琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】店長がバカすぎて ☆☆☆

店長がバカすぎて

店長がバカすぎて

  • 作者:早見和真
  • 発売日: 2019/07/13
  • メディア: 単行本

内容紹介
「幸せになりたいから働いているんだ」
谷原京子、28歳。独身。とにかく本が好き。
現在、〈武蔵野書店〉吉祥寺本店の契約社員
山本猛(たける)という名前ばかり勇ましい、「非」敏腕店長の元、
文芸書の担当として、次から次へとトラブルに遭いながらも、
日々忙しく働いている。
あこがれの先輩書店員小柳真理さんの存在が心の支えだ。
そんなある日、小柳さんに、店を辞めることになったと言われ……。


『イノセント・デイズ』『小説王』の
著者が、満を持して放つ
働く全ての人々に捧げる
ノンストップエンターテインメント。
驚愕のラストが待ち受けています。
「リアルすぎます」
「爆笑のち号泣」
「元気が出ました」
「トリックもすごい! 」
『ランティエ』連載時より全国の書店員さんはじめ、話題騒然!


 「ひとり本屋大賞」6冊め。
 頼りない店長と安い給料、きつい仕事にうんざりしながらも奮闘する本好きの書店員さん(契約社員)のお話です。
 
 読んでみると、そこそこ面白いし、ちょっとしたどんでん返しもある、ハートウォーミング・お仕事小説、という感じでした。

 まあでも、率直に言うと、
「失礼ですが、『本屋大賞』を選んでいる書店員さんたち、『書店の仕事に関する本』への評価が甘過ぎませんか?」(『謎解きはディナーのあとで』風に)
とは思います。

 「わざわざ映画館でお金を払って観るとちょっと損したような気分になるけれど、レンタルDVDで観るとちょっと得したような感じがするくらいの面白さの映画」ってあるじゃないですか。
 この『店長がバカすぎて』は、「文庫で読んだら、なかなか良かったな、と思うかもしれない作品」でした。
 「今年の10冊」として、『本屋大賞にノミネートされるほどのことは……」というのが率直な印象です。
 そもそも、こんな本のオビにコメントが使われるような「カリスマ書店員」に、多くの書店員で働いている人たちは共感できるのでしょうか。
 あまりにも「本屋大賞」を狙っているような小説なのに、そこに乗っかって投票してしまう人がいる。
 「書店員さんが選ぶ賞」なんだから、選ぶ人に好まれるような作品で勝負するのはひとつの戦略だ、というのもわかるのですが……

 ただ、この本のなかには、さりげなく、現代の出版界やリアル書店での問題が採りあげられているんですよね。
 「書店員おすすめの本の粗製濫造」とか、歪んだコミュニケーションを求めてくる高齢者クレイマーとか。
 

 一つ目は、昨年の十二月の出来事だ。これはもう<武蔵野書店>に限らず、日本中の書店員の「年末あるある」なのだと思う。どういう理屈か知らないけれど、出版業界最大手の往来館から出ている『レッツゴー奥さま』という雑誌の新年特大号を、全社員が強制的に購入させられるのである。
 いや、どういう理屈か知らない、というのは正しくない。説明するのも辟易するが、一部出版社と書店との間には「報奨金」というシステムが介在するケースがある。
 出版社がどうしても売りたい本や、フェアなどに際し、「1、○○の期間 2、××部以上の注文をしてくれたら 3、一部売り上げにつき△△円、書店に対して『報奨金』をつけさせていただきます」と、特別な条件をつけるシステムだ。
 往来館が『レッツゴー奥さま』にどれだけの報奨金をかけているのか、一介の契約社員である私にはわからない。
 ただ、普通よりいい額で、会社が救われているのは想像に難くない。だからこそ、本部は数多ある雑誌の中で『レッツゴー奥さま』に対してのみ社員にノルマまで課してきて、一冊でも多く売ろうとするのだろう。
 一部1400円の雑誌を、買い入れなければならない具体的な冊数は、正社員が五十冊、契約社員が二十冊、アルバイトが五冊という塩梅だ。
 各自それだけの冊数を買い入れ、自分の友人、知人にお薦めしろというのである。私はそこに労力を割きたくなくて、毎年、アパートの押し入れにぶちこんでいるけれど、小野寺さんは家で目にするのもイヤで、実家マンションの住人にお母さんと配って回っているのだそうだ。むろん、買い取った雑誌をさらに売りさばこうとする心の強い者の存在を私は知らない。


 アマチュア劇団やライブハウスでのバンドの公演などで、メンバーにチケットのノルマがあるというのはよく聞く話です。
 郵便局員が年賀はがきやギフト商品のノルマを課せられ、結果的に自分でその金額を負担する「自爆営業」も、数々の不祥事のなかで知られるようになりました。
 書店でもこういうことをやっていたということに、僕は唖然としてしまったのです。
 劇団やバンドの公演というのは、どうしてもお金がかかるし、有名にならなければ、チケットがそうそう売れるものではなさそうなので、かわいそうだけれど、致し方ない面はあります。好きでやっていることだし、将来への賭け、でもある。
 郵便局はひどい話だけれど、郵便はがきであれば、金券ショップでそれなりの値段で引き取ってもらうことは可能です。
 でも、雑誌って、どうしようもないですよね。
 ただでさえ安い給料でやっている書店員さんたちが、こんな形で、さらに搾取されている。
 Amazon=悪、リアル書店Amazonに追い詰められているなかで、出版文化を守ろうとしている善き人たち、なんてイメージを「リアル書店好き」は持ってしまいがちなのだけれど、ここまでやらないと営業を続けられないのであれば、もう無くなってしまったほうがマシなのではなかろうか。
 図書館の司書さんとかもそうなのですが、優秀な人、本のことを知り尽くしている人でも、「書店員」という枠内にいれば、経済的に恵まれることはない。
「やりがい搾取」だよなあ……リアル書店って。
 読んでいて、そんなことを考えずにはいられませんでした。
 だからといって、売り上げのために、つまらない本に「うずくまって泣きました」とかいうような大仰なPOPをつけて「イチオシ!」とかやられても困るのだけれども。


イノセント・デイズ(新潮文庫)

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