琥珀色の戯言

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【読書感想】かんぽ崩壊 ☆☆☆

かんぽ崩壊 (朝日新書)

かんぽ崩壊 (朝日新書)


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かんぽ崩壊 (朝日新書)

かんぽ崩壊 (朝日新書)

内容(「BOOK」データベースより)
起こるべくして起きた「かんぽ問題」。郵便局の深すぎる病巣にメスを入れる!収束の見えない「かんぽ不適切販売」。顧客は“ゆるキャラ”“半ボケ”呼ばわりされ、局員は地獄のノルマと研修に追い詰められていた。日本郵政NHKに抗議を繰り返すなどして、問題は政治や報道のあり方にも飛び火している。なぜこのようなことになったのか。半年以上にわたる現場取材の集大成をお届けする。


 朝日新聞に掲載された、「かんぽ生命 不適切販売」の一連の報道を大幅に加筆し、まとめたものです。

 「かんぽ生命」の職員(外部委託も含む)が、さまざまな手口で高齢者をだまし、保険に加入させていた、というニュースに、僕は驚きはしませんでしたが、あきれ果ててしまったのです。
「かんぽよ、お前もか」
 過剰なノルマを上層部から押し付けられ、それを達成するために追い詰められた職員は、割高、あるいは不要な商品を自分で買う「自爆営業」を行ったり、認知能力が低下していたり、身体が不自由な高齢者を言いくるめて保険の契約をとるようになっていく。
 そんな現場の状況に目を向けることはなく、かんぽや日本生命の上層部は「書類にサインはしてあるから違法ではない」と言い続けていたのです。

 国の信頼をバックに、人口の2割にあたる約2700万人の顧客を抱えるかんぽ。不正の広がりに、契約者から不安と怒りの声が上がっていた。
「母は郵便局員を信頼し、言われるままに契約した。パートで苦労してためたお金をだまし取るような行為だ」
 保険を売る郵便局員に、北海道内の50代男性は不信の声を上げた。近くに住む80代の母がかんぽの保険の乗り換えで不利益を受けたという。2013年12月、局員の勧めで養老保険を途中解約した。死亡保険金が300万円で、保険料が掛け捨てにならない貯蓄性の保険。同じ保険金額の養老保険に乗り換え、保険料は月3万2000円から3万7000円に増えた。
 母は当時から物忘れがひどく、契約の2年後に認知症と診断された。契約の際には80代の父が同席したが、男性ら他の家族に連絡はなかった。「母も父も(定期の)貯金が満期を迎えたと思った。内容を理解せず契約させられた」と男性は振り返った。

 新潟市の70代男性の自宅には2019年5月下旬、新しい終身保険のパンフレットを手に郵便局員2人が訪れた。
「絶対に有利。今の養老保険から乗り換えませんか」
 男性と妻は養老保険に加入し、保険料は月3万円。乗り換えると旧保険は途中解約となるが、保障内容は充実し、保険料も低めと説明された。しかし、資料をよく見ると、月3万円の保険料は月8万4000円にはね上がる内容。それを問うと、局員はばつの悪そうな表情を浮かべた。
 男性は結局、年金暮らしで払えないと断ったが、「高額な保険はいらないのに勧誘され、おかしな話。お得と信じてだまされる人がいてもおかしくない」と振り返った。


 こういうのが「顧客のプラスになる」と考えて勧めているとは思えないのです。自分の成績を上げるために、言いくるめたり、騙したりしやすい高齢者を狙い撃ちにしているだけ。
 「郵便局員」と言われると、いま40代後半の僕でも、なんとなく「いつもお世話になっている」ような気分になるのです。
 高齢者たちは、「郵便局というブランド」を信頼しがちでもあります。
 かんぽから民間の保険会社に転職した人が「郵便局から来た、というだけで、相手の態度が全然違って、家に上げてくれることも多かった」と、その「アドバンテージ」を取材のなかで述懐していました。

「人生は、夢だらけ」
 かんぽ生命がテレビCMで使ったキャッチコピーだ。郵便局の現場取材を進めると、こんな美しい言葉とはほど遠い「隠語」を数多く耳にした。
ゆるキャラ」「半ぼけ」「甘い客」──。
 郵便局によって違うが、契約を結びやすい一人暮らしの高齢者に対し、こんな呼び方をする局員が一部に存在した。かんぽの新規契約者のほぼ半数は60代以上。高齢者を中心に、郵便局ブランドは絶大な信頼感を持ち続けてきた。局員に頼まれると断れない顧客は多い。自らの預金通帳を警戒感なく局員に見せる人もいる。ノルマに追われ、販売実績を上げるため、高齢者頼みの契約に走る局員がいて、汚い隠語も定着したようだった。

 かんぽが金融庁へ報告した事案には、耳を疑う事例もあった。
 東北地方の90代女性は10年間で54件の保険を契約し、すべて解約していた。勧誘に携わった局員は計27人。1人の高齢者をねらい、局員が入れ代わり立ち代わり契約を取ったようだった。


「人生は、罠だらけ」という感じですよねこれ。
90代女性を狙い撃ちしている事例なんて、押し売りやオレオレ詐欺と同じ。
局員が27人も関わっていながら「組織ぐるみではない」と言われても、納得できるわけがない。
こんなことをして、良心が痛まないのか、と思うのだけれど、当事者にとっては、営業成績で叱責されたり、職を失う可能性があったり、収入が増減したりすれば、「自分が生き延びるため」「生活を維持するため」に良心が吹っ飛んでしまうことは少なくないのです。


 そもそも、かんぽ生命の主力商品である保険そのものが、今は「本当に必要なのか?」と問われることが多いのです。

 こうした無理な営業が生まれたのは、かんぽの厳しい経営環境が一因と言えた。売上高にあたる保険料等収入は2015年度から4年連続で下落していて、18年度は11年度と比べて4割も減り、販売の「反転攻勢」が大きな課題だった。
 日本銀行が2016年2月に導入したマイナス金利政策の影響を少なからず受けていた。主力商品は、養老保険などの貯蓄性保険。満期が来れば支払った保険料に利回りを上乗せした保険金が期待できる。しかし、マイナス金利を機に、同年8月、17年4月と2度にわたって保険料を改定した。顧客に約束する利回り「予定利率」を引き下げたほか、一部の保険を販売停止とした。
 以前は、満期が来れば支払い保険料に上乗せ分も加えた金額が戻ってきた。いまや、かんぽの保険は基本的に、受取額が支払った保険料を下回る「元本割れ」の商品だ。


 金利が高い時代であれば、貯蓄型保険にもそれなりのメリットがあったのですが、現在のような低金利下では、顧客にとっては、「タンス預金のほうがマシ」になってしまっているのです。ネットを使いこなせて、今の経済情勢に詳しい若い人たちは、生命保険でも掛け捨てのものを選択し、手数料や外交員との付き合いの煩わしさを嫌って、ネット生命保険を利用する人が多くなっています。
 かんぽ生命も、保障性タイプの保険を展開しようとしているのですが、なかなかうまくいっていない状況でした。
 かんぽ生命の場合、政府が多くの株式を保有しており、新商品を発売するのもさまざまな認可が必要でフットワークが重くなり、民間保険会社のように時代に即応した商品を出せない、という問題点もあるのです。

 魅力がない商品を、過剰なノルマを達成できるくらい売らなければならない人たちは、結局のところ、こういう詐欺まがいのことをやるしかなかった(というか、「まがい」じゃなくて詐欺ですよねこれ)。
 かんぽ生命は、あまりにも巨大すぎるために、こんな問題が起こってしまったにもかかわらず、なるべく早く保険商品を売るのを再開しようとしています。
 商売となると、なんのかんの言っても「たくさん売ったヤツが偉い」んですよね。それが資本主義というものではある。
 しかも、「その商品の本当の価値を理解している人は、手を出さないようなもの」を売らなければやっていけないとすれば、同じことが繰り返されるだけでしょう。
 
 「高齢者をだましたり、言いくるめないと成り立たない商売」なんて、本当に世の中に必要なのだろうか。
 かんぽ生命は、一度、きちんと崩壊してしまったほうが良いのではないか、と僕は思います。自分がかんぽに加入していたら、そうは言えないだろうけど。


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週刊東洋経済 2019年8/31号 [雑誌](かんぽの闇・金融商品の罠)

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