メーター検針員テゲテゲ日記――1件40円、本日250件、10年勤めてクビになりました
- 作者:川島 徹
- 発売日: 2020/06/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
Kindle版もあります。
『交通誘導員ヨレヨレ日記』、『派遣添乗員ヘトヘト日記』に続くシリーズ第三弾!!今回も実話の生々しさ。
【1件40円本日250件、10年勤めて突然クビになりました。】
電気メーターを探し、その指示数をハンディと呼ばれる機器に入力し、「お知らせ票」を印刷して、お客様の郵便受けに投函する。
1件40円。これが電気メーター検針員の仕事である。
つい、手にとってしまうこのシリーズ。
暑い日、寒い日とかはとくに大変そうではあるけれど、けっこう高齢の人もやっているし、単純作業に慣れることができれば、それなりに悪くないのかな……と思われがちな仕事の裏側を現場で働いてきた人が綴っているものです。
fujipon.hatenadiary.com
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この「メーター検針員」の日記の舞台は鹿児島なんですね。同じ九州に住んでいても、鹿児島というのはまた違った文化を持っているのですが、鹿児島出身の大学の先輩のことを思いだしながら読んでいました。
検針のために田舎に行くと、蛇が出てきて、追い払うよう頼まれたり、廃屋に住んでいる高齢者と仲良くなったりと、都会とはまた違った人間関係もありそうです。
その一方で、家に侵入されることを極度にいやがったり、検針の結果を記載した紙がポストから落ちていたとか、植木鉢が倒れていたとか、細かいことでクレームをつけてくる人もいたりして、個人情報保護や他人への警戒心はどこも変わらないのです。そもそも、鹿児島には都市部もあれば田舎もありますし。
数年前、セキュリティ会社の人に「最近はみんな家の固定電話に出なくなったり、携帯電話も知らない番号には応答しなくなった。家を訪問しても返事がないことが多いですね」という話を聞きました。
こういう話を自分が聞いているときは、検針員やセキュリティ会社の人の立場になってしまうのです。
でも、普段の僕からすれば、「検針とはいえ、いちいち家の中に入ってこられるのはめんどくさいし、ちょっと嫌だなあ」と思いますし、「どうせ固定電話にかかってくるのって、勧誘とか、あんまり嬉しくない連絡とかだし」というのが本音です。
ただ、最近は固定電話を持たず、携帯電話(スマートフォン)のみで生活している人も多いので、固定電話と携帯電話の役割分担がなくなったというか、「携帯電話の固定電話化」が進んでいるとも言えそうです。
電気メーターの検針は簡単である。
電気メーターを探し、その指示数をハンディに入力し、「お知らせ票」を印刷し、お客さまの郵便受けに投函する。1件40円。
件数次第で、お昼すぎに終わることもあれば、夕方までかかることもある。仕事は簡単なので、計器番号などの小さな数字を読み取れる視力があり、体力があれば、だれにでもできる。
しかし、雨の日も、台風の日も、雪の日も、そして暑い日も、寒い日もある。放し飼いの犬もいれば、いらいらした若い男も、ヒステリックな奥さんもいる。
私は50歳からの10年間を電気メーター検針員としてすごした。その経験を書いたのがこの本である。
1件40円は安いけれど、メーターの数字を読んでハンディという機械に入力し、プリントしてポストに入れるだけの簡単なお仕事ではあるな、と思いきや、メーターの場所がわかりにくかったり、近づきづらい場所にあったり、数字が読みにくかったりして、一筋縄ではいかないのです。
小型の双眼鏡も七つ道具のひとつ。
中学生のころ、テレビで「コンバット」という戦争ドラマを観たことがあったが、その中の双眼鏡を使う場面があまりに格好良くて、双眼鏡が欲しくてたまらなかった。検針の仕事で使い始めてこんなやっかいなものはないと思った。
ショルダーバッグの中でかさばり、結構重い。そして計器番号や指示数の小さな数字にレンズを合わせ焦点を合わせるのが難しい。バイクで走り回っていた手は腱鞘炎状態で震える。冬場は寒さに体と指先が震える。
雨の日は最悪である。双眼鏡のレンズが濡れる、曇る、電気メーターのガラスが濡れている。雨滴がついていると8は3になり、6は8になり、7は1になり、9は7になる。もう無茶苦茶なのだ。
何度、えい、やっ、とばかりに検針したことか。
そして雨の日は薄暗い。
そこで500ルーメンの強力な小型ライトを使うのであるが、それがたいへんなことなのだ。双眼鏡と小型のライトを一緒に使わなければならないときは手が足りなくなるのだ。
両方を電気メーターの小さな数字に合わせるのである。もしその計器のガラスに雨滴がついていようものならお手上げである。そのときは、えい、やっ、でやるしかない。
通常はハンディの計器番号を読みとり、電気メーターの計器番号を読みとって、指示数を読みとり、ハンディに入力し、再度電気メーターの指示数を確認して、そして「お知らせ票」を印刷しなければならない。
これが「時間帯別昼夜間メーター」であれば、指示数は3種類あり、もう最悪となる。デイ・リビング・ナイトという3種類の指示数がたしか5秒置きに表示されるのであるが、それを双眼鏡と小型のライトを使って読み取り、デイ、リビング、ナイトの種類ごとに入力し、印刷し、再度、確認をしなければならないのだ。
しかも、最初の入力はデイの指示数からしかできないので、その指示数を見逃すと、リビング、ナイトのあとに再びデイが表示されるのを待たなければならない。それが15秒くらいかかる。イライラさせられる。
1日の検針件数は200から400件くらいあるそうなので、15秒のロスでも積み重なれば大きいのです。そもそも、1日に200件って、10時間働くとしても、1時間に20件……検針先がマンションやアパートばかりならともかく、すごいハードスケジュールです。
さらに、この本を読んでいると、著者たちは会社から、無理難題を押し付けられ、かなりひどい扱いを受けていて、所属している下請けの検針会社は、その業務を依頼している九州最大の電力会社(Q州電力だと思われます)から、理不尽な要求をされ続けているのです。
それぞれが、現場を知ることもなく、いかにして自分が責任を取らないか、体裁よく見せるか、に腐心しているのです。
中小企業が日本のイノベーションを起こしてきた、なんていうけれど、こういう状況を考えると、「中小企業の多さが、日本の経済を停滞させているのだから、新型コロナウイルスの影響で潰れるくらい体力のないところはそのまま潰して、大企業中心に再編したほうがいい」という意見にも、一理あるように思います。
この『メーター検針員テゲテゲ日記』を読むと、「けっこう大変な仕事なんだなあ」と思うのと同時に、「でも、ここに書いてあるトラブルの大部分は、スマートメーター(電気の使用量を自動的に電波で飛ばして30分おきに電力会社に送信するメーター)の導入で解消されるんだよな。検針員たちの仕事はなくなってしまうけど……」と思ったんですよ。
電気利用者の側としては、いちいち人と接触しなくて済むほうが気楽で良いので、「スマートメーターのほうが便利」なんですよ。
こうして、多くの人間の仕事はなくなっていくのでしょうね。
そして、この原稿を書いている2020年現在、スマートメーターの設置は半分以上進み、70人あまりいた錦江サービス興業の検針員は3分の1くらいになっているということだった。
この本のなかで、著者自身も、周りの検針員たちも、「スマートメーターができても、検針員は絶対に必要な仕事なんだ」と、言うことがなかったのが心に残りました。