琥珀色の戯言

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【読書感想】長期政権のあと ☆☆☆

長期政権のあと (祥伝社新書)

長期政権のあと (祥伝社新書)

憲政史上、最長となった安倍政権(首相在職日数は二〇二〇年七月三十一日時点で三一四一日)。なぜ、安倍政権は長期政権となったのか。そして、長期政権のあとにはどのような事態が出来するのかー。権力の生理を知悉する佐藤優元外務省主任分析官と現代日本政治論を専門とする山口二郎法政大学教授が、歴史から読み解いていく。見えてきたのは、グローバル資本主義の限界と民主主義の行き詰まり、日本社会の変質と衰弱である。日本はどう変わっていくのか。われわれが迫られる選択とはいかなるものか。近未来ヘの提言・処方箋を擁した警世の書。


 作家、元外務省主任分析官の佐藤優さんと、法政大学法学部教授で行政学現代日本政治論が専門の山口二郎さんによる往復書簡のような本です。コロナ禍のため、通常の「対談本」をつくるのが難しかったため、こういう形式になったのかもしれません。

 テーマは、「(第2次)安倍政権が、長期政権になることができたのか?」の分析と、今後の課題について、なのですが、僕はこの本のタイトルをみたとき、世界史における「長期政権」と、その後に起こったことを具体的に挙げ、今後の日本を予測する、という内容だと思ったんですよ。

 しかしながら、内容的には「これまでの日本とイギリス、アメリカの『第二次世界大戦後の政治の動き』、とくに、民主主義と資本主義の衝突に対して、各国ではどのような選択をしてきたのか」に多くのページが割かれているという印象でした。

 タイトルをみると「予言の書」みたいな感じなのですが、お二人がやりとりをして、この本が上梓されたのは「安倍政権は厳しい状況下にはあるけれど、あのような形で安倍首相が体調不良を理由に辞任すると予想していた人は誰もいなかったであろう時期」です。

 山口さんは、戦後の日本での長期政権について、このように仰っています。

 安倍首相以外にも、戦後日本には吉田茂(1946~1947、1948~1954年)、佐藤栄作(1964~1972年)、中曽根康弘(1982~1987年)、小泉純一郎(2001~2006年)などの長期政権が誕生しました。これらには政権が持続した共通の条件が存続しますが(後述)、安倍政権はきわめて異質な特徴があります。
 それは、「過度な権力集中」です。安倍政権を支える権力基盤は、「安倍一強」と呼ばれる「官邸主導体制」にあります。
 コロナ禍への対応でも、その構図が明白に表れています。一斉休校も、緊急事態宣言を出して私権を一定の範囲で制限できる新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正も、腹心の今井尚哉内閣総理大臣秘書官内閣総理大臣補佐官の進言とされています。また、不評で取り止めみなった減収世帯への30万円給付案も、官邸内から上がりました。
 そして「経済対策はすべて首相官邸内の一部で決めて、党に知らされるのは後。それでいいんですか」と、連立を組む公明党からも批判されています(「朝日新聞デジタル」2020年4月24日)。

 戦後日本の長期政権は先に挙げたように、吉田・佐藤・中曽根・小泉・安倍と5例があります。この5政権から、権力持続の条件が浮かび上がってきます。その条件は「対米追随」「経済成長と国民生活の向上」「リーダーの課題挑戦」の3つです。ここまで考察してきた安倍政権の過度な権力集中は、他の長期政権にない特徴的な要素なのです。


 僕は吉田茂さんや佐藤栄作さんの時代は、まだ生まれていなかったり、物心がついていなかったり、なのでよくわからないのです。
 中曽根さんに関しては、就任時から「田中角栄さんの影響力の強さ」がしばしば指摘されていて、あんなに長く中曽根さんが首相の地位にとどまり、自民党のレジェンドになってしまうとは思いませんでした。
 小泉さんも、政治家仲間や官僚に自分の手下を集めて権力基盤をつくっていた、というより、とにかく、国民的な人気に支えられていた、という印象が強いのです。小泉さんが「推して」いた田中真紀子さんの当時の行状について周囲の証言や、小泉改革が日本の「格差」を拡大していったことを考えると、あの熱狂はいったい何だったのだろう?と今になると考え込まずにはいられません。

 ここで山口さんが挙げられている「3つの条件」をみると、戦後の日本にとっては、「アメリカと仲良くできるかどうかが大事」だったのだなあ、と思い知らされます。

 ちなみに、佐藤優さんは「(株高+円安)×対米追随」が長期政権の方程式だと仰っています。
 景気が良くて、アメリカと仲良しであれば、日本人はけっこう幸せなのです。
 しかし、これを両立するというのも、そんなに簡単なことじゃない。


 佐藤優さんは、安倍さんの健康問題が取り沙汰される前の時点で、こんな状況分析をされています。

2020年 5月下旬、安倍内閣の支持率が毎日新聞で27%、朝日新聞で29%になりました。内閣支持率が30%を切ると危険水域に入るので、安倍政権はもう長くないという見方もありますが、そう決めつけるのは早計と思います。
 野党の現状を見ると、政権交代の可能性は低い。自民党だと岸田文雄さんと石破茂さんが有力候補ですが、二人とも自民党内の権力基盤は強くない。しかも、岸田さんや石破さんに心酔している官僚もほとんどいない。さらに、安倍政権と検察の関係が緊張している。安倍政権後、石破さんが首相になれば、検察は安倍さんに近い官僚や政治家を狙い撃ちにする可能性がある。
 こういうことを考えると、安倍首相は権力に固執すると、私は見ています。


 結局、持病の再燃で、安倍首相は辞任を決意したのですが、安倍さんの側近たちにとっては、次が石破さんになっては困る、ということなのかもしれませんね。

 菅義偉官房長官自民党総裁選への出馬は、僕にとっては意外だったのです。
 菅さんって、参謀タイプで、自分がトップに立ちたがっているようには見えなかったので。年齢的にも、もう70歳をこえておられますし。
 でも、こういう「裏事情」みたいなものを考えると、「安倍一強下での権力者たちが、身を守るための選択肢」が、菅さんの首相就任だったのかな、とも思えてくるのです。
 まあ、あまり鵜呑みにしすぎてはいけない話だよなあ、とも思いつつ。


 山口さんは、イギリスのサッチャー政権を題材にして「長期政権が生まれる理由」を述べています。

 では、サッチャー政権はなぜ11年も続き、長期政権となったのか。
 実は、長期政権はそれ自体の強みと、対抗する側の弱みの二つが重なって長期化します。サッチャー政権の強みとは、イギリスを立て直すために市場原理、あるいは欲望を梃子(てこ)に経済を活性化していく路線が必要とされた、という評価です。
 いっぽう、サッチャーに対抗する側の弱みとは、前述のように労働党労働組合が戦闘的な労働運動に傾斜して、国民の支持を失い、分裂したことです。労働党の分裂が、サッチャー政権の長期化をもたらしたわけです。
 この構図は、現在の日本の状況にそのままあてはまります。旧民主党勢力の分裂による弱体化が、安倍政権を一強にさせているのです。


 第二次安倍政権が、なぜこんなに長く続いたのか、というのを考えると、この「対抗勢力の弱体化」は大きな要因だったと思います。


 山口さんは、こんな話もされています。

 安倍政権の支持理由でもっとも多いのが「他に代わりがいないから」ですが、この「秩序維持」も無意識・無自覚の支持理由としてあるのではないでしょうか。代わりがないと人々が思うから別の選択肢が育たず、別の選択肢が見えないから代わりがないという呪縛がさらに強まる。これはトートロジー(同語反復)になりますが、安倍政権は長期政権であることによって、さらに長期政権になっています。
 民主党政権には3・11の恐怖が貼りついていて、思い出したくない。また、小泉政権以後の自民党政権の3年間は、私に言わせれば「悪夢の時代」だったのですが、有権者の記憶は薄れかけている。すると、安倍さん以外に首相がいないという結論になるわけです。


 小泉さんが首相の任期を全うして退任されたあと、安倍晋三さん(第1次)、福田康夫さん、麻生太郎さんと、1年ずつの短命政権が続きました。そして、民主党への政権交代が起こったのです。

 歴史でいえば、中国では漢の武帝や清の乾隆帝など、帝国の全盛期に長い期間君臨した皇帝や、徳川幕府で最長の将軍在位だった徳川家斉が退場したあとに、これらの帝国や幕府は急速に衰退・瓦解していくのです。
 もちろん、異民族の侵入や世界情勢の変化という要因もあるにせよ、長期政権のあとには、その反動がみられるのが歴史の必然なんですよね。「権力は腐敗する」という言葉があるように、どんな有能な為政者でも、長い間その座にいると、どうしても政治に飽きたり、特定のお気に入りの家臣を優遇したり、後継者争いが起こったりします。「偉業」にはコストがかかるし、権力が強くなるほど、周りも「忖度」してしまう。

 「安倍政権のあと」に何が起こるのか、不安でもあり、ちょっと楽しみでもあるのです。
 とりあえず、どんな権力者がいなくなっても、世界はこうして続いてきたわけですし。


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漢の武帝 (岩波新書)

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