琥珀色の戯言

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【読書感想】本人に訊く 弐 おまたせ激突篇 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
「これは傑作だよ」「逆にこわいな」
『南国かつおまぐろ旅』(’94年)から『大漁旗ぶるぶる乱風編 にっぽん・海風魚旅4』('05年)まで89作品の裏事情を訊く!

作家・椎名誠の裏も表もナナメも知りつくした文芸評論家の目黒考二が「取り調べ官」となって、創作の裏事情に迫る第2弾。1994年から2005年発表の89作品をみっちり検証。「新宿赤マント」「あやしい探検隊」などの大人気シリーズを抱えながら、映画制作や写真家としても腕をふるった時期の爆笑エピソードがいっぱい。シーナワールドの魅力を網羅した、読めば「読みたくなる」対談集。写真も満載。


 <壱>が面白かったので、文庫で<弐>が出るのを楽しみにしていました。

fujipon.hatenadiary.com


 椎名誠さんが、これまでの全著作を長年の盟友である目黒考二さんとの対談形式で振り返る、というシリーズの第二弾で、今回は、『南国かつおまぐろ旅』(’94年)から『大漁旗ぶるぶる乱風編 にっぽん・海風魚旅4』('05年)まで89作品について語られています。
 
 有名作家と有名書評家が、これほどざっくばらんに作品について語り合う、ということは、この二人以外にはまずありえないと思われます。

 今回は、1994年から2005年ということで、僕にとっては椎名さんの本をいちばんリアルタイムで読んでいた時期でもあり、『本の雑誌』も愛読していたので、ああ、これ読んだなあ!っていう本もけっこうありました。
 この<弐>は、最初の『南国かつおまぐろ旅』が、こんなふうに始まります。

目黒考二週刊文春に連載していた「赤マント」シリーズの第四弾ですね。これはすごいよ。なんといっても「クソまみれの人生」っていう回が白眉だね。


椎名誠なんだっけ?


目黒:新宿で酒を飲んで地下鉄に乗り、荻窪で中央線に乗り換えて、その次にこうある。「二駅すぎたあたりで最初のおしらせが脳髄のどこかに軽くチクンときた。しかしそれはその時すでに相当にすすんでいたであろう事態の深刻さに較べると信じ難い程の軽いぼんやりした情報伝達でしかなかったのだ」
 ようするに腹の調子が悪くなったんだね。食い合わせでも悪かったのかなあ。


椎名:ああ、あのときな(笑)。


 ネット時代になって、「大人が漏らした話」というのはけっこう目にするようになった気がします。
 でも、1990年代前半に、有名作家がこんな話を週刊誌の連載エッセイでするというのは、けっこう衝撃的だったのです。
 そのわりには、椎名さん本人は、目黒さんに指摘されるまで、その話を書いたことを忘れていたみたいなのですが。


 『でか足国探検記』の回より。

目黒:パタゴニア旅行記だけど、『シベリア追跡』と同じ手法だね。つまり、現在の旅が中心で、そこに資料を繙(ひもと)いてさまざまなことが挿入されていく。だから、『シベリア追跡』が面白かったように、これも面白い。


椎名:なるほどな。


目黒:何度も言うように「あやしい探検隊」のシリーズは、今から読むとあまり感想がないことが多いけど(笑)、こちらのシリーズと言っていいのかな、『シベリア追跡』とか、この『でか足国探検記』は後から読んでも実に面白い。もしかすると、椎名誠のいちばんいい仕事なのかも、という気さえする。というのは、椎名の美点がつまっているような気がするんだよ。


椎名:どういうこと?


目黒:こういう旅エッセイの中心には、行動派の椎名がいるよね。ずんずん前に進んでいく好奇心がまずある。そして同時に、『シベリア追跡』や『でか足国探検記』には本好きの顔もうかがうことができる。つまり椎名の美点がつまっているような気がするんだ。


椎名:ふーん。


 椎名誠さんの作品には、『岳物語』『哀愁の町に霧が降るのだ』をはじめとする私小説的なものや『パタゴニア』などの旅行記、『赤マント』シリーズのようなエッセイ、『怪しい探検隊』など、さまざまなジャンルのものがあるのですが、この本を読むと、目黒さんは、「読書家、書評家としての椎名誠の仕事」をかなり高く評価しているのことがわかります。


『絵本たんけん隊』という、椎名さんが1993年から96年まで表参道の東京ユニオン教会で行った絵本の講演録をもとにした本を目黒さんは絶賛しているのです。

目黒:普通の講演ならレジュメなんて作ったことがないでしょ、あなたは。でもこれはそういうわけにはいかない。でもね、それだけなら、真面目に講演やりましたね、ということで特に珍しいわけではない。いちばんは、これが椎名でなければできない紹介だということだよ。


椎名:どういうこと?


目黒:たとえば「どこにでもすめるよ」という回では、こういうテーマの立て方もいいよね。『アリジゴクのひみつ』という本から、『パパーニンの北極漂流日記』、『砂のすきまの生き物たち』という本をどんどん紹介していって、地球上のあらゆる生物の分類を書いた『五つの王国』というほぼ専門書まで紹介してから絵本の紹介に移っていく。つまり、おそろしく幅が広い。絵本だけを語る書ではないということ。これがいちばん大きい。


椎名:なるほど。


目黒:すごいのは、「小さなだいじなはこのなか」という回で、トイレとかうんちの話なんだけど、ここでは椎名が馬に乗って川原を一列縦隊で走ったときの体験譚が語られる。椎名の目の前を走っていた馬がどんどん大きくなっていくのが見えたと思ったら、ぽーんと発射されて、後ろいた椎名が糞まみれになったという体験談。


椎名:あれはひどかったなあ。


目黒:つまりね、生物の専門書からSF、探検記、さらには旅の体験譚まで、椎名でなければ紹介できない幅の広さがここにはある。すごいよこれ。


椎名:もっとホメてね(笑)。


目黒:だから、子どもとかお母さんにだけ読ませるのはもったいない。絵本の好きな人なら性別年齢を問わず、読んでほしい。あらゆる人にすすめたい好著だと思う。あのさ、椎名はいままでたくさんの本を書いてきたけど、これがベスト1かもしれない。


椎名:そこまで言うかあ(笑)。


 この『絵本たんけん隊』、僕は完全にノーマークというか、こんな本が出ていたことすら知りませんでした。いや、もし当時知っていても、手に取ることすらなかったと思います。
 あらためて指摘されてみると、冒険・探検を自ら行い、その実体験をまじえることができ、これだけさまざまなジャンルの本にも通じている人というのは、椎名さんくらいしかいないですよね。
 上梓されてから時間が経って読んでみると、「とくに感想はない」で一蹴されてしまう作品もあるのですが、この『絵本たんけん隊』のように、あらためてその価値がわかるようになるものも存在しているのです。
 もちろん、「時代を映した」作品にも、大きな価値はあるのですが。


 この<弐>では、椎名さんの写真に関する仕事がかなり増えていて、写真集、あるいは、写真に文章を添えた「写文集」も多く紹介されています。167ページに収められている椎名さんの写真について。

目黒:この『ジープ焚き火旅』の58ページの写真を見てよ。椎名が大きなザックを担いで、港に立って笑っている写真。「隊長シーナ。島旅の『基本第一体型』」とキャプションがついている写真だけど、この頃の探検隊を象徴する写真だと思う。隊長も大きなザックを担ぐとそして本当に楽しそうに笑っているんだ。椎名の青春が、そして探検隊の青春がこの一枚の写真の中にあると思う。


 この文庫を手にとる機会があったら、ぜひ見ていただきたいのですが、本当に良い写真なんですよ。ああ、これぞ僕が憧れた椎名誠!って感じの。
 インドア系だけど、椎名さんの旅や「怪しい探検隊」の話を読むのは好きだった僕の青春も、この一枚の写真の中にあるような気がしました。

 ちなみに、この『本人に訊く』は、全四巻の構成だそうなので、まだあと2冊分あるんですね。これから、まだあと1冊分くらい椎名さんの作品は増えそうですが。


fujipon.hatenablog.com

絵本たんけん隊 (角川文庫)

絵本たんけん隊 (角川文庫)

でか足国探検記 (新潮文庫)

でか足国探検記 (新潮文庫)

  • 作者:椎名 誠
  • 発売日: 1998/11/01
  • メディア: 文庫

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