読んでみると、西野さんの言っていることや、やっていることって、ちゃんと計算されていて、全然おかしくはないよなあ、と納得せざるをえないのです。
 もちろん、西野さんだからできるんじゃないか、とは思いますし、結局、こういうことは善悪じゃなくて、徹底してやれる人なのかどうかに尽きるのかもしれませんね。
 「炎上芸人」なんてひとくくりにされがちだけれど、西野さんの場合には、そこにちゃんと作品があって、顧客の満足度も高い。
 「その気」にさせて、金融商品情報商材を売りつけたり、「勇気を出せ」で終わってしまうだけのオンラインサロンをやっている人たちとは一線を画しているのです。

 スマホ登場前後で時代は明らかに変わったのに、以前の方法論のままテレビに出続けるということは、嘘を重ねなければならない場面に出くわしてしまうということ。嘘を重ねれば、当然、信用は離れていく。
 そのタレントが辿り着く場所は「人気タレント」ではなく、「認知タレント」だ。
 お金を払ってくれる人を「ファン」とするのなら、人気タレントにはファンがいるが、認知タレントにはファンがいない。信用がないからだ。


 ベッキーゲスの極み乙女。が例として分かりやすい。
 不倫をしても活動を続けることができたゲスの極み乙女。に対して、ベッキーの活動が、たった一度の不倫で全て止まった理由は、彼女が「認知タレント」で、ファンを抱えていなかったからに他ならない。
 スポンサーが離れ、広告以外の場所でお金を稼ぐしかなくなったわけだが、ファン(ダイレクト課金者)がいないからお金を生み出すことができない。
 テレビタレントとしてリクエストに徹底的に応え続けた結果だ。
 現代のテレビ広告ビジネスの、最大の落とし穴だと思う。


 先日、とある番組のクラウドファンディングの特集で取材に来られたディレクターさんが「なんで、西野さんはクラウドファンディングで高額が集まるんですか?」と訊いてこられたので、「信用があるからじゃないですか?」とお返ししたら、「そんなに好感度が低いのに?(笑)」と返ってきた。アホをこじらせて来春まで寝込めばいい。
『好感度』と『信用』、『認知』と『人気』は、それぞれまったく別物だ。


 ベッキーさんに関しては、「女性が不倫をすることへの世間の風当たりの強さ」というのはあったと思うんですよ。致命的だったのは、その後に流失した「センテンススプリング!」だったのでしょうけど。
 観客は、自分たちが軽んじられている、だまされている、ということに敏感なのです。

 タレントとして信用を勝ち取る為に、まずは「嘘をつかない」ということを徹底した。 
 仕事だからといって、マズイ飯を「美味い」とは言わない。
 それが、「美味い」と言わなければならない現場だとしたら、そもそも、そんな仕事を受けない。
 昔、グルメ番組に出演した時に、釣りたての魚を漁師さんが船上でさばいてくださって、他のタレントは「新鮮で美味し~い」と食べていたが、シンプルにマズかった。あと、まな板が汚かった。
 やっぱり魚は1~2日置いた方が美味しい。


 ただ、タレントは、この場面で「マズイ」とは言えない。
 言ったところでカットだ。
 テレビに出るからには「新鮮で美味し~い」と言わなければならないのだが、その頃、ツイッターのタイムラインには「あれは嘘だよ。魚は1~2日置いた方が美味しいよ」というコメントが流れている。テレビに出演しながら、一方で、そのタイムラインを見た人達からの信用を失っているのだ。
 タレントは嘘をつかざるをえない環境に身を投じ、信用を失ってしまうわけだ。
 嘘は「感情」でつくのではない。我々は「環境」によって嘘をつかされる。
 以上の理由から、僕は、嘘をつかざるをえない環境にあるグルメ番組のオファーは全てお断りするようにした。
「美味い」という言葉を避けて、上手に食レポをする能力があれば話は別だが、僕にはそんな能力はないので、グルメ番組は全てお断り。


 「我々は『環境』によって嘘をつかされる」
 嘘をつきたくてついている人なんて、ほとんどいないんですよね。
 でも、「生活のためにお金を稼がなくては」「この場の雰囲気を悪くしては申し訳ないから」と、多くの人が嘘をつく。
 西野さんの立場であれば、ちょっとした嘘をつくことによって成り立つ仕事で稼ぐ機会はたくさんあったはずです。でも、そこで自分のやり方を貫くことができたから、今の「嘘をつかなくてもいい場所」に立つことができた。いや、生きていれば、それなりの嘘とか我慢は西野さんだって皆無ではないと思うけれど。
 「目先の利益の誘惑に負けない」というのは、けっこう難しいことではありますよね。
 とくに生活に困っていたり、お金を必要としている場合には。
 そこが、勝負の分かれ目なのだと僕は感じました。

 こういったことだけを切り取ると、「西野って、大御所にもまるでひるまないなぁ。勇気があるなぁ」となるんだけど、その実、大御所に自分の意見をぶつけたら収入(オンラインサロンの会員)が増えることが分かっているから言えるという部分もある。
 僕があなたよりも勇気があるわけではなくて、僕があなたよりも意見しやすい環境にあるという話。
 オンラインサロンという環境があるから、自分の意思を表明することができて、自分の意思を表明すれば、オンラインサロンの会員が増え、さらに意思を表明しやすくなる。
 僕はスポンサーさんからお金をいただく広告ビジネス(好感度ビジネス)を早々に放棄して、このループに入っている。
 つまり、嘘をつかなくても良い環境になっているので、そもそも「嘘をつく」という選択肢がない。ダイレクト課金をしてくださる方々が離れてしまう。“選択肢”をとるメリットが僕には一つもない。
 意思決定は、頭や心ではなく、環境がおこなっている。


 西野さんのすごいところは、こういう「環境づくり」に有名人のなかでいちはやく着目し、批判にさらされても妥協せずにシステムを構築したところなのだと思います。
 『えんとつ町のプペル』の制作のためのクラウドファンディングにしても、「お金を集める」だけではなく、多くの人を協力者として巻き込むことによって、売上の初動を確保し、世間の認知度や話題性を高める、という効果を狙っていたそうです。
 話題になった、WEBでの無料公開についても、勝算があっての戦略でした。

 年に2度。仕事をお休みして『デザインフェスタ』というイベントに参加している。
 ブースを買って、そこで自分の作品を販売しているのだ。設営も撤収も接客も全て僕一人。
 お釣りがなくなったら、近所のコンビニに走ったりもする。


 目的は販売の勉強で、
「どのように商品を並べれば、より売れるのか?」
「売り上げを伸ばすには、商品を何パターン用意するのが一番良いのか?」
 こまめにブースのセッティングを変え、そういった実験を繰り返している。


 ちなみに、『えんとつ町のプペル』のポストカードで実験してみたところ、商品棚に並べる点数によって売り上げは大きく変わり、「1点」の時と、「3点」の時と、「10点」の時とでは、「3点」の時が一番売れる。
 近くで見ていると、お客さんの心理が手に取るように分かる。


 この本を読んでいると、「炎上芸人」だと僕がレッテルを貼っていた西野亮廣さんは、自分自身というキャラクターを使って、社会実験を行っている研究者のようにみえてきたのです。
 リスクもあるし、すべてが成功しているわけでもない。
 それでも「新しいことには、失敗がつきもので、それを次に活かせばいい」と達観している。


 誰にでも真似できる生き方ではないと思います。
 断片的に触れられている西野さんの日常って、ワーカホリックというか、ストイックに努力しつづけているのが伝わってくるから。
 好悪の感情はさておき、今、何か「ものをつくる」仕事をやろうとしている人は、避けては通れないことが書いてあります。
 西野さんを嫌っている人ほど、読んでみたほうがいいですよ、この本。


えんとつ町のプペル

えんとつ町のプペル

魔法のコンパス 道なき道の歩き方

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