琥珀色の戯言

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【読書感想】老後レス社会 死ぬまで働かないと生活できない時代 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

老後レス社会

老後レス社会

待ち受けるのは暗黒の未来か――今から19年後、日本の人口は65歳以上の高齢者35%を占めると推計されている。社会保障費が増大する一方で、労働力不足は深刻化。それが「2040年問題」だ。政府は「一億総活躍」と称し、高齢者の就労促進を謳うが、そこには公的支援を抑えようとする意図が透けて見える。70歳を過ぎてもハローワークに並ぶ。もはや「悠々自適の老後」はなくなった。死ぬまで働かなければ生きていけない「老後レス社会」が到来する。未来の日本はディストピア(暗黒の世界)なのか。朝日新聞本紙と朝日新聞デジタルで好評を博したシリーズに、新たな取材による加筆を全面的に施し、「老後のなくなった日本の現実」と、避けられない未来をどう生きるかを考える。高齢者はもちろん、高齢者予備軍必読の1冊!


 僕も40代を終えようとしていますので、「老後」という言葉も意識せざるをえなくなってきました。いつのまにかこんなに年を重ねてしまったなあ、本人はそんなに成熟したとも思えないのに、健診の項目が増え、老眼がひどくなり……というのが実感ではあります。

 僕が子どもの頃の「老後」のイメージは、定年退職後は、年金をもらって盆栽や釣りをやり、ときどき孫の世話をしつつ、のんびり暮らす、というものだったのですが、いまや、「悠々自適の老後」なんてものは幻想になってしまっているのです。
 
 老々介護や介護離職などの問題はかなり前からメディアでも採りあげられてきたのですが、60代から70代半ばくらいまでの「身体は元気な高齢者」たちも、ほとんどの人が、優雅な年金暮らしなどはできていない現状が、この新書では紹介されているのです。


 この本の最初の章では、70代で警備員として働いている人たちが出てきます。

 街中の工事現場でよく見かけるように、高齢者が警備員に占める割合は驚くほど高い。そしてその割合は年々、上昇し続けている。
 警察庁が毎年発表する「警備業の概況」によると、2019年末時点で全国57万人の警備員のうち60歳以上は45%、増えているのは70歳以上で全体の15%を占め、7人に1人以上にあたる。
 工事やイベントで道路使用許可を警察から得るためには、一定数の警備員配置が不可欠だ。申請する際には、道路規制図を添えて、警備員の配置を書き込む。安全が確保される人数が配置されないと許可が出ない。もし後から配置されていないのが見つかると、施工業者が処分される。
 こうして生まれる雇用が「年金の足しに」などの理由で働く団塊世代の生活を支える構図が浮かぶ。


 たしかに、道路工事や駐車場の誘導などで働いている警備員さんをみると、「けっこう高齢みたいだけど、こんなに暑い(寒い)のに、ずっと立ちっぱなしの仕事で大変だなあ……」と思うことがよくあるのです。
 以前は、若者のアルバイトが多かった記憶があるのですが、いまは、高齢者が半分近くを占めています。しかも、70代以降が増えてきているのだとか。

 高齢警備員の取材を通して、人生の終盤にさしかかっても働き続けている人、いや、働かなくては生きていけない人が、いまの日本には大勢いるという現実が見えてきた。
 厚生労働省によると、2019年度にハローワークで新たに登録した65歳以上の求職者は約59万人に上り、10年前(2009年度)の約32万人の1.9倍近くになった。また、労働政策研究・研修機構の調査(2015年発表)では、「60代が働いた最も主要な理由」は「経済上の理由」が最も多く、約58.8%を占めた。


 このようなデータをみると、「老後のための2000万円の貯蓄が必要」とか夢物語に思えてきます。
 ただ、当事者たちへの取材からは、あまり悲観すべきことばかりではないのかな、という感じもするんですよね。
 もちろん、60歳で仕事を引退して、あとは年金で好きなことをして暮らすことができる社会であれば言うことはないのだけれど、いまの60代には健康状態が良い人が多いですし、仕事をして社会とつながり、お金を稼ぐことに生き甲斐を感じてもいるのです。
 
 現実問題として、日本の一層の高齢化は避けられず、働き手が不足していくのだから、元気で働ける60代から70代前半くらいの高齢者には、どんどんできる仕事をやってもらったほうが良いのかもしれません。

 会社で偉かった人などは、立場の違いに戸惑ったり、プライドを捨てられなかったりして難しいところもあるようですが、「仕事をして稼ぐ」ことに前向きな高齢者もけっこう増えているのです。

 若者の負担ばかりが増していくよりは、働ける高齢者もできる仕事をしていくほうが、どちらの世代にとっても幸福ではなかろうか。
 そもそも、日本人の(あるいは人類の)歴史において、「悠々自適な老後」なんていうものが存在していた(かもしれない)のは、それこそ『サザエさん』の時代くらいのもので、太平洋戦争くらいまでは多くの人が「老いる」までに寿命が尽きていたわけですし。


 この本のなかでとくに印象に残ったのは、「会社の妖精さん」の話でした。

 東京都内の居酒屋で、記者(35)が学生時代の友人(33)と飲んでいた時の話だ。
 友人は新卒で入社したメーカーを数年前に辞めた。日本を代表する名の知れた大手企業で、給与水準も高く、福利厚生も整い、有給取得率もきわめて高い。はっきり言って「ホワイト企業」。仮に景気が大きく落ち込んで日本の多くの製造業が苦境に陥ったとしても、きっとこの会社は最後まで生き残るだろう、という会社だ。実際、2020年度にコロナ禍で多くの企業が赤字に転落する中でも、減益ながら黒字をしっかり確保している。そんな条件の良い会社をなぜ辞めたのか。友人はいくつかの理由を言ってから、不思議な言葉を口にした。
「会社に『朝の妖精さん』がたくさんいたことも理由の一つかな」
 朝の妖精さん? どういうこと? というか、妖精ってそもそもなんだっけ?
 辞書を引くと、「(西洋の伝説・童話などに出て来る)動植物や森・湖など自然物の精。たいていは小人の姿をしたもの。フェアリー」(『新明解国語辞典』第五版)とある。
 フェアリー! 大手メーカーにフェアリー?
 後日、友人が提案してくれた。「もし妖精さんのことを詳しく聞きたいなら、名付け親を紹介しましょうか」。ちょうど企業での「働き方改革」をリサーチしていたところだった。いま取材している「老後レス」にもぴったりな話だという。ぜひ、ぜひ、お願いします。

 それから半月後、都内の喫茶店で「名付け親」の女性(34)に話が聞けた。
 この女性も、同じメーカーに勤務していたが、「妖精さん」に嫌気がさして退社したという。いったい妖精さんとは何だ。
 女性によると、妖精さんが生息するのはこのメーカーの関東地方の拠点。運が良ければというよりも、目をこらせば身近にいる存在だった。早朝の食堂に現れ、午前9時には姿を消してしまうという。
「フレックスタイムをフル活用して朝7時前には出社し、タイムカードを切って食堂に移動。コンビニで買った朝ごはんを食べたり、スポーツ新聞を読んだりして1~2時間ゆったり過ごす。他の社員が出社する9時が近づくと、静かに自席に戻っていく。朝の数時間しか姿を見ることができないので、妖精さん
 そう、妖精さんとは、このメーカーに勤める「50代後半の働かないおじさん」だった。

 女性によると、自席に戻った妖精さんは、管理職の一歩手前で「エア残業」し、パソコン操作は「人さし指だけの一本指打法」、上司も彼らに積極的に仕事を振らないため「日中はパソコンの前でフリーズ」。この拠点にはこうした50代後半の男性社員が多く、「毎月のように送別会が開かれていた」。
 想像とは違い、あまり好まれる存在ではないらしい。いやむしろ、疎まれている。


 たぶん、この「妖精さん」の話に受ける印象は、年齢や世代によってけっこう違うと思うのです。
 僕はこれを読んで、以前勤めていた病院で起こった、こんな話を思い出したのです。


fujipon.hatenablog.com

 
 若手・中堅にとっては、「きつい仕事を分担してくれるわけでもなく、暇そうにしているのに地位や給料は上の高齢の同僚」というのは、モチベーションが下がる存在なんですよね。
 ただ、高齢者の側にも言い分はあって、「自分たちが若いころはもっとキツイ仕事をやっていた」「長年ここで働いてきたのだから、もう『卒業』でも良いだろう」「こちらにも家族や生活がある」のです。

 その言い分は、それなりに合理的ではあるのでしょうが、若手からすれば、「自分たちがずっとこの会社にいて、50代後半になったときに、同じように『妖精さん』として良い待遇を得られるとは思えない」というのが実感なのです。
 若者たちは、「将来のために、いまは我慢しろ」という言葉に、説得力がない時代を生きています。


 ある食品メーカーに勤めている男性の話。

 この会社では、入社時に配属された部署で、「永遠に生きていく」らしい。となると、「押印のやり方とか、上司の決裁の取り方とか、どうでもいい謎ルールが脈々と受け継がれていく。結果としてマジメに仕事しているのに生産性を大きく下げることになっている。部署内の上下関係も明確で、年次を超えた役職の逆転は少ない」。
 そうして40代半ばを超えると、下手に頑張って仕事がたっぷり振られたら損した気分になり、働き方にも変化が出てくる。
「サボってもクビを切られるわけではない。そういえば自分はすでに管理職で、ヒラ社員に降格されることもない。だったら、言われた範囲の仕事を失敗しないようにたっておこう。下手に動くと損だ、という発想になっているんです」
 ある意味でサラリーマン人生への達観、悟り、いや、諦めなのか。さらに男性が言葉を継いだ。
「そうして言われるた仕事だけを失敗しないように過ごして50代を迎えたいま、彼らは『頑張ること』自体を忘れてしまいました。パソコンのスキルも、新しい仕事のやり方も、いまから走っても若い人には追いつけない。できないからやらないし、やらないからますますできない。リテラシーとか、そういう問題ではありません。ただの悪循環です」


 うーむ、苛立つ若者の気持ちもわかるけれど、「この年齢になって、リモートワークとかやらなきゃいけないのか……」と困惑する50代もつらいですよね……


 新型コロナは、これまでの仕事の評価基準を変えてしまってもいるのです。

 通訳業務を請け負う会社「エム・アンド・パートナーズ インターナショナル」の桃原則子社長(61)からこんな話を聞いた。
「コロナは『優秀な通訳』の定義を変えてしまいました」
 新型コロナウイルスの感染拡大後、実際に人が集まって開かれる会議や記者会見は次々に中止・延期になり、代わりにテレビ電話システムを使って通訳する仕事が増えた。そうなると、自宅を拠点に一人で通訳することになる。通訳としての能力に加え、音質の調整や通信トラブルに自力で対処できることが、通訳に期待される重要な能力・指標になったという。
「どんなに通訳としての能力が高くても、ITの運用面に不安がある人に仕事は依頼しにくい。それまでの通訳は例えば、会議場の通訳ブースに座り、音声の調整などはエンジニアがやってくれていた。様変わりしました。会社としては、通訳サービス付きのウェブ会議システムの使い方をアドバイスできることが強みになる。経営にも影響を与えている」


 「リモートワーク」には、こういう影響もあったのです。
 どんなに通訳として優秀でも、IT音痴で会議ソフトが使えないと、仕事がもらえない。
 
 結局のところ、「高齢になっても、自分を高め、アップデートしていき続けるしか、生き残る方法はない」のですが、年を重ねるにつれ、「新しいことに興味を持って適応していく」というのがつらくなっていくのを僕も実感していくのです。
 人は、「老害」や「妖精さん」になろうとしてなるわけじゃない。
 むしろ、よほど意識しないと、なってしまうのが自然なのです。
 「妖精さん」にならないためには、かなりの努力と意欲が必要です。
 いや、もしかしたら、僕もすでに「妖精さん」になっているのだろうか……

 これを「老後も働かなくてはならない、きつい社会」だとネガティブに考えるか、「高齢になっても、働くことで世の中に関わっていける社会」だとポジティブに捉えるか。

 本当は、リタイアするか働き続けるか、好きなほうを選べるのがベストなんでしょうけど、それはもう、無理みたいです。


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