琥珀色の戯言

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【読書感想】11文字の檻: 青崎有吾短編集成 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

なんと、『体育館の殺人』の衝撃から10年!
平成のエラリー・クイーンは、短編もここまですごかった
本格ミステリ、SF、人気コミックのトリビュートまで、全8編
傑作「11文字の檻」(書き下ろし)収録

大事件に遭遇したカメラマンが感じた違和感を描く「加速していく」、全面ガラス張りの特異な屋敷での不可能殺人の顛末「噤ヶ森の硝子屋敷」、人気コミックのノベライズ「前髪は空を向いている」、どんでん返しの切れ味鋭い「your name」、百合小説として評判となった「恋澤姉妹」などに、力作書き下ろし「11文字の檻」を加えた全8編。『体育館の殺人』で衝撃のデビューから10年、著者の集大成ともいえるノンシリーズ短編集。

■目次
「加速してゆく」
「噤ヶ森(つぐみがもり)の硝子(ガラス)屋敷」
「前髪は空を向いている」
「your name」
「飽くまで」
「クレープまでは終わらせない」
「恋澤姉妹」
「11文字の檻」


 「このミステリーがすごい!2024年版」で12位に入っているのをみて、「文庫で読めるそんなに長くない国内ミステリを読みたいなあ」という気分だったので購入。
 そうか、『体育館の殺人』から10年なのか(正確には11年)と思いつつ。

 この短編集(といっても、100ページを超える表題作『11文字の檻』から、3ページで終わってしまう『your name』まで、けっこう長さにばらつきがあります)、「青崎有吾さんの作品」ということを除いては、作品の内容も完成度も書かれた状況もまちまちです。
 正直、「何これ?これで終わり?」あるいは「なぜこの題材を書くのに、あの事件を『利用』しなければならなかったのか?」など、置いてけぼりにされたり、すっきりしなかったりする作品もありました。

 僕は『恋澤姉妹』が収録作のなかではいちばん読んでいて楽しくて、これ、いったいどうなるんだろう、と思っていたのです。
 世界観でものすごく期待してしまった割には、そうか、こんな感じで終わってしまうのか、いや、こんな感じで終わればこそ、の作品で、意味とか理由とかにこだわらないところが持ち味なんだよなあ、とか、いろいろ考えてしまいました。

 ちなみにこの短編集、最後に「著者による各話解説」がついています。
 読者サービスであるのと同時に、それぞれの作品が書かれた背景について説明しておかないと、僕のように、青崎さんの熱心な読者ではなく、今回この本を手に取った人には、「何このやおい(古い言葉で、「ヤマなし、オチなし、イミなし)短編小説」と思われる可能性がある、と危惧されたのではないかと思うのです。
 そんな作品が半分くらいを占めている「短編集」を「雑然としていてわけがわからない」と感じるか、「それぞれの短編がうまく最後に繋がるタイプの『ブランチ本』のフォーマットを裏切るようで新鮮」と捉えるかは、人それぞれ。僕としては、『恋澤姉妹』と『11文字の檻』を読めただけで十分、ではあったのですが。
 逆にいえば、書き下ろしの『11文字の檻』が無かったら、「何これ」で終わっていたと思います。
 本のオビでも、みんな『11文字の檻』の話ばかりしていますし。

 この『11文字の檻』なのですが、序盤はけっこう約束事が多いし、空間もイメージしづらくて、入り込みにくい小説だと思ったのです。
 ところが、読んでいくうちに、かなりハマっていくのと同時に、こんなの、どうやってクリアするんだ?とも考え込んでしまいました。
 最後まで読んで、なるほど!が8割、こんなにうまくいくものだろうか、が2割。僕は『カイジ』を読むたびに、「しかし、『帝愛』の連中って、ムチャクチャやる割にはちゃんと約束は守るよなあ、カイジたちを闇に葬って、なかったことにしないのは律儀だよなあ」と言いたくなる性質なので。
 『11文字の檻』は、漫画『DEATH NOTE』が好きな人なら、ワクワクしながら読めると思います。


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