琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】この本を盗む者は ☆☆☆

この本を盗む者は

この本を盗む者は


Kindle版もあります。

【2021年本屋大賞ノミネート作品】少女たちは本の世界を冒険する

2021年本屋大賞ノミネート作品
「キノベス!2021」第3位

「ああ、読まなければよかった! これだから本は嫌いなのに!」
書物の蒐集家を曾祖父に持つ高校生の深冬。父は巨大な書庫「御倉館」の管理人を務めるが、深冬は本が好きではない。ある日、御倉館から蔵書が盗まれ、父の代わりに館を訪れていた深冬は残されたメッセージを目にする。
“この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる”
本の呪いが発動し、街は侵食されるように物語の世界に姿を変えていく。泥棒を捕まえない限り世界が元に戻らないと知った深冬は、探偵が銃を手に陰謀に挑む話や、銀色の巨大な獣を巡る話など、様々な本の世界を冒険していく。やがて彼女自身にも変化が訪れて――。

「呪われて、読む。そして書く――私たちは!」
森見登美彦氏 推薦!


 『2021年ひとり本屋大賞』5冊目。

 うーむ、『猫の恩返し』と『千と千尋の神隠し』を足して、2で割ったような作品だな、と読み終えて思いました。
 まあ、「女の子が主人公の幻想(的な)文学作品」というのは、なんでも「ジブリっぽく感じる」のかもしれませんが。

 深緑野分さんの作品、僕はミステリ系の、これでもか、とばかりに史料やディテールにこだわったものしか読んだことがなかったので、ちょっと戸惑いもありました。
 50歳近いおっさんが読むには、ちょっとファンタジーすぎる。中学生、あるいは高校生くらい、主人公の深冬と同じくらいの年齢のときに読んでいたら、この世界にはまれていたのかな、とも思います。

 でも、高校時代の僕は、歴史やSF、ミステリばかり読んでいて、恋愛小説や幻想文学は苦手というか嫌いだったんですよね……今から考えると、若い頃にはちゃんと「世界の名作」、トルストイとかスタンダールとか、夏目漱石森鴎外、あるいはガルシア=マルケスなどを一生懸命読んでおけばよかった、と後悔しています。
 当時は、そういう本は、カビくさくて、読みたくないなあ、って、なぜか意地になっていたのです。
 そのわりには、『史記』とかを通読していて。
 思えば、歴史書とかのほうが、よっぽど「カビくさい」はずなのに。

 この本、『本屋大賞』にノミネートされていたので手に取ってみたのですが、正直なところ、「本や読書がテーマの本」を、書店員さんたちが持ち上げるのって、気持ちはわかるけど、身内びいきみたいでイヤだなあ、って思うのです。
 「映画についての映画」がアカデミー賞を受賞するのと同じような、「内輪びいき感」とでも言えば良いのだろうか。

 この作品の場合は、読んでみると、「本は、読書は素晴らしい!」というよりは、本の魅力とともに、本に取り憑かれてしまう怖さ、みたいなものも描かれてはいるのです。
 そして、この良く言えば幻想的、悪く言えば非現実的な物語の世界を愉しめるのは、「本や想像の世界が大好きな人」だけなのではなかろうか。
 ミステリなのかと言われれば、密室殺人だと思っていたら、「家の屋根が外れる仕掛けになっていて、クレーンで吊り上げていた」みたいな話なんですよ。

 読む人、愉しめる人を選ぶ作品だと思います。
 僕もこんなことばかり書いていますが、読んでいない本が手元に3冊くらいないと落ち着かない人間なので(あらためて考えてみると、いつでも新しい本を買えるKindleって本当にすごいですよね。惜しむらくは、僕が生まれたときから存在してくれなかったことです)、作者の「本への愛憎」は読み取れたつもりです。
 本好きって、「本があってよかった」と、「本ばかり読んでいても、世の中はわからないことだらけだ」の間をたゆたっている生物なのです。
 本は好きだけど、本が好きな自分はあんまり好きじゃない。

 ……なんだかこの本の感想じゃなくなっているのですが、感想を書きにくいし、ネタバレするのも申し訳ない。
 ただ、ここまで延々と書いてきた僕のこの愚痴っぽい文章を「なんかわかるような気がする」人は、この本を好きになれる可能性が高いのではないかなあ。

 「内容紹介」に、森見登美彦さんの推薦のことばが書かれていたのですが、読んだ感触としては、森見さんの『熱帯』に近いものがありました。あれは本当に、「なんだかスケール感の大きさだけが残る壮大な実験作、そしてたぶん失敗作」で、これが『本屋大賞』にノミネートされるって、書店員さんたちって、作品というより森見さんのファンなだけなのでは?と僕は思ったんですよ。


fujipon.hatenadiary.com


 こういう作品って、「最後まで読んだ自分を褒めてあげたい」という感情が「本当はすごい作品なのではないか」という錯覚が生み出されやすくもあるのです。
 僕はこれを「トルストイ症候群」と自分では名づけています。いや、ものすごいんだけど、トルストイは。
 僕の脳には負荷が大きすぎるだけで。


 というわけで、「好きな人はたまらないでしょうね、この作品!」と、食レポで万人向けとは言えない微妙な味に困った場合に便利なフレーズを使わせていただいで、終わりにします。変な感想を読ませてしまって申し訳ない。


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